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SDGsで広がる中小企業の成長戦略

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〔広報誌2021年7・8月合併号掲載 特集〕





SDGsで広がる中小企業の成長戦略


コロナ禍で人々の価値観が変わり、持続可能な社会の実現に向けた動きが潮流となりつつあります。このような中で、経済界で注目を集めるキーワードが、「SDGs」です。今回は中小企業のSDGsの促進に数多く取り組んでいる村尾隆介氏に、SDGsの必要性と、中小企業が取り組む意義について伺いました。







ブランド戦略コンサルタント
村尾隆介氏(むらお・りゅうすけ)

小さな会社のブランド戦略の専門家。中小企業のブランド戦略ブームを起こしたブランディングの第一人者。企業だけでなく自治体ブランディングも手がける。企業CMの脚本・演出家としても多くの映像作品を生み出している。『今日からできる! 小さな会社のSDGs』(青春出版社)など著書多数。





SDGsへの企業の取組みが求められている


SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals)」の略称です。2030年までに持続可能なよりよい世界を実現する「世界共通の目標」として、2015年の国連総会で採択されました。具体的には経済、社会、環境にかかわる分野で「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「気候変動に具体的な対策を」など17の目標(ゴール)が設定され(上のロゴ参照)、世界的に取組みが進められています。
その背景には気候変動、格差の拡大など、世界に共通する課題への危機意識の高まりがあります。日本でも2050年までの脱炭素実現、労働人口減少などの課題があり、SDGsへの流れは加速していくでしょう。
「こうした世界的潮流の中で、中小企業もSDGsの課題解決のため積極的に取り組むことが求められている」と話すのは日本全国の中小企業のコンサルティングに携わっている村尾氏。
中小企業の経営者や社員もSDGsについて理解を深め、どんな取組みができるかを考え始めるべき時だといえるでしょう。





SDGsは中小企業の企業価値を高めるチャンス!


企業にとってSDGsは、経営資源(自然、人的資源、社会資源)を守り持続的に成長、発展するための戦略の一つと考えられます。さらに今後、SDGsは社会貢献の一つとして欠かせないものになるとともに、「中小企業にとって企業価値を高める大きなチャンスになる」と村尾氏は指摘します。
例えば、対外的な面では、いまの学生はSDGsに積極的な企業を信頼し高く評価するため、多様な人材確保につながります。また取引先からもSDGsへの対応が求められるようになってきています。さらに近年はSDGsに取り組む企業を支持する消費者が増えつつあり、企業価値が高まることで安売り競争から脱却することができるのです。
また、社内的なメリットも期待できます。SDGsの活動に社員全員で参加し、地域の課題解決に貢献することで一体感が生まれ、会社の風通しもよくなります。
「仕事以外で社会と接点を持つことで、社員が人間的に成長したというケースもよく聞きます」と村尾氏。このようにSDGsへの取組みは中小企業に多くの好循環をもたらすのです。

中小企業がSDGsに取り組むメリット






SDGsに取り組むための5つのステップ


具体的にどのように社内で検討し、取り組んでいけばいいのか、ステップごとに主なポイントをまとめました。

中小企業の強みは、社長がイニシアチブをとって自ら語りかけることで社員のコンセンサスを得やすいこと、会社の事業内容からテーマを絞り込みやすいこと。強みを生かして、自社らしいSDGsを考えてみましょう。


Step 1 SDGsを理解する

SDGsとは何か、中小企業でSDGsへの取組みがなぜ必要なのか、勉強会を開きましょう。

ポイント
経営者をはじめ、社員全員で、SDGsは企業活動を行ううえでどのような意味を持つのか、自社の経営理念と照らし合わせながら解釈してみましょう。
17の目標のロゴを社内に掲示するのもおすすめ。社員全員のSDGsへの関心や興味を高めることに役立ちます。

Step 2 優先課題を決定する


事業内容や地域における課題をSDGsとひも付け、17の目標から取り組む課題を決めましょう。

ポイント
「事業で社会に迷惑をかけてはいないか」「貧困、教育など地域が抱える課題に貢献できないか」など、まずは足元の課題に着目するとよいでしょう。
旅でお世話になった国からの留学生を支援するなど、経営者や社員の個人的エピソードが出発点でも構いません。

Step 3 目標を設定する


何に取り組むのかを検討し、活動の目的、内容、目標、担当部署を決め、行動計画を作成しましょう。

ポイント
例えば「安全な水を供給するため、途上国に井戸を掘る活動を支援する」など、17の目標をブレイクダウンした169のターゲットも参考にしながら、より具体的な目標を設定しましょう。
11月の「オレンジリボン運動」(子どもの虐待防止)、2月の「ピンクシャツデー運動」(いじめ反対)など、既存の社会運動を目標にしてもいいでしょう。運動のシンボルカラーを社員全員が身に着けることでも運動への賛同表明になります。

