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人間ドックで上手に健康管理

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〔広報誌2022年10月号掲載〕

経営者は体が資本、1年に一度は検査を
人間ドックで上手に健康管理

経営者が健康であることは、本人はもちろん家族や従業員の安心にもつながります。
しかし、健康に気を付けながらも、自覚症状がないまま病気が進行してしまうケースもあるため、定期的な体のチェックも大切です。今回は健康管理に人間ドックを上手に活用するためのヒントを、医師の安田聖栄氏に伺いました。


監修:安田聖栄(やすだせいえい)氏

四谷メディカルキューブ理事長、東海大学医学部客員教授。大阪大学医学部卒。東海大学医学部消化器外科教授、同付属病院 副院長を経て現職。『診療で必ず役立つビタミンの知識』(日本医事新報社)など著書多数。






疾患の早期発見に有効な人間ドック

職場健診は、労働安全衛生法で定められた検査項目を1年に一度受診するもので、自動車保険で例えるなら、「強制保険」となります。一方、地方自治体が実施する健康診断や人間ドックは、「任意保険」ということができます。
健康診断も人間ドックもともに自由診療で、費用は自己負担となります。なかでも人間ドックは、職場健診だけでは見つかりにくい「がん」をはじめ、生活習慣改善・病気の予防に加え、さまざまな疾患を早期に発見することを目的としていることが特徴です。費用は3万円程度からで、検査内容や設備によって異なります。
人間ドックでできる検査は、職場健診の検査項目以外に、呼吸機能検査や腹部超音波検査(エコー)などが含まれています。さらにオプションで、個々の年齢や性別、生活習慣、既往歴、家族の病歴などに応じてさまざまな検査を自由に加えることができます。
「例えば、喫煙者なら40歳以上、非喫煙者なら50歳以上の方は一度『胸部CT検査』を受けることをおすすめします。オプション検査の項目は多いので、選択に迷ったら人間ドックの窓口に相談しましょう」(安田氏)。


人間ドックでできる検査

健康診断の検査項目
・身体計測(身長、体重、腹囲、BMI)
・血圧検査
・聴力、視力検査
・血液検査
・尿検査
・胸部X線検査
・心電図
・診察
人間ドックの基本検査項目
・呼吸機能検査
・腹部超音波検査(エコー)
・便潜血検査
・眼圧眼底検査 など
必要に応じてオプション検査
・胸部CT検査
・内視鏡検査(胃、大腸)
・頭部MR検査 など



施設選びのポイント

毎年、同じ施設で受診すれば、結果の推移も把握できます。

  • 検査内容や設備、費用が自分に合っているか
  • 受診後のフォローが行き届いているか
  • 結果報告の内容や「要精密検査」や「要経過観察」という判定が出た時の対応はどうか
などをポイントに選びましょう。
利用者の口コミなどを参考にするのもよいでしょう。



人間ドックの流れ

基本的な流れは、健康診断とほぼ同じです。

受診したい施設に、直接またはドックの予約サイトなどから申込む。その後、問診票や検査キットなどが送られてくる。

基本的な検査だけの場合、2~3時間程度かかるのが一般的。

2~3週間程度で結果が届く。人間ドックの結果報告書は、図表や画像を活用し、健康状態などが理解しやすいように工夫されているものが多い。
「要精密検査」や「要経過観察」という判定がでたら、精密検査の受診手続きをしたり、時機を見て再検査を受けるなど判定の指示に従う。









受診しておきたいオプション検査

オプション検査は、年齢・性別・生活習慣・既往歴・家族の病歴などの観点から選択するのがおすすめです。



喫煙歴があれば

●胸部CT検査[40歳以上]
自覚症状のまったくない小さな肺がんや、喫煙者の15~20%がなるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の兆候もわかる。胸部X線検査では、心臓や横隔膜、骨と重なる部位でがんを早期発見しにくい。
●胃の内視鏡検査
喫煙者は食道がんのリスクも高い。胃の内視鏡検査は、胃がんも食道がんも早期発見できる。





飲酒量が多いなら

●腹部超音波検査(エコー)
飲酒量が多いと脂肪肝になりやすいため、1日2合以上飲酒する人におすすめ。肝臓以外にも胆のう、すい臓、腎臓の腫瘍や腹部大動脈瘤などさまざまな腹部疾患も見つける。胆のうポリープ・胆石は、他の検査より詳しくわかる。
●胃の内視鏡検査
飲酒量が多いと食道がんのリスクも高まる。





