〔広報誌2021年11月号掲載〕
中小企業における安全配慮義務①
職場でのパワーハラスメント防止対策
2019年5月、職場でのパワハラ防止を義務付ける「改正労働施策総合推進法」(いわゆる「パワハラ防止法」)が成立しました。すでに2020年6月から大企業においては適用されていますが、
2022年4月1日からは中小企業にも適用範囲が広がり、パワハラ防止への措置が義務化されます。今回は改めて職場におけるパワハラ防止対策の重要性について、企業のハラスメント問題を多く手がける弁護士の向井蘭氏に伺いました。
監修:向井蘭氏
杜若経営法律事務所弁護士。労働法務を専門とし、団体交渉対応から解雇未払い残業代等の個別労使紛争まで取り扱う。著書に『管理職のためのハラスメント予防&対応ブック』(ダイヤモンド社)など。
パワハラで使用者賠償責任を問われることも
近年大きな労働問題の一つとなっているのが、職場でのハラスメントです。厚生労働省が全国の企業・団体、労働者を対象に行った「職場のハラスメントに関する実態調査( 2021年3月)」によると、
過去3年間に勤務先で1度以上パワハラを経験したと回答した従業員は31.4%にのぼりました。パワハラが職場や企業に与える影響は大きく(下グラフ)、職場環境が悪化して働く意欲が低下し、生産性が低下するという負のスパイラルに陥る恐れがあります。「パワハラのある会社は最終的に信用を失い、人の集まらない会社になります」と向井氏。経営者は使用者賠償責任を問われることも起こり得ます。
パワーハラスメントが職場や企業に与える影響
課題は「無自覚パワハラ」
パワハラ防止法の施行で、企業は具体的には下の「事業主が講じるべき措置」が求められます。「うちの会社はパワハラがないから措置も必要ない」と考える経営者も多いかもしれません。しかし「パワハラが怖いのは、
行為者に自覚のない『無自覚パワハラ』というべきものが多く、実績のある優秀な社員がパワハラをしているケースもよくある」と向井氏は指摘します。では、パワハラはどんな行為を指すのでしょうか。パワハラ防止法が定める「パワハラの定義」(下記)のうち、特にポイントとなるのが項目2です。「
業務上必要かつ相当な範囲を『超えているか、いないか』を正しく理解することが重要。わかりやすい例を挙げると、もし家族・身内がされたら『とても許せない』と思うような指導はパワハラにあたる可能性は高いです」(向井氏)。
パワハラに当たらないケース
安全帯をしないで高所で作業をしている社員を上司が怒鳴って叱責。
パワハラに当たるケース
些細な誤字脱字について1時間以上怒鳴り続けた。
パワハラ防止法のポイント
職場におけるパワハラの定義(3要素)
1、優越的な関係を背景とした言動
2、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3、労働者の就業環境が害されるもの
1、2、3すべてを満たすもの
事業主が講じるべき措置
- パワハラ防止規定をつくる
・パワハラ(具体的に明記)禁止の方針を明確化
・厳正に対処する旨の方針・対処の内容を規定
- 相談窓口をつくる
・相談窓口を設置し、従業員に周知
・相談窓口担当者への教育、サポートを行う
・匿名での職場環境アンケートも有効
- 管理職・従業員研修を行う
・パワハラへの関心と理解を深める
・研修には経営者もぜひ参加を
あなたも知らず知らずのうちにパワハラ加害者になっているかも…
まずは自己チェックから
向井氏より
パワハラの怖さは、行為者の多くが無自覚に行っているところにあります。「適切な指導」と思ってしたことが、パワハラに当てはまるということもあるかもしれません。無自覚パワハラを起こさないためにも、チェックリストを職場での社員教育の入り口としてご活用ください。なお、WEBセミナーでは各項目の解説をしていますので、あわせてご覧ください。
30項目で自己診断
職場環境チェックリスト
過去1年間に起きた出来事や自らに当てはまる項目にチェックしてください。
チェックの数
- 1〜4/パワハラをしている可能性は低いです。
- 5〜9/黄色信号。時々パワハラ的言動をしている恐れが。
- 10〜14/赤信号。パワハラ的言動を無自覚に行っています。
- 15以上/アウト。パワハラ行為を行っています。
- 0の場合/部下に対して何も指導していない恐れが。
会員限定セミナー(WEB配信) 事前申込み不要・受講料無料
「弁護士による【中小企業向け】上司や管理職に自覚を促す パワハラ防止法対策」
向井蘭氏によるセミナーをWEBで配信いたします。企業において「ハラスメント対策がなぜ必要か」「業務上の指導とパワハラの線引き」などについてわかりやすくお伝えするほか、上記の「職場環境チェックリスト」の解説もあります。職場の社員教育などにぜひお役立てください。
会員限定セミナー(WEB配信)
■配信期間/11月1日(月)10時〜2022年3月31日(木)※期間中は何度でも視聴可能
■視聴時間/約60分
※視聴には会員番号が必要です。会員番号は「会員証兼保険証券」または「会員証兼保険契約更新証」でご確認ください。