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日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.12

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AMAROK 日仏調査結果から探る

日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.12


フランスのモンペリエ大学で開催された起業に関する学会で「AMAROK経営者健康あんしんアクション」の研究報告が行われました。日本からは亀井克之氏が登壇しました

あんしん財団がAMAROK JAPANと共同で立ち上げた「AMAROK 経営者健康あんしんアクションプロジェクト」の研究内容が、フランスの学会で紹介される機会を得ました。日本だけでなく、世界の中小企業経営者に必要な研究成果として評価されています。






モンペリエ大学とは

南フランスのラングドック地方の中心都市にあるモンペリエ大学は、ヨーロッパ最古の医学部がある伝統校。同大の経営学部は、フランスにおける中小企業研究のメッカであり、AMAROK 代表のオリビエ・トレス氏が所属する。AMAROK本部もモンペリエ市内にある。






 

起業がテーマの学会でもやはり“経営者の健康”の重要性は注目された


 2019年6月3〜5日に、「フランス アントレプレナーシップ・イノベーション学会(以降AEI)」の第11回大会が、モンペリエ大学経営学部で開催されました。1987年に設立されたAEIは、フランスにおけるアントレプレナーシップ(ページ右下参照)と中小企業を研究する、二大学会の一つとして知られています。
 今大会のテーマは「アントレプレナーシップ再考—起源から将来展望まで—」。ロンドン・キングストン大学教授のロバート・ブラックバーン氏による記念講演「ヨーロッパにおけるアントレプレナーシップ教育」で幕を開けました。約180人の参加者が事業承継をはじめ、企業との関係性や社会的責任など、複数のセッションに分かれて、研究発表と討論を行いました。
 関西大学教授の亀井克之氏は、「AMAROK 経営者健康あんしんアクションプロジェクト」による日仏共同調査に基づいて、モンペリエ大学教授でAMAROK 代表のオリビエ・トレス氏、オランダ・エラスムス大学名誉教授のロイ・チュリック氏とともに研究発表を行いました。テーマは「アントレプレナーの健康を増進する要因についての実証研究」。今大会でも活発な質疑応答が行われるなど、多くの反応がありました。ほかにもAMAROKに所属する研究者であるアレクサンドル・ベンザリ氏が、「テクノストレスが中小企業経営者のバーンアウト(燃え尽き症候群)に及ぼす影響」をテーマに研究報告を行いました。



フランス語圏外で唯一の登壇者となった亀井氏。モンペリエ大学教授のオリビエ・トレス氏、エラスムス大学名誉教授のロイ・チュリック氏とともに参加。


アントレプレナーシップとは

 日本語では“ 起業家精神” とも呼ばれています。新しい分野・事業を切り開いていく力、それを実現する創造力や発想力、リスクを恐れずに向き合っていく勇敢さ、挑戦し続ける姿勢など、起業家が持ち合せているものを総称した概念です。現代の社会においては起業家、経営者のみならず、中小企業、大企業などの組織に属する社員にとっても、重要な要素だといわれています。


登壇したAMAROK 主要メンバーによる発表内容とメッセージ



亀井 克之氏

関西大学社会安全学部教授
AMAROK JAPAN・事務局長




 「AMAROK 経営者健康あんしんアクションプロジェクト」による日仏共同調査の結果、アントレプレナー・中小企業経営者の健康を生み出し、増進させる要因として、次のことが明らかになりました。
 日仏で共通しているのは、「理解者がいること(孤立していないこと)」「昼食をきちんととれること」「睡眠の状態がよいこと」でした。一方、日本人の中小企業経営者で顕著であったのが「仕事の充足感」であり、フランス人の経営者では「妥当な労働時間」でした。また、健康を生み出すストレス耐性などの「レジリエンス」という観点からは、フランス人経営者の方が勝っているという結果が出ています。




オリビエ・トレス氏

モンペリエ大学経営学部教授
AMAROK 代表




 医療社会学者アントノフスキーは、人々の健康維持・増進には、「首尾一貫感覚(理解が及ぶこと、コントロールできること、意義が認められることの3要素)」が必要であると提唱。それは、後続する研究者によって、「健康を生み出す37項目の要因」として紹介されるようになりました。
 AMAROKによるアントレプレナー・中小企業経営者の健康に関する調査の結果、37項目のうち、特に次の3項目が健康増進に貢献していることが明らかとなりました。
 それは「適応する能力」と「打たれ強さ」、「自分の行動の結果を受け入れる能力」です。




ロイ・チュリック氏

エラスムス大学ロッテルダム校名誉教授
AMAROK NETHERLANDS(オランダ)代表




 今後、アントレプレナー・中小企業経営者の健康を増進する要因についての研究をさらに推進するには、アントノフスキーの後続の研究者たちが挙げた「健康を生み出す37項目の要因」からさらに絞って、調査を簡潔にする必要があるでしょう。
 アントレプレナー・中小企業経営者における日本とフランスの比較は、きわめて興味深い研究です。今後も、日仏比較調査に基づいて、経営者や起業家を「多動性」「自己愛」「内省」などの視点から分析し、インパクトファクターの高い(評価の高い)学術雑誌に論文を投稿していく予定です。




アレクサンドル・ベンザリ氏

モンペリエ・ビジネススクール講師
AMAROK 研究員




 ICT(コンピューター情報処理)の発展により、アントレプレナーによる起業や、中小企業経営者によるマネジメントは効率化しました。一方でICTの常時活用によるテクノストレス(ITに適応できないことによるストレス)、そしてその結果としてのバーンアウト(燃え尽き症候群)も顕在化しています。
 アントレプレナーや中小企業経営者の健康状態に影響を及ぼす外部刺激と顕著な相関を示したのは、「役割があいまいであること」「一人で何役もこなさなければならないということ」と、その結果「過重労働になりがち」だということでした。




Conclusion

「事業承継」は、いまや世界の社会問題に

 今大会において、最も研究発表の数が多かったテーマは「事業承継」でした。フランスも日本と同様に、中小企業の後継者探し・育成の難しさ、事業承継の不全は社会問題になっており、フランスにおける事業承継研究の第一人者であるグルノーブル大学教授のベランジェール・デシャン氏を中心に熱い議論が行われていました。「事業承継」「事業承継と経営者・後継者の健康」は注目すべきテーマであり、今後も研究を続けていきます。

(亀井克之氏)