〔広報誌2021年10月号掲載〕
早期復旧のための「事業継続計画(BCP)」
企業が災害への対策を行う「企業防災」について、2号連続でお伝えしています。前号では、「企業防災」を行う二つのアプローチのうちの一つ目「防災」について取り上げました。今回は、もう一つのアプローチの「事業継続」について考えます。災害発生時、事業を早期復旧させるためにはどんな備えが必要なのでしょうか。前号に引き続きBCP策定アドバイザーの髙荷智也氏に伺いました。
広報誌2021年9月号掲載『自然災害から命と事業を守る「企業防災」-前編-』はこちら
監修:髙荷智也氏
BCP策定アドバイザー。ソナエルワークス代表。「自分と家族が死なないための防災」と「企業の実践的BCP策定」をテーマに防災をわかりやすく伝える。『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』など著書多数。
公式サイト「備える.jp」
https://sonaeru.jp
BCP 策定で災害時の資金流出を最小に抑える
災害時、企業は従業員や顧客の命を守ることはもちろん、休業期間を長引かせず、早期に事業を再開させる必要があります。「大企業であれば、災害に伴う営業停止や被害復旧費用の捻出もできるが、資金面で体力の乏しい中小企業はわずかな非常事態でも倒産リスクが高い。中小企業こそ、事業継続計画(以後BCP※1)を策定し、災害時の資金流出を未然に防ぐことが必要」と髙荷氏は強調します。
BCP とは、「命を守り、被害を少なくする対策」に加え、経営全体の視点から「最優先すべき業務の選定」「目標復旧時間の設定」「サプライチェーンの観点の対策」など緊急時に事業を早期復旧・再開するための方針・行動計画をまとめたものです。2021年のデータでは、中小企業でBCPを策定している企業はわずか14.7%にとどまっています※2。
一方で近年では大規模な自然災害は増加傾向にあり、いままで「想定外」だった災害リスクも社会的な潮流では「想定内」とみなされるようになってきています。「
企業としてBCPは策定していて当たり前。それがなくて被害が拡大した場合は、最低限の義務を怠っていたととらえられることもあるため、少しずつBCP策定の準備を進めましょう」(髙荷氏)。
※1:BCP:Business Continuity Planの略
※2:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021年)」
BCPがあるとないとでは緊急時に大きな差
製造業の例
自社の災害対応能力をチェックしてみましょう
BCPの第一歩は重要情報のバックアップから
災害対応能力が低い企業は、実際のBCP策定の前段階として、下の最低限のBCPから進めるとよいでしょう。事業継続に欠かせない資源は、主に「人」「情報」「モノ」「金」の4つに分類することができ、中小企業の場合、「人」はもちろんのこと、業務の要となる「情報」の消失だけは絶対に避けなければなりません。「モノ」の地震対策については、9月号でご紹介していますので、参考にしてください。
会社を倒産させないための最低限のBCP
【 人 】
非常時の社内連絡網と取引先の連絡リストを紙で作成
【 情 報 】
「これだけは失ってはいけない」重要情報のバックアップ
【 モ ノ 】
オフィスや事務所の地震対策を行う
【 金 】
災害時に有効な損害保険などの見直し
BCP策定の手順とポイント
BCP策定とは
「優先度の高い事業を守るための対策を講じること」(髙荷氏)です。従って、事業に優先順位をつけることから始めます(手順の①)。優先すべき事業は業務内容や担当社員のほか、取引先の重要度などで考えてもいいでしょう。そのうえでその事業を早期に復旧するための具体策を②〜⑥の手順で考えていきます。
ただし、「中小企業の場合は、事業が一つだけの場合も多いでしょう。それに災害がいつ起こってもおかしくない状況でBCP策定にもスピードが求められます。その場合は
②と⑥を重点的に行いましょう」と髙荷氏。②「目標設定」では、「何を、いつまでに、どのレベルで再開するか」を決めます。⑥では②の目標を達成するための具体策を考えましょう。
BCP発動時には事業主一人ではなく、社員・関係先と足並みをそろえた対応・行動が必要になります。そのため、
「BCP策定の段階から社員や関係者と情報を共有することが大切」と髙荷氏は指摘します。目標設定、具体的な対策も社員・関係者と一緒に考えるようにしましょう。
BCP策定の手順
①中核事業
それを失うと会社の経営状態に甚大な影響を与える事業を選定
②目標設定
その中核事業を、どの程度の操業水準で、いつまでに開始させるのか“目標”を設定
③重要業務
その水準の事業をそのスケジュールで開始するために最低限必要な“重要業務”を設定
④経営資源
その業務を行うために不可欠な、社内外の経営資源を特定してリストアップ
⑤被害想定
「その想定リスク」が生じている状況で、経営資源にどのような被害が生じるかを想定
⑥個別対策
被害の発生が想定される対象への防災対策と、被害の発生を前提とした再調達計画を検討
BCP記入シートを活用しましょう
BCPを効果的に運用するために
9月号で命を守る「防災」、10月号で事業を守る「BCP」を取り上げてきましたが、実際に災害が発生した際は、従業員や顧客の安全を守ることが第一です。その後、被災状況を見ながらBCP発動の判断をします。判断基準もBCP策定時に決めておくとよいでしょう。大切なのは、
いざ災害が起きた際には従業員・関係者全員が共通認識の下で行動できるよう、日頃から確認しあうことです。
さらに、「BCPは一度策定すれば終わりではありません」と髙荷氏は強調します。実際に自然災害が発生したり、避難訓練やハザードマップの更新により新たな課題が見つかったりすることもあるでしょう。また社員の入退社、取引先の担当者変更など事業の状況が変わることも想定されます。
状況の変化に応じて適時BCPを見直しましょう。いつ、何を行うべきかは、下の「BCP策定・管理の年間カレンダー(例)」を参考にしてください。
BCP策定・管理の年間カレンダー(例)
4月
◎ 取引先担当者など関係者リストの更新確認
◎ 連絡網・安否確認システムの登録先チェック、安否回答訓練
◎ 自治体のハザードマップが更新されていないかを確認 |
6月頃(水害シーズン前)
◎ 水害対策用品の点検・入れかえ |
10月頃(夏が終わった頃)
◎ 防災備蓄品の点検・入れかえ
(賞味期限、高温下での劣化なども確認)
◎ 安否回答訓練 |
1月〈BCP の見直し〉
◎ 新年度を迎える前に既存体制で年1 回の確認を実施
◎ 準備している防災・再調達計画の内容確認
◎ 取引先リストの確認・発災時の初動対応内容の見直し |
BCP策定は自社の経営基盤の強化にもつながる
髙荷氏より
自然災害に加え新型コロナウイルスのように新しいリスクも生じている中で、中小企業においてBCP策定は避けて通れない課題となっているといえるでしょう。また、BCP策定に取り組むことは、自社の経営の実態を把握して経営基盤を強化し、取引先からの信用が高まる、融資や保険の優遇が受けやすくなるなどのメリットもあります。まだBCP策定まで手が回らないという企業も多いかもしれませんが、最初から完璧を目指すのでなく、まずは大地震を想定したBCPから始め、徐々にさまざまなケースへと広げていってはいかがでしょうか。