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いま取り組みたい「リカレント教育」

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〔広報誌2022年3月号掲載〕

経営者・従業員の“学び直し”で企業が成長する
いま取り組みたい「リカレント教育」

リカレント教育とは、社会人になってからも必要に応じて大学や専門学校等で主に仕事に関する知識や技術を学び直すことで、近年注目を集めています。中小企業ではリカレント教育をどうとらえ、取り入れていくべきか、帝京大学冲永総合研究所客員教授の黒崎誠氏に伺いました。





監修:黒崎誠氏

帝京大学冲永総合研究所客員教授
時事通信社で経済記者として重化学工業、情報通信、流通などの産業界や旧通産省、旧大蔵省などを担当。主な著書に『世界を制した中小企業』、『世界に冠たる中小企業』(いずれも講談社現代新書)。




リカレント教育が注目されている理由

リカレント教育には、社員個人の意思による学び直しとともに、企業が主導する人材育成や研修の一環としての学び直しも含まれます。「生涯学習」とも似ていますが、生涯学習は人生を豊かにすることを目的としており、趣味的な要素を含むものです。一方、リカレント教育は、あくまで仕事に関連した専門知識や技能などを学び、業務に役立てたり、キャリアアップしたりすることを目標としています。近年、リカレント教育への関心が高まっている背景として以下の3つが挙げられます。

  1. 急激な技術革新  デジタル関連などの急激な技術革新で市場が大きく変化している。
  2. 人生100年時代によるライフスタイルの変化  少子高齢化が進む中、定年後も働く人が増加。
  3. 雇用環境の変化  雇用の流動化が進み、労働者一人ひとりに人材価値を高める努力が求められるようになっている。
また、図1のとおり、35歳以上の転職サイトユーザーの9割が「リカレント教育を受けたい」と回答しています。そして、図2では転職希望者の9割以上が「学び直しやスキルアップのための支援をしている企業に魅力を感じている」という結果が出ており、働く人の関心の高さがうかがえます。

図1:リカレント教育を受けたいか



図2:学び直しやスキルアップのための支援を行っている企業に魅力を感じるか





中小企業が生き残るためには学びが不可欠

「日本の中小企業はGDPの55%、雇用の70%を担う、いわば日本経済の中核となる存在です。しかしいまのままでは中小企業の多くは時代の変化についていけなくなってしまう」と黒崎氏は危機感を訴えます。「最新の商品やサービスも3年たてば陳腐化します。中小企業が生き残るためには、独自の技術を磨きながら、さらに多様な知識や技術を学び続けるほかありません」と指摘します。
ただし、「AI(人工知能)などのデジタル・リテラシーはどの業界でも必要になるでしょうが、やみくもに学んでも役に立ちません。リカレント教育のプログラムを選ぶ際は、いまの業務にどう取り入れるかという視点が不可欠です」と黒崎氏。さらに、ビジネスの現場を経験した講師による実践的な内容かどうか、他社・他業種の受講者と交流し、ネットワークをつくる場となり得るか、といった点も考慮するとよいでしょう。

リカレント教育が中小企業にもたらすメリット
  1. 不足している分野の人材を育成できる
  2. 社員のモチベーションが上がり、主体性・責任感の向上が期待できる
  3. スキルアップの機会を提供することで社員の離職を防ぐ
  4. 教育を通じて人脈を得る
  5. 社員の付加価値と生産性を高め、企業としての競争力が強化できる




働きながら学ぶために

大学や専門学校などが実施するリカレント教育プログラムには、特定の職種に必要な専門知識・技能を習得する専門性の高いもの、デジタル・リテラシーを高めるもの、管理職向けのマネジメント・プロジェクト管理など多様なものがあります。
欧米では仕事を辞めて大学等に入り直す人も多いですが、日本では仕事を続けながら受講するスタイルがほとんどです。そのため夜間や週末など社会人でも受講しやすい時間帯に開講されるプログラムや、オンライン授業などのプログラムの整備が教育機関や民間企業で進められています。また、文部科学省は一定の条件を満たした講座を「職業実践力育成プログラム」に認定し、受講費の一部を厚生労働省の「教育訓練給付金」(下記)の対象とするなど、官民一体となってリカレントプログラムの拡充が進んでいます。


リカレント教育の情報を幅広く収集できる「マナパス」
文部科学省の委託で運営されているサイトで約5,000の大学・専門学校などの講座情報を掲載。通学式の講座のほか、オンラインやeラーニングの講座もあり、「分野」「給付金や奨学金などの支援の有無」など、希望条件に合わせて検索できます。

マナパス

リカレント教育に対応した国の助成金・給付金
事業主への助成「人材開発支援助成金」
事業主が従業員に対して職務に関連した訓練を実施した場合や、新たに教育訓練休暇制度を導入して教育訓練休暇を与えた場合に、訓練経費や制度導入経費等の助成が受けられます。

働く人への支援「教育訓練給付制度」
厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した場合に、自ら負担した受講費用の20〜70%の給付が受けられます。対象の教育訓練は約1万4,000講座あり、教育訓練給付制度[検索システム]で検索できます。




中小企業向けのリカレント教育が受けられる機関やサービスの一例をご紹介します

1. 社会人のさまざまなニーズに対応する教育機関
帝京大学リカレントカレッジ

中小企業の経営者・経営幹部を対象に2020年より開講。これまでに中小企業の経営に携わった現場の経験が豊富な講師を招き、「危機からニューノーマルへ〜元気な中小企業経営の秘訣〜」「100年経営の現場から考える事業承継」など、時代の変化に対応するための中小企業経営についてさまざまな角度から学ぶ講座を実施。22年はポストコロナの中小企業経営についての連続講座を予定。

問合せ  帝京大学リカレントカレッジ事務局 
TEL:03-5213-4505

帝京大学リカレントカレッジ

2. 通学せずに実践的な知識が身につくオンライン講座
WEBee Campus(ウェビー キャンパス)

中小企業の経営に役立つ研修を半世紀にわたって行ってきた中小企業大学校が、これまでに培ってきたノウハウを生かし、2018年に開始したオンライン研修サービス。ウェブ会議システムを利用し、リアルタイムの双方向通信で行うほか、5〜10名の少人数制で講師と直接対話できる実践的な学びが特徴です。1日3時間の研修で仕事の合間に受講が可能。2022年度は195コースを開講予定。

問合せ  独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業大学校web校
TEL:03-5470-1823

WEBee Campus

3. いつでも・どこでも個人のペースで学習できるeラーニング
インターネット環境があれば、「いつでも・どこでも」受講できるeラーニング。あらかじめ録画されたものを視聴するタイプや学習アプリを使って学ぶものなどコンテンツはさまざまです。好きな時間に何度でも視聴できるため、語学学習など知識やスキルをじっくり身につける繰り返し学習に向いています。ニーズの高まりを受け、民間のサービスも増えています。