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いまメンタルヘルス対策の成功事例から学ぶべきこと

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「こころの“あんしん”プロジェクト」メンタルヘルスセミナー講師インタビュー

いまメンタルヘルス対策の成功事例から学ぶべきこと

〔広報誌2019年11月号掲載〕

メンタルヘルス対策への取組みは社会的に注目されていますが、中小企業ではまだまだ浸透していません。
そこで、あんしん財団では、これまでにもメンタルヘルス対策の必要性を訴えかけるセミナーを行ってきました。
いずれも講師を務めているのは専門家の石見忠士氏です。
11月のメンタルヘルス対策セミナー(宮城県仙台市)開催を前に、改めて知ってほしいメンタルヘルス対策の重要性を語っていただきました。




2017年に東京で開催された「専門家が本音で伝えたいメンタルヘルス対策」の様子。





 山口県下関市生まれ。2002年大手電機メーカーに入社し、マーケティングならびに営業職として勤務。その後、人材系企業でマネージャー職やシステム会社の起業にかかわる。2008年よりメンタルヘルス対策支援センター(現・東京産業保健総合支援センター)のメンタルヘルス対策促進員として、300社以上の企業に対して、メンタルヘルス研修や職場復帰プログラムの作成等の支援を行う。2011年より現職。メンタルヘルスに関する法・制度の最新動向はもちろん、全国の事業所の先進・良好事例を自ら取材し、働く人・家族・組織に役立つ情報を提供している。主著に『日本で一番やさしい職場のストレスチェック制度の参考書』(労働調査会)がある。


社会的にメンタルヘルス対策が浸透しても進まぬ中小企業の取組み

 2008年からメンタルヘルス対策について、さまざまな企業を支援してきた石見忠士氏。大企業では一般化した一方で、中小企業の取組みが伸び悩んでいると語ります。「 厚生労働省の調査(※1)では、従業員数が100人以上の企業は97% 以上がメンタルヘルス対策に取り組んでいるのに対し、逆に50〜99人の企業では86%、30〜49人では63.5%、それ以下では51.6%という回答になりました。2013年から五ヵ年計画で進めてきた目標値は全事業所で80% 以上。日本は中小企業の事業所数が多いことから、調査全体の結果はわずか59.2%となってしまいました」
 中小企業のメンタルヘルス対策が進んでいないことが浮き彫りになった結果について、石見氏はこう分析します。「 別の調査(※2)で『メンタルヘルス対策に取り組んでいない主な理由』について質問すると、『該当する労働者がいない』という考えの企業が非常に多いことがわかりました。実際、私のセミナーに参加する方は、すでにメンタルヘルス不調者の対応に悩んでいる、一定の対策は検討している企業の担当者がほとんどです。『社内に不調者がいるかもしれない』『過去の退職者にもいたかも』と考えられるようになれば、取組みの実施企業は増えていくでしょう」
 経営者を対象にした調査(※3)では、「メンタルヘルス不調者が現れる原因」に対し、全体の約7割が「本人の性格の問題」と答えている結果もあります。しかし、不調の原因が職場環境にあるのではないか、とまず考えることが大切です。一方で石見氏は、「実は、メンタルヘルス対策と思っていなくても、職場環境をよくするために行っていた活動が、いわゆるメンタルヘルス対策だった、というケースもあります。そんなに難しいことではないんですよ」と、身近な取組みについてセミナーでさまざまな事例を紹介しています。

出典:
※1 厚生労働省「平成30年労働安全衛生調査(実態調査・令和元年8月公表)」
※2 厚生労働省「平成25年労働安全衛生調査(実態調査・平成26年9月公表)」
※3 独立行政法人労働政策研究・研修機構
「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」
(平成23年6月公表)




中小企業ならではの取組みは、社内コミュニケーションから生まれる


 石見氏は、「従業員数が少ない中小企業ならではの、その企業の事業内容や職場風土にあったメンタルヘルス対策を考えることが大事です」と語ります。そのためにまずやるべきことは、「社員の皆さんで、職場環境について話し合う機会を設けること」。人数の少ない中小企業だからこそ、一人ひとりが日頃から考えている環境改善のポイントが見えてきます。
 「例えば、月に一度、ストレス関連のセルフチェックをしていたり、朝礼の中でいまの職場の状況について、ざっくばらんに話したりといった活動がみられます。対策をする、研修をするだけでなく、話し合う機会をつくることがすぐにできる対策といえるでしょう」
 また、メンタルヘルス対策を経営課題と考えることも、取組みの推進力になるといいます。
 「中小企業にとって人材は宝です。メンタルヘルス対策は、貴重な人材を保持し、結果的に企業の業績に貢献します。メンタルヘルス対策は一つのきっかけとして、いわゆる『健康経営』を実現するために職場環境をよくしていく。中小企業だからこそ大企業よりも成果が早く目に見えるので、セミナーや他社の事例を参考に、ぜひ取り組んでほしいですね」




WEBサイト「こころの耳」では、石見氏自ら企業を訪れ、ストレスチェック制度の取組み事例などを多数掲載しています。



取組み成功事例①
ストレスのチェックだけでなくコミュニケーションの充実が好影響

兵庫県のあるバス会社では、運転に伴う緊張や心身の健康状態が運転操作に影響することから、ストレス対策が急務でした。そこで、メンタルヘルス不調の早期発見に焦点を当てたグループワークを実施。高齢者が多く、独立並行作業の職場のため、コミュニケーションの充実が対策の第一歩になりました。女性社員も増え、目に
見えない心の健康状態をよりよくする取組みに力を入れています。

取組み成功事例②
社員の心の健康を考えた計画を立案結果的に経営にも好影響が

福岡県の印刷会社では、メンタルヘルス対策に関する無料の公的支援があることを知り、専門家とともに事業内容に則した基本方針・計画を作成しました。その計画についてWEBサイトで広く告知。社員の心の健康づくりに対する企業の姿勢を社内外に伝えることで、県の競争入札時にも好影響があるなど、見事に健康経営のモデルケースとなっています。

※「健康経営」は、NPO 法人健康経営研究会の登録商標です。