Step 4 経営的な視点で検討する


活動によるメリットを検討するとともに、会社内の行動に矛盾がないかをチェックしましょう。

ポイント
「ジェンダー平等」をうたっているのに会社内でハラスメントが放置されている、環境保護のイベントを行うためにゴミが出てしまう、SDGsの活動のために残業が増えるなど、プランに矛盾がないかを確認しましょう。
社内での共感を生み出せるよう、活動内容について社員に周知しましょう。

Step 5 社会に向けて効果的に情報発信する


SNSで発信するなど、地域や取引先に向けた効果的な情報発信の方法を検討しましょう。

ポイント
SDGsの活動を開始したら、社会に向けた定期的な報告やコミュニケーションが大切です。SDGsに取り組む社会的責任を発信しましょう。
社員や地域に活動を浸透させるにはネーミングも大事。活動にはわかりやすくて楽しそうな名前をつけましょう。



もっと知りたいSDGs Q&A

Q 17の目標はどう決められた?
A 17の目標の下には、さらに詳細な169のターゲットがあります。これらは国連が数年をかけて世界中でヒアリングし、およそ1,000万人にオンライン調査をしてまとめられたものです。

Q SDGsに取り組むにあたり、資格、申請は必要?
A 特別な資格はありません。ISOのような認証制度ではないので、申請も不要です。誰でも、自由にSDGsに取り組めます。

Q CSRとSDGsの違いは?
A CSRは企業が独自に取り組む社会・環境的貢献活動を意味します。SDGsは持続可能な開発ができることを目指して国連が定めた世界共通の目標で、企業だけでなく自治体、各種機関・団体から個人まで、誰もが取り組むことができます。

Q 日本が特に力を入れるべき課題は?
A 2020年のSDGs達成度世界ランキングで、日本は「貧困と格差」「ジェンダー平等」「化石燃料の大量消費」「生物多様性」「公正な資金の流れ」の5つが「重要な課題」として改善が求められています。



中小企業のSDGs取組み事例

CASE1 地元の海を守る、定期的なビーチクリーン活動「ワンダフルCHITA(チタ)」




株式会社ワンダフルライフ(愛知県常滑市)
業種・事業内容/美容商材卸、美容室経営
従業員数/7名
取組みの背景とプロセス
ヘアサロンの経営と美容商材の卸売をする同社。「地域社会に貢献したい」という思いを出発点に、「ヘアサロンでは大量に水を使用して環境に負荷をかけている。水に関連する貢献をしよう」と考えた。地元の知多半島の海は「水が汚い海水浴場ランキング2020」(※)でワースト10入りしていたことから、ビーチクリーン活動を定期的に行う取組みを2020年に始めた。
※ダイヤモンドオンライン2020.8.6「水が汚い海水浴場ランキング2020」



「ワンダフルCHITA」の告知のチラシ。




子どもたちに海を守ることの大切さを伝える絵本も作成。

具体的な活動と成果
社員とその家族で行っていた海岸のゴミ拾い活動を、2021年からは「ワンダフルCHITA」と名付けリニューアル。一般市民にも参加を募り、今後は楽しみながらビーチクリーン活動に参加できるイベントを展開していく予定。イベントはチラシで告知するほか、フェイスブックの「Wonderful CHITA」というアカウントでも活動内容を紹介している。同社はこの活動以外にも、SDGsにまつわるさまざまな活動を行っており、これらの活動を通じて社員の一体感が高まったほか、地域への感謝の気持ちや連帯感が育っている。



ビーチクリーン活動用におそろいのジャケットを用意。テント、参加賞品などもすべてチーター柄(知多の語呂合わせ)でデザイン。活動後には動物と触れ合う時間を設け、子どもたちも楽しめる活動に。


ポイント

小さなヘアサロンが起こした活動に顧客が賛同し、協力会社も利害関係なく参加しています。イベントをきっかけにつながった法人も。「ワンダフルCHITA」の活動がなければ起こり得なかったことです。




CASE2 使わなくなったランドセルを必要とする子どもたちへ贈る「ランドセル FOR ALL(フォーオール)」




流通株式会社(鳥取県倉吉市)
業種・事業内容/運送事業
従業員数/110名(パート・アルバイト49名含む)
取組みの背景とプロセス
運送業を中心に引っ越しや片付けサービスなどを展開する同社。社員が仕事をしている中で、使われなくなったランドセルが多くの家で放置されていることに気付いた。そこで2020年、経済的理由などでランドセルを購入できない子どもたちのために「ランドセルFOR ALL」を発案した。

