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職場における熱中症対策

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〔広報誌2022年6月号掲載〕





屋内作業も要注意! 夏本番前に作業環境の見直しを
職場における熱中症対策

毎年全国で約20人が職場での熱中症により亡くなり、約1,000人が4日以上仕事を休んでいるというデータがあります。
これからの時期、職場での熱中症対策は重要な課題の一つです。
職場における熱中症対策を見直すヒントを産業医科大学の堀江正知氏に伺いました。


監修:堀江正知氏

産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健管理学研究室 教授
【資格】修士(公衆衛生学)、博士(医学)、日本内科学会認定内科医、日本産業衛生学会専門医・指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)



※熱中症はあんしん財団の「ケガの補償(事業総合傷害保険)」の対象外です。



職場での熱中症は21.9%が屋内で発生


総務省によると、2021年の熱中症による救急搬送人員の累計は47,877人。5万人を超えた2010年以降高止まりが続いています。一方、職場における熱中症死傷者数は547人(うち死亡20人)(図1)で、業種別にみると、建設業、製造業が全体の4割を占めています。通常、熱中症は炎天下での屋外作業で発症するケースが多く見られますが、2021 年の特徴として、熱中症の死傷災害の21.9%が屋内で発症しています。特に製造業では全体の44.7%が屋内で発症(図2)しており、具体的には熱源に近い場所での作業や高温多湿の室内環境での発症事例が多く報告されています。したがって屋外だけでなく、屋内でも十分な対策が必要といえます。また、熱中症を2020 年の業務上疾病発生状況から見てみると、熱中症で死亡し、労災認定を受けた数(22人)が、新型コロナウイルス感染で死亡した数(20人)よりも上回っています。職場における熱中症対策は、安全管理の面で非常に重要な課題といえるでしょう。

図1 職場における熱中症による死傷者数の推移


図2 熱中症の業種別屋内災害割合(2021年速報値)



※死傷災害のうち、明らかに屋内で作業に従事していたと考えられるもののみを計上

出典:厚生労働省「令和3年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」



暑さ指数の把握は必須プレクーリングも効果的

昨年からは環境省・気象庁が連携して、暑さ指数(WBGT)の値が33以上と予測された場合、都道府県別に「熱中症警戒アラート」が発表されるようになりました。2021年の熱中症による死亡災害20 件のうち、日頃から職場で暑さ指数の実測が行われていたのは、わずか5件でした。一般的にWBGTが28を超えると熱中症患者が急激に増加するため、管理者は日頃からWBGT測定器などで数値を把握しておきましょう。ニュースや天気予報等でも知ることができるほか、環境省「熱中症予防情報サイト」の実況値などもあるため、測定器がない場合などは積極的に熱中症対策に活用しましょう。
また、厚生労働省が主導する「STOP! 熱中症クールワークキャンペーン」の令和4年版では、作業開始前にあらかじめ冷水や流動性の氷状飲料を飲んで深部体温を下げておくプレクーリングを進めています。これにより、作業中の体温上昇が抑えられるのでぜひ取り入れましょう。
なお、環境省の「まちなかの暑さ対策ガイドライン」では、体感温度を下げるためには直射日光を遮ることが最も効果的だとされています。屋外作業ではキャノピーを設置して休憩所としたり、通勤時や営業などで屋外を歩く際には日傘をさしたりすることが有効です。




屋外作業では、休憩所や作業場所に日陰をつくり直射日光を遮ると有効。水を撒いたり大型の扇風機を併用したりすれば、体感温度を下げる効果がアップ。




もう一度見直そう。職場の熱中症対策

従業員は多少の体調不良があっても、なかなか休憩を申し出られないものです。管理監督者は率先して声掛けを行い、未然に熱中症を防ぐ対策をしましょう。



勤務環境の見直し
WBGTを下げる工夫を

直射日光の当たる場所で長時間の作業にならないか、屋内では冷房が行き渡らない場所がないかなど、現在の勤務環境をいま一度見直しましょう。WBGTを下げると、熱中症予防とともに作業効率アップも期待できます。服装に関しては、汗が乾きやすいように通気性・透湿性の高い服の着用を心がけましょう。ファン付きの作業服は、従業員の体温上昇を抑えるために有効です。
マスクの着用は体温の上昇につながりませんが、息苦しさを感じる場合にはマスクを外し、従業員同士の距離をとったりパネルを設置したりするなどの対策を。
WBGTを下げるための対策例
◆屋外対策例
  • キャノピーなどの簡易的な屋根の設置
  • 休憩所に氷や冷水、おしぼり等を用意
  • ミストシャワー等による散水設備の設置

◆屋内対策例
  • 通風の確保、扇風機や冷房設備の設置
  • 作業場所へ冷気が流れるようダクトを調節
  • 熱気や蒸気の上方からの排出


暑熱順化への対応
体を暑さに慣れさせるための作業計画を

高温多湿の場所での作業には、暑熱順化(暑さに慣れ、汗を上手にかけるようになること)が必要。暑熱順化が行われていないと、熱中症の発症リスクが高まるため、暑熱順化には7日以上かけて行うことが望ましいとされています。暑熱環境での作業時間を段階的に長くするなど、徐々に暑熱順化できるようゆとりのある作業計画を立てましょう
なお、暑熱順化ができていても、気温が低い日が続いたり、長期休暇明けの際にはリセットされたと考え、暑熱順化を一からやり直す必要があります。


従業員の健康状態を把握
持病のある従業員は特に目配りを

糖尿病や高血圧、心臓病、腎臓病などの持病がある従業員は熱中症の発症リスクが高いため、十分な目配りが必要です。治療中の従業員については、就業場所の変更や配置転換などを検討しましょう。
また、睡眠不足や二日酔い、朝食の未摂取、体調不良などがないかを正直に申告してもらうとともに、日頃から従業員への健康管理指導を行いましょう。






従業員の様子がおかしいと感じたら…

熱中症とは、気温の上昇や過度の運動により体温が上昇して発症する健康障害です。暑さで大量の汗をかく「脱水」と、体内に熱がこもる「うつ熱」が原因で起こります。重症になるほど臓器へのダメージが大きくなり、治療や職場復帰に時間がかかり最悪の場合は死亡することもあります。体調が悪化してもそれを伝えることさえできなくなり、急速に重症化してしまうケースもあるため、Ⅰ度の段階であっても一人だけでは休ませず、容態が悪化しないか継続して見守ることが大切です


応急処置として、日陰に移動して衣服を楽にし、水をかけてうちわで扇いで体を冷やしたりしましょう。
熱中症の症状と対応方法





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■配信期間/2022年9月30日(金)24:00まで  ※期間中は何度でも視聴可能
■視聴時間/約60分

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