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中小企業の経営課題とは~「人材戦略」としての「健康経営」~

【全】緊急時メッセージ
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〔広報誌2020年7・8月合併号掲載 特集1〕

 中小企業が抱えるさまざまな経営課題。なかでも「人材確保」は中小企業の発展を担う重要なトピックです。
 今後の人材戦略を考えるうえで欠かせないキーワードである「健康経営®」を軸に、いま取り組むべき課題やその先進事例についてご紹介します。

中小企業の抱える一番の課題は「人材不足」

 中小企業がこれからの成長を考えるとき、課題となっているのはどのようなことでしょうか。東京商工会議所が、中小企業・小規模事業者に対して行った「中小企業の経営課題に関するアンケート調査(2017年度)」(図1)によれば、「売上拡大に取り組む上での課題(複数回答可)」の第1位は、「人材の不足(75.1%)」でした。第2位の「製品力・サービス力・技術力の不足」と比べて、約2倍の割合となっていることからも、「人材」への課題意識が突出していることがわかります。今後続いていく労働力人口の減少の問題も併せて考えると、人手・人材不足の解消は、急場をしのぐことも大事ですが、長い目で見た対応策を模索する必要もあるといえるでしょう。

■図1
売上拡大に取り組む上での課題


東京商工会議所 中小企業委員会「中小企業の経営課題に関するアンケート 調査結果」(2017年度)より
  

求職者が企業選びで重視するのは「健康への配慮」と「福利厚生」

 次に、求職者側の考え方を見てみましょう。経済産業省の2016年度の調査(図2)によれば、求職者は「給与水準」や「雇用の安定」よりも、いかに「従業員の健康を守り、パフォーマンスを発揮しやすい環境が整っているか」に関心があるといえます。
 一方、本誌の読者を対象に行ったアンケート(図3)では、人材不足対策として取り組んでいる、または今後取り組む予定の施策として、「働き方改革への対応」や「福利厚生制度の充実」を挙げた回答が上位を占めました。つまり、求職者側と企業側の考えには近いものがあり、こうした対策を着実に進めることが人手不足解消の突破口になると考えられます。


■図2
Q.【就活生】将来どのような企業に就職したいか(3つまで)
Q.【就活生の親】どのような企業に就職させたいか(3つまで)


 ※就活生の調査数1,399、親の調査数1,000における複数回答数を就活生、親それぞれで百分率にして比較


 経済産業省 ヘルスケア産業課「健康経営の推進について(2016年度調査)」より


■図3
Q.人材不足への対策として取り組んでいること、また取り組む予定があるもの



あんしんLife 2019年度読者アンケートより

ポイント
就活生やその親の約半数が「従業員の健康や働き方への配慮」を重視していると回答。求職者にとって魅力的な企業であるためには、健全な企業イメージの形成や、健康確保に向けた取組みの発信が重要になります。


取り組むべき対策、そのキーワードは「健康経営」

 求職者の関心の高い事項について、中小企業はどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。その重要な指針となるのが「健康経営」という手法です。
 健康経営とは、従業員の健康管理や健康増進に対して積極的に「投資」を行うことで、労働生産性や従業員の活力、企業価値の向上、組織の活性化、採用時の応募数増加、離職率の低下を実現し、競争力強化や持続的成長につなげていこうという経営上の戦略です。人手不足だけでなく、従業員の高齢化や労働力人口の減少、労働安全対策の観点からの法令遵守、リスクマネジメントといった課題への対処策として、経営者を中心に高い関心を集めています。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。




何から取り組むべきか? その指針となる「健康経営優良法人認定制度」


 「健康経営優良法人認定制度」とは、健康経営の取組みを評価し、特に優れた取組みを実践している企業を「健康経営優良法人」として認定する制度です。第4回となる2020年には、4,817法人の中小企業が認定されています。認定基準には、健康診断の実施やストレスチェックなどすでに大多数の企業が実施している項目もありますが、「ヘルスリテラシーの向上」や「メンタルヘルス対策」など先進的と思われるような項目もあります。そうした基準に適合するよう取り組むことが、社員一人ひとりの健康を守り、会社全体にさまざまなメリットをもたらすことになるのです。



経済産業省「健康経営優良法人認定制度」HP
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html


「健康経営優良法人」認定取得のメリット

《企業イメージの向上》
認定の取得は、「社員を大事にする会社」だということを広く社会に示し、企業イメージを向上させます。認定されれば、ロゴマークをホームページや採用のランディングページなどに使うことができるので、特に採用において大きなアドバンテージとなります。

《各種優遇制度》
認定企業に対して、金利を優遇する金融機関、保険料を優遇する民間保険会社、公共調達での加点や奨励金・助成金などのインセンティブを付与する地方自治体が増えており、認定を取得することでさまざまな優遇措置を受けられる可能性があります。


健康経営優良法人2020(中小規模法人部門)認定基準


CHECK 1
認定を受けるためには、具体的な制度・施策だけでなく、健康経営に取り組む社内体制や、取組みを評価する社内の仕組みなどが整っていなければなりません。会社全体の姿勢が評価の対象なのです。

CHECK 2
制度・施策については、3つの領域の16項目が認定基準として設定されています。そのうち唯一必須項目とされているのが「受動喫煙対策」で、受動喫煙防止の徹底は、重要度の高い課題だといえます。




