〔広報誌2021年7・8月合併号掲載1〕
熱順化の不足や室内作業でも要注意!
コロナ禍における職場での熱中症対策
職場におけるリスク管理として、夏の時期の熱中症対策は必須となっています。また、昨年からは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、企業にも「新しい生活様式」における熱中症予防行動が求められています。熱中症対策とコロナ対策を兼ね備えた、適切な職場環境をつくるヒントを、産業医科大学教授・堀江正知氏に伺いました。
監修:堀江正知氏
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健管理学研究室 教授。
【資格】修士(公衆衛生学)、博士(医学)、日本内科学会認定内科医、日本産業衛生学会専門医・指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。
2020年の職場における熱中症の状況
厚生労働省の「2020年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、死傷者数は919人、うち死亡したのは19人でした。
死傷者数の4割を建設業と製造業が占め、月別の発生状況は7〜8月が最も多くなっています。2020年の熱中症の特徴としては、主に以下の4つ。ほかに「65歳以上の死傷率の高さ」「発症時の服装(通気性の悪い衣服を着用していたなど)」も指摘されています。
職場における熱中症による死傷者数の推移
出典:厚生労働省「2020年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」
熱順化の不足
熱順化とは、よい汗がかけること。
入職直後や休暇明けなど、十分に汗をかけなかったことで熱中症を発症し死亡に至ったケースがありました。
堀江氏より
汗をかくには慣れが必要です。日頃から運動をしたり、サウナに行ったりして汗をかく習慣をつけましょう。
屋内作業での発症
熱中症による死傷災害の
およそ20%が屋内で発生。そのうち約半数が製造業で、次いで商業が3割を占めています。
堀江氏より
炉周囲や調理場など熱源や蒸気のあるところは要注意。倉庫の上層部も熱がこもりやすい場所です。
対応や発見の遅れ
体調不良者を休憩させたが、目が行き届かず
周囲が気付いた時には高体温に陥っていたり、倒れているところを発見されたケースも。
堀江氏より
監督者の目の行き届く体制を整えるとともに、従業員にこまめに声掛けを行いましょう。
二次災害
熱中症によって
意識を失い転倒し、頭部や肩を強打。運転中に熱中症を発症し、交通事故を起こした例も。
堀江氏より
少しでも熱中症の症状や体調不良がある従業員には無理をさせず、適度に休ませることも大切です。
熱中症になる体のメカニズムとは
熱中症は気温の上昇や過度の運動により、体温が上昇して発生する健康障がいです。症状は、めまい、頭痛、筋けいれん、全身の倦怠感、体温上昇にともなう臓器不全などさまざまですが、それらの主な原因の一つは、
暑さにより大量の汗をかき体の水分がなくなる「脱水」。もう一つは
高温の環境や体の機能低下で熱を発散させられず体に熱がこもる状態で、これを「うつ熱」といいます。脱水やうつ熱が生じる要因としては、「仕事」と「個人」の両方が考えられます(下図)。個々人でできる対策、職場ぐるみで取り組む対策の両方から予防措置を講じる必要があります。
堀江氏より
喉が乾いていなくても、こまめに水分補給をすること、大量発汗時はナトリウム(塩分)も補給すること、そして疲れをためないことが基本です。睡眠不足や二日酔いは避け、体調がいつもと違うと感じた時は申告して、休憩をとりましょう。
感染症に配慮した熱中症対策─管理監督者が気をつけるべきポイント
感染対策
マスク着用は臨機応変に
堀江氏の検証では、マスクをすることで体温が上がる恐れは少ないとの結果が出ていますが、口元を覆うことで感じる暑さや蒸れ・不快感はぬぐえません。その場合は、
作業者同士の距離を確保する、仕切りを作る、飛沫がかからないよう風の流れをつくるなど、感染症対策をしたうえでマスクを外しましょう。
WBGTを減らす工夫を
気温だけでなく、湿度・輻射熱にも要注意
WBGT(暑さ指数)を下げることが重要。
屋根・日よけ・ブラインド、空調、扇風機等設備面の工夫とともに、帽子、通気性のよい衣服や空調服を着用するほか、衣服に保冷剤を仕込むことも有効です。
堀江氏より
通気性はもちろん、湿気を通す透湿性のいい衣服を選ぶことが大切。ファン付き作業服も有効です。
勤務環境の見直し・社員教育
熱中症にならないための体制づくりを
機械化を促進する、休憩を頻繁にとる、作業を分担し連続作業時間を短縮させるなど、
勤務環境をいま一度見直しましょう。また、単独作業中に熱中症になり発見が遅れ重症化したケースがあります。できるだけ2人以上で作業する勤務体制にしましょう。さらに
水分補給や体調管理の重要性を従業員に教育するほか、従業員・仲間の命を守るために
応急処置の方法も周知しましょう。
従業員の健康状態の確認
健康診断は定期的に、日頃のチェックも
管理者は従業員の体調を把握しておく必要があります。毎日朝食は摂っているか、睡眠は十分にとれているか、二日酔いでないかなどをチェックしましょう。また、
こまめな水分補給ができているか、極端に作業効率が落ちていないかなどの見極めも。
堀江氏より
肥満の人、糖尿病の持病がある人は特に注意が必要です。
従業員が熱中症になったら……
熱中症の重症度は症状に応じて3段階に分かれます(下図)。
重症になるほど臓器へのダメージが大きくなり、治療や職場復帰までが長期化し、さらには後遺症を招くこともあります。
Ⅰ度の段階ですぐに日陰に移動させ、水分補給と体温を下げるための応急処置が必要。それでも回復しない場合は医療機関に相談を。また、ペットボトルを渡しても自力で開栓できない(Ⅱ度)、声をかけても自力で起き上がれない(Ⅲ度)などの場合は
救急搬送が必要です。
■応急処置
衣服を楽にして濡れタオルなどを体に乗せる、靴と靴下を脱がせる、風を送るなど。顔や体に水をかけたり、霧吹きで水を吹き付けたりするのも有効です。
WEBセミナー 「職場における熱中症対策」配信中 (事前申込み不要・受講料無料・期間中何度でも視聴できます)
堀江正知氏によるセミナーをWEBで配信中です。「熱中症発症のメカニズム」「熱中症のリスク」「職場における熱中症対策」をテーマにしたお話のほか、マスクと熱中症についてもわかりやすくお話ししています。職場での熱中症対策および社員教育などにぜひお役立てください。
・視聴時間/約60分(約20分×3部構成)
・講 師/産業医科大学教授 堀江正知氏
・配信期間/8月31日(火) 24:00まで