具体的な活動と成果
県内4ヵ所にある同社の事業所や協力施設10ヵ所以上に回収ボックスを設置し、SNSなどでもランドセルの寄付を呼びかけたところ、約200個のランドセルが集まった。
譲渡先の募集も行い、鳥取県内や近県に暮らす外国人家庭を中心に贈ることに。社員がメンテナンスしてきれいにした後、同社の倉庫で数回の譲渡会を実施し、子どもたち自身が実際に背負って好きなランドセルを選んだ。「ランドセルFOR ALL」はテレビや地方紙などのメディアでもたびたび紹介され、大きな反響を呼んだ。



譲渡会で子どもとその家族と一緒に。ランドセルには譲った人からのメッセージが書かれたタグが付けられ、子どもたちが書いたサンキューカードはランドセルを譲った人に届けられた。活動が地方紙に取り上げられ、会社の知名度も大きく上がった。


ポイント

鳥取県内のみならず、全国各地の外国人支援団体と提携して、今後も外国籍の小学1年生を笑顔にしていってほしいです。外国の方に日本を好きになってもらうという大事な使命を担っている自覚を持ち、毎シーズン進化を!




CASE3 働きがいのある会社を目指し、社員をたたえる「アワードセレモニー」




八光建設株式会社(福島県郡山市)
業種・事業内容/総合建設業
従業員数/50名
取組みの背景とプロセス
同社の社員は、現場へ直行直帰で働くスタイルのため、社員が直接会社から評価される機会が少ない。そこで同社は、2018年に社員を表彰する「アワードセレモニー」を年1回開催することに決めた。

具体的な活動と成果
社内に運営委員会をつくり、賞の設定から開始。職場環境をよくしている、後輩の面倒をよく見ている、といった数値化されない貢献にも光を当て、総務や経理などの女性社員の貢献をたたえる賞もつくった。受賞者は社員の推薦で決定。セレモニーでは推薦者がプレゼンターを務め、表彰理由を読み上げるかたちにしたところ、会場は予想を超える感動に包まれた。セレモニーを開催することによって社員のやる気や結束力が向上した。
その後も返済不要の奨学金を支給する「フューチャーフクシマ奨学金」など、次々と新しい活動を立ち上げ、2021年には郡山市がSDGs達成に向けた取組みを表彰する「こおりやまSDGsアワード」を受賞。地方紙などでの報道も増え、営業によい影響が出ている。



音楽や照明で華やかに演出された授賞式。社員は全員、「なかなか着る機会がない正装」で参加。後輩からの表彰の言葉にベテラン社員が大泣きしたり、感謝状を贈られた協力会社の社員が目を潤ませたりするシーンも。




アワードの受賞者には表彰状と盾が贈られる。




2021年には建設現場で伐採予定だった樹木を移植するプロジェクト「HOGO10」(保護樹)もスタート。プロジェクトのロゴマークを作成しFacebookで社内外に周知している。



ポイント

「アワードセレモニー」は年1回の恒例行事として定着しています。セレモニーに招いた協力会社の社員がこの活動に感動し、自社でもアワードセレモニーを行うようになったそうです。周囲も巻き込みながらSDGsの活動を広げていきましょう。



SDGsは中小企業こそ取り組むべき未来へのアクション

日本におけるSDGs認知度は2021年1月時点で、約5割(※)。2030年までの目標実現に向け、法人、個人のいずれも一日も早く認知・理解から行動に移ることが求められています。
私はこれまで多くの企業のSDGsへの取組みを支援してきましたが、今回ご紹介した3事例は、中小企業でありながらそれぞれに時間・コスト・エネルギーをかけ、オリジナリティーあるSDGsの活動で成果を上げています。その行動力は周囲の関連会社や同業他社を刺激し、「社会を変える力」にもなっているのです。
SDGsの活動は最初は真似で構いません。一人ひとり、一社一社の行動が大事なのであり、「動く人を増やす」ことが「社会を変えた証拠」だといえます。地域に根ざした中小企業だからこそ、取引先やお客さまも積極的に活動に誘い、巻き込んでいくことができます。SDGsに取り組む人を草の根から増やしていけるといいですね。まずは、できることから地道に進めていきましょう。
日本の企業の97%以上は中小企業です。全国の中小企業がそれぞれSDGsに取り組むことで、世界規模の課題解決に向け前進できるのなら、素晴らしいことです。
※電通「第4回SDGsに関する生活者調査」(調査期間2021年1月22~25日)



「はたらく×らいふプロジェクト」でもSDGs取組み事例を紹介


17の目標のうち日本で特に取組みが求められている「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組んでいる企業の事例を今後ご紹介していきます。ぜひあわせてご覧ください。


事例1 男性社員の育休100%取得を推進する企業 
事例2 LGBTQなど性的マイノリティー、多様性を尊重する企業



「はたらく×らいふプロジェクト」はこちら