「健康経営」の重要課題
「改正健康増進法」全面施行により受動喫煙防止策が企業の義務に



受動喫煙を防ぐための対策は、企業にとって必須課題

 前述の通り、「受動喫煙対策」は「健康経営優良法人認定制度」の必須項目になっています。加えて、2020年4月からは「改正健康増進法」の全面施行によって、望まない受動喫煙を防止することが企業の努力義務となり、対応していない企業は罰則を科せられる可能性も出てきました。ここでは、知っておきたい受動喫煙対策のポイントと、中小企業の対策事例をご紹介します。




2020年からは、 職場でも原則「屋内禁煙」。企業は対策を明示する必要も

 2020年4月から法律により、オフィスや事業所などでも原則「屋内禁煙」となりました。会社が屋内での喫煙を認める場合は、煙の流出防止措置についての基準を満たした喫煙室の設置が必要です。
 同時に、職業安定法施行規則の一部改正で、募集や採用の際、企業はどのような受動喫煙対策を実施しているかを明示することが必要になっています。
 また、地方自治体が独自に受動喫煙防止に関する条例を定めている場合があり、注意が必要です。


これからの受動喫煙防止は、ハード・ソフトの両面で対策を取ることが重要

 喫煙室の設置による「分煙」の徹底というハードの対策は対症療法的であるのに対し、喫煙者の「卒煙」を支援するというソフトの対策は、本人の健康にも寄与し、周囲の受動喫煙を根本的に防止することになり得るという意味で、非常に効果的です。実際、先進的な企業では、インセンティブを出すなどの施策を打ち出し、喫煙者に卒煙を促しています。これからは、ハード・ソフトの両面で受動喫煙対策に取り組んでいくことが重要だといえます。



受動喫煙対策では各種支援制度を活用できます

■中小企業の喫煙室設置には財政的支援も

中小企業が受動喫煙防止のために喫煙室を設置・改修する場合、その経費の一部が助成される制度や、税制上の優遇を受けられる制度が整備されています。また、喫煙室の設置についての技術的な相談支援も、厚生労働省が行っています。









■「卒煙」を支援する企業を行政が支援

従業員の「卒煙」を支援する企業を、行政が支援する取組みも始まっています。鳥取県は「卒煙支援推進事業補助金」の制度を創設。他の自治体や健保組合でも、企業・団体向けの卒煙支援プログラムを提供しているところがあります。






ガイドラインや支援制度の詳細はこちら
厚生労働省「職場における受動喫煙防止対策について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/kitsuen/index.html




事例に学ぶ、具体的な受動喫煙対策

 

CASE1 「三幸土木株式会社」
喫煙率1ケタを目指し、継続的な禁煙チャレンジを実施


■具体的なプロセス
 「社員の健康は会社の健康!」というスローガンを掲げ、健康経営を進める三幸土木株式会社。社内アンケートの結果、同社の喫煙率が全国平均を大きく上回っていることが判明。一方で「機会があればやめたい」という社員が多かったことを受け、「禁煙チャレンジ」を実施した。健康顧問による講習を受け、禁煙に成功した社員にインセンティブとして10万円(2回目以降は半額)を支給。2年目以降は本社敷地内を全面禁煙にした。

■取組み後の変化
 毎年行われるチャレンジにより、60%近くあった喫煙率は増減を繰り返しながらも減少傾向になり(図4)、一時は8.3%まで低下した。また、喫煙者の家族に協力を依頼したり、非喫煙者にもサポート役として参加すると10万円が支給されるなど、社全体で禁煙ムードを醸成。健康経営優良法人に4年連続で認定されている。


会社としての本気度を示すため、本社の敷地内を全面禁煙に。ポスターを貼って、全社への協力を求めた。

図4


社内における喫煙率の推移。禁煙チャレンジは毎年7~11月に行われる。期間外には、禁煙手当や面談などを行い、禁煙継続に向けたフォローや再チャレンジの支援も行う。


企業情報
本社所在地:愛知県日進市北新町北鶯91-5
設立年:1987年
従業員数:92名
事業内容:土木、建築、とび・土工、ほ装、鉄筋など
HP:https://www.sanko-inc.net/

CASE2 「株式会社ハンナ」
禁煙教育とインセンティブ制度で、健康づくりを支援


■具体的なプロセス
 貨物運送を手がける同社では、ドライバーの喫煙率がほぼ100%だった。そんな中、「健康経営」の取組みの一環として、「禁煙」の専門家を招き、「喫煙と健康」にかかわる勉強会を開催。また、協会けんぽ奈良支部の「職場まるごと健康チャレンジ」に参加した。さらに健康への投資として「健康マイスター制度」を導入。模範的な人物や、会社全体の禁煙率の向上に貢献する人に対して、インセンティブ制度を設けた。

■取組み後の変化
 勉強会をきっかけに、ドライバーの喫煙率は約55%と4割以上減少。また、車両にタバコのニオイが残らなくなることで、車両の清掃などにかかるコストも削減できた。健康を大事にし、積極的に働きかけを行う姿勢は、従業員と会社の強固な信頼関係構築につながり、高い「社員満足度」や「定着度」を実現している。


禁煙に関する勉強会は日本禁煙科学会理事長の高橋裕子氏を講師に迎え実施。


新型コロナウイルスが感染拡大する中、従業員の健康を守るために作成した携帯サイズの行動指針。


業務内容や姿勢をチェックする「評価・目標シート」に、メタボや禁煙など「健康」に関する項目を設定。



企業情報
本社所在地:奈良県奈良市永井町372
設立年:1980年
従業員数:149名
事業内容:一般貨物自動車運送事業・貨物利用運送など
HP:https://hanna-co.jp/