ピロリ菌感染歴があるなら

●胃の内視鏡検査
ピロリ菌は、主に幼少期に口から感染し、胃の粘膜にすみつき胃の粘膜の炎症を引き起こす、と考えられている。胃がんのほとんどの発症原因が、このピロリ菌感染であることが明らかになっている。除菌後も胃がんリスクは依然として存在するので、毎年もしくは2年に一度程度、定期的にチェックを。胃がんの検査方法には、胃部X線検査もあるが、初期の胃がん発見には内視鏡検査が向く。





糖尿病の家族歴があれば

●血糖値測定  Hb(ヘモグロビン)A1c
インスリンの働きが滞る糖尿病を発見する検査。糖尿病は、自覚症状がないまま進行し、合併症を起こすと、眼、腎臓、血管、神経の障害を誘発する。糖尿病の兆候を血液検査で簡単に発見できる。





肥満傾向なら

●腹部CT検査
食事で摂取した過剰な炭水化物は、中性脂肪となって脂肪組織(皮下脂肪と内臓脂肪)に蓄積される。このうち内臓脂肪の増加が高血糖、糖尿病の原因になり、腹部CT検査では、臍(へそ)レベルの内臓脂肪面積から、内臓脂肪型肥満がわかる。





高血圧なら

●頭部MR検査/脳ドック[50歳以上]
高血圧では、脳血管の閉塞、破裂で急激に症状をきたす脳卒中のリスクが高くなる。頭部MR(MRI,MRA)検査では、その原因となる脳動脈瘤や、無症状の脳梗塞がわかり、脳腫瘍、脳の萎縮も発見。





閉経後の女性には

●骨密度検査
骨の代謝には女性ホルモンがかかわっているため女性は特に閉経後は、骨の強度が減退しがち。そのため骨がもろくなり、わずかな衝撃で骨折しやすくなる。骨密度の低下で生じる骨粗しょう症の早期発見につながる。







日本人の二人に一人がかかるがん

日本人の死因で最も多いのががんです。性別にかかわらず一生のうち二人に一人が患うというデータがあります。罹患(りかん)するがんの種類には男女差が見られ、男性で最も多いのが「前立腺がん」、女性では「乳がん」ですが、多くは完治するため、いずれも死亡率は高くありません(表1)。一方、男女ともに上位の「大腸がん」や「胃がん」は罹患数も死亡数も多いのですが、初期のⅠ期で発見できれば、負担の少ない治療で治りますし、90%以上は完治するといわれています。早期発見が早期社会復帰への鍵を握っているのです。
がん対策として、国は自治体に補助金を出して、5種類のがんの検診を推奨しています(表2)。「対象年齢になったら、最低限これらの検診だけは受診し続けましょう。ただ、生活習慣や既往歴から気になる疾患があってより精密な検査を希望する時こそ、人間ドックを活用してみてください」(安田氏)。
人間ドックでは例えば、胃と大腸については内視鏡検査を受診でき、肝臓、すい臓、腎臓、甲状腺などは超音波検査(エコー)を受診できます。ほかにも1回の検査で全身の複数のがんを調べることができるPET(ペット)検査などもあり、高額ではありますが、忙しい経営者にとって大変便利です。

表1 かかりやすいがんと死因となるがん



出典:「最新がん統計」国立がん研究センター


表2 国がすすめる5つのがん検診






安田氏からの人間ドック利用のアドバイス
人間ドックは経営者の健康投資

問診で「疲れがとれない。病気ではないか」と訴える方がいます。実はその多くは、睡眠不足が原因。まずは睡眠の質や時間を見直し、しっかりと体を休ませましょう。日頃の体調管理を行う一方、大きな病気のリスクに備えることも大事です。これまで当院で人間ドックを受診された方のうち、1.4%の方にがんが見つかっています。その中には国が推奨するがん検診にはない、「前立腺がん」「甲状腺がん」「食道がん」「すい臓がん」もありました。経営者の健康は会社の経営にも大きな影響を与えます。人間ドックを“健康で会社経営を続けるための投資”と考えて定期的に受診してみてはいかがでしょうか。