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自然災害から命と事業を守る「企業防災」-前編-

コンテンツ
〔広報誌2021年9月号掲載〕

命を守る「防災」

自然災害大国である日本において、企業が災害への対策を行う「企業防災」への取組みが急務となっています。「企業防災」とは、災害時に従業員や顧客の命を守る「防災」と、災害後も事業を早期に復旧させるための「事業継続」の二つのアプローチの総称で、いざという時に企業を守るためには、日頃から両方に取り組んでおくことが重要です。そこで9月号、10月号の2回にわたり「企業防災」の取組みのポイントをご紹介します。9月号ではまず中小企業における「防災」対策について考えてみましょう。

監修:髙荷智也氏

BCP策定アドバイザー。ソナエルワークス代表。「自分と家族が死なないための防災」と「企業の実践的BCP策定」をテーマに防災をわかりやすく伝える。『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』など著書多数。
公式サイト「備える.jp」
https://sonaeru.jp


中小企業こそ防災対策は必須防げる損害は未然に防ぐ!


防災対策は大企業の取組みが中小企業よりも先行していますが、「体力のない中小企業のほうが災害時のダメージが大きく、復旧も困難になるケースが多いため、中小企業こそ防災対策は必須」とBCP策定アドバイザーの髙荷智也氏は強調します。また、企業には労働者への安全配慮が義務付けられているため、「例えば、ハザードマップに書かれている災害への準備が皆無な状況で社員が死傷した場合には訴訟になるケースも。経営者は“取り組んでいる”という姿勢を示すことも重要です」(髙荷氏)。
しかし防災対策は幅が広く、特に中小企業では何から着手すればいいか判断が難しいという声も聞かれます。「基本となるのは震度6 強の地震発生と二次災害を想定した対策です。そのうえでハザードマップをもとに台風や大雨による水害対策や、活火山が近くにある場合は噴火の可能性など、自社の置かれた環境に応じた対策も必要です」と髙荷氏は指摘します。
下のグラフは、実際に被災した企業に、「被害を受けた際に有効だった取組み」「被害後も実施している、及び新たに実施した取組み」を調査したもの。数値が高い項目や、「被害時」と「被害後」の差が大きい項目は災害時に有効性が高い対策だと考えられます。これらの結果や右ページのチェックリストを参考に、自社でできるところから取り組んでみてはいかがでしょうか。





髙荷氏のコメント
備蓄品①は防災対策の中でもわかりやすく、被災をきっかけに多くの企業がさらに充実させているようです。また実際に被災することで新たな課題が見つかり、さらに避難訓練②やBCP策定④に取り組み始める企業が増えていると考えられます。安否確認③については、家族の安否がわからないと誰もが這ってでも家に帰ろうとするため、二次災害を防ぐためにも企業側は家族も含めた安否確認を推進することが重要です。


これだけは確認しておきたい防災対策チェックリスト

上記の被災経験のある企業が有効だと感じた取組みをもとに、最低限確認をしておきたいことをチェックリストにまとめました。今後、職場で防災対策を進めるきっかけとしてご活用ください。


1.まずはハザードマップの確認から

自社や自社倉庫などがあるエリアの災害リスクを把握する

社員の自宅の災害リスクを把握する

主要な取引先の災害リスクを把握する

ハザードマップは定期的に更新されるため、年度明け・水害シーズン前に確認を。マップのチェックと避難訓練を同じ時期に合わせて行うのもおすすめです。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

https://disaportal.gsi.go.jp
洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報や避難場所を地図上に重ねて表示できる「重ねるハザードマップ」、全国の自治体が作成しているハザードマップのリンクをまとめた「わがまちハザードマップ」が閲覧できる。


2.建物・設備の安全確保

建物の耐震性を確認する
1981年6月1日より前に「建築確認申請」を受けた建物は、震度6強の地震の直撃で倒壊の恐れがある「旧耐震基準」となります。この場合は建替えや移転の検討も必要です。

ラック、キャビネット、OA機器などは金具等で床や壁に固定

ガラス窓やキャビネットのガラス扉には飛散防止用のフィルムを貼る

天井など非構造部材の転落リスクの確認



3.避難と安否の確認の手順を決める

ハザードマップなどを活用し、被災した際の避難場所や避難経路を把握しておく
避難訓練は、避難場所への移動、水害を避けるための上層階への移動のほか、昼・夜・雨シチュエーション別に行うことで課題も見えてきます。

社員とその家族の安否確認方法を決めておく
SNSやアプリの活用の検討・導入や、災害用伝言ダイヤル171の利用に慣れておくことも必要です。安否確認も避難訓練に組み込むとよいでしょう。


4.備蓄の準備

社員が最低3日間過ごせる備蓄品を準備する
地震の影響が広範囲に及ぶ可能性が高まっていることもあり、1週間分の備蓄が推奨されています。

具体的な備蓄品例
1人1日あたり3リットルが目安。3日分だと「3リットル×人数×3日」の計算です。
食料 乾パン、アルファ化米、缶詰、レトルト食品などのほか、カセットコンロとガスボンベも。
非常用トイレ ゴミ袋と凝固剤を準備。災害時には便器にゴミ袋を被せて使います。
毛布 毛布を人数分用意。アルミブランケットならコンパクトに保管できます。
日用品 マスク、圧縮タオル、LEDライト、ラジオ、乾電池、充電機器などもあると役立ちます。
救急用品 包帯、ガーゼ、脱脂綿、ハサミ、ナイフ、ピンセット、体温計、三角巾なども準備。
救助用品 バール、ハンマー、ジャッキなどもいざという時のために備えておきましょう。

都市部では災害が発生した際に二次災害を防ぐため、社員を3日間ほど会社に留まらせる「帰宅困難者対策」が推進されています。

災害は「起こるもの」という意識で防災対策を


髙荷氏より

積極的な防災対策をしている中小企業とそうでない企業の違いはトップの意識の差ともいえます。命と事業を守る行動は、雇用主の義務であり、ハザードマップなどで災害を予測できるほか、社内の危険要因に対して事前対策ができる状況で、いざ災害が起こった際に、「想定外だった」という言い訳は通じません。災害は「本当に来るのか」ではなく「いつ来るのか」という意識で、防災対策に取り組んでいただくことが大切です。





10月号では、事業を守る防災として中小企業のBCP(事業継続計画)について詳しく取り上げます。災害後にいち早く事業を復旧するため、どのような準備をすべきかをご紹介します。