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日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.13

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AMAROK 日仏調査結果から探る

日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.13


中小企業経営者の健康に“事業承継”が及ぼす影響とは?
~日仏調査比較より亀井克之氏が解説~


日仏の中小企業経営者・個人事業主を対象に、さまざまな角度から健康状態に関する調査をしている「AMAROK経営者健康あんしんアクションプロジェクト」。今号では、日仏の事業承継の現状と事業承継が中小企業経営者の健康に及ぼす影響を検証します。


亀井克之氏

AMAROK JAPAN事務局長、関西大学社会安全学部教授。日本リスクマネジメント学会副理事長など兼務。経営学をベースとしたリスクマネジメントを専門とする。





ベランジェール・デシャン氏

グルノーブル大学教授。フランス中小企業学会の事業承継研究グループを率いる、フランスにおける事業承継研究の第一人者。






調査はこのように行われました

 AMAROK 本部代表のオリビエ・トレス氏(モンペリエ大学教授)らによる「中小企業経営者の健康に関する実証研究」と、ベランジェール・デシャン氏(グルノーブル大学教授)らを中心に確立された「事業承継に関する研究」をもとに実施。2017年12月〜2018年1月、日本とフランスの中小企業経営者・個人事業主に対して、同じ項目の質問票を使用しました。日本は電話インタビューで324人、フランスは電話インタビューとインターネットを組み合わせて170人を対象に調査を行いました。

※使用しているデータ『図1』 ~ 『図4』 はAMAROK本部代表オリビエ・トレス氏の指揮によりまとめられ、亀井克之氏により翻訳。


事業承継(企業の譲渡)に関して日仏中小企業経営者の現場とは


 日仏両国ともに、回答者のほとんどが「創立者」か「家族相続者」となった本調査 『図1』 。将来の会社譲渡に関して尋ねると、フランス人経営者の69.12%、日本人経営者の71.54%が「譲渡計画がある」と回答しました 『図2』 。
 「 譲渡を計画していない」と答えた人のうち、その理由として最も多かったのは「その時期ではない」、次いで「会社を閉めるつもり」という回答でした。また、「譲渡相手を見つけたか」という質問に対しては、両国ともに半数近くが「今すぐ決定する必要がない」と回答しています。
 「 調査協力者のうち日本の中小企業経営者の62.65%が創立者で、フランスよりも多めですが、『事業承継(譲渡)計画を持っているか』という質問への回答の傾向は日仏で似ていました。調査から、創立者ほど自分が創った企業を次世代に継承してほしいと望んでいることがわかっています」とデシャン氏はコメントしています。


『図1』 会社に対する回答者の立場(現在のあなたの立場は?)


『図2』 譲渡計画(あなたの会社を譲渡する計画はありますか?)



「譲渡計画はない」あるいは譲渡が進まない理由とは?


あなたはなぜ譲渡を考えないのですか?

「その時期ではない」
・日  本…74人中71人
・フランス…41人中37人


その他の回答:「探したが譲渡相手が見つからなかった」日本0人、フランス0人/「誰も興味を持たなかった」日本1人、フランス1人/「会社を閉めるつもり」日本2人、フランス3人


相続人/買収者の状態(譲渡相手を見つけたか)

「今すぐ決定する必要がない」
・日  本…35人中17人
・フランス…22人中10人


その他の回答:「同意する譲渡相手を見つけた」日本8人、フランス3人/「候補者はいるが、彼/彼女はすぐには回答できない」日本2人、フランス1人/「譲渡相手を探している」日本0人、フランス3人/「候補者は何人かいるが、すぐには決定できない」日本0人、フランス0人/「いいえ、候補者を見つけていない」日本4人、フランス5人/「その他」日本4人、フランス0人



理想の候補者になかなか出会えない!?ともに働き理解を深めることがポイント


 会社を譲渡する相手として考えられるのはどのような人物でしょうか。日仏両国ともに、「すでに理想の候補者を見つけている」と回答したのは30%程度にとどまり、多くは「別の家族の一員」や「別の会社の社員」「別の外部買収者」を候補として挙げています。一方、「理想の候補者は誰ですか?」という質問に対しては、ほとんどの人が「家族の一員」「会社の社員」を挙げています。つまり、理想と現実が一致していない人の方が多いようです 『図3』 。
 しかし、これは悲観的要素とは限りません。会社を譲渡されて経営者となった人は、両国ともに80%以上が、「あなたに会社を譲渡した人間と一緒に仕事をした」と回答。しかもその経験を、「耐え難かった」と回答した人は少なく、ほとんどの人が「普通〜楽しかった」と回答しているのです 『図4』 。
 譲渡を計画するなら、候補者とともに仕事をすることは一つのポイントであり、理解と信頼は血縁を越えた重要な要素といえそうです。
 「 事業承継の形態が何であれ、成功するための要因として、『ノウハウ(知識)の継承』や『後継者と先代という二人の経営者の関係が良好であること』が挙げられます。事業の一定の継続性が保証されることを望む従業員にとっても重要です」(デシャン氏)


『図3』 考え得る事業承継の候補者は?


『図4』 譲渡者との関係(会社を譲渡してくれた人と一緒に仕事をしたときの感想)

「あなたに会社を譲渡した人間と一緒に仕事をした」と回答した人に、「譲渡後の譲渡者との関係はどのようなものだったのでしょう」と質問したときの回答。



事業承継の形(経営者としての“生い立ち”)は、心と体の健康に影響するのか(データは日本のみ)


 現在の体調と事業承継の形の関係性を比較してみると 『表1』 、「創業者・譲渡人」と「家業継承者」の間には差異がみられず、「外部からの後継者」と「元社員の後継者」においては差異がみられました。例えば、「外部からの後継者」には体調が悪いとする人が皆無で、「とてもよい」「よい」に回答が集中している一方、「元社員の後継者」では「最高」と答えた人は皆無、という結果が得られました。
 また、過去1ヵ月間のストレスについて、「ストレスはたまらなかった」とする人は、「創業者・譲渡人」「家業継承者」に多く、「外部からの後継者」では13.3%と少なかったのです 『表2』 。 こうした結果から、会社と自分との関係性が体調に大きく関わっていることが考えられます。外部からの後継者という立場はストレスをためやすい一方で、自分のメンタルヘルスを傷つけるほど深刻になりすぎないと分析できます。(亀井克之氏)


『表1』 会社における現在の立場と体調


『表2』 会社における現在の立場と調査前1ヵ月間のストレス度