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「職場での熱中症」を防ごう!

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〔広報誌2023年6月号掲載〕

従業員の命を暑さから守り、安全に働くために
「職場での熱中症」を防ごう!

夏に向けて暑さが増すこれからの時期は、職場における熱中症に注意が必要です。熱中症を予防するための作業環境づくりや、従業員の健康管理などの対策を講じることは、仕事の作業効率を上げることにもつながります。いまから取り組みたい有効な備えや対策について、産業医科大学教授の堀江正知氏に伺いました。


監修:堀江正知氏

産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健管理学研究室 教授
【資格】修士(公衆衛生学)、博士(医学)、日本内科学会認定内科医、日本産業衛生学会専門医・指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)



※熱中症はあんしん財団の「ケガの補償(事業総合傷害保険)」の対象外です。



体が暑さに慣れていない6月も要注意


総務省によると、2022年に熱中症で救急搬送された人は71,029人(図1)で、調査を開始した2008年以降、3番目の多さでした。「2022年は、6月下旬から7月初旬に猛暑日が続き、救急搬送者数が急増しました。この時期は、体がまだ暑さに慣れていないため、熱中症を起こしやすいのです」と堀江氏。予防には、体を暑さに慣れさせるトレーニング(暑熱順化)が有効です。早めに下記のような暑熱順化に取り組むようにしましょう。
暑熱順化とは
体を暑さに慣れさせ、汗を上手にかけるようにすることを暑熱順化といい、1週間以上かけて行うのが望ましいとされる。個々人での取組みを促すとともに、暑くなり始めたら1週間くらいは無理せず体を慣らす、暑熱下での作業時間を段階的に長くするなどの配慮も必要。


図1 救急搬送人員の年別推移


出典:総務省「令和4年の熱中症による救急搬送状況」



職場での死傷者の約4割は建設業・製造業

厚生労働省によると、2022年の職場における熱中症死傷者数は805人、うち死者が28人。業種別では、建設業・製造業で合わせて約4割を占めます(図2)。このことから、屋外の炎天下での作業はリスクが高いことが伺えます。また、屋内でも、高温・多湿、通気性が確保できない作業環境では、熱中症発症例が多いので注意が必要です。暑さを感じた時には、すでに危険な状態であることも多いので、気象情報暑さ指数(WBGT)、「熱中症予防情報サイト」で発表される熱中症警戒アラートなどにも留意し、早めに備えることが大切です。「職場でできる熱中症対策は多数あり、経営者・管理監督者がそれに気付いて取り組むことで、熱中症は確実に減らせます。下記で紹介する具体策を参考に、できる対策を確実に行いましょう」(堀江氏)。
図2 熱中症による業種別死傷者数の割合


出典:厚生労働省「令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」


Check!

熱中症のメカニズムと主な症状

熱中症は、高温・多湿な環境に長くいることで起こる健康障害で、原因は体に熱がこもる「うつ熱」と、大量の汗をかいて体の水分・塩分が不足する「脱水」です。重症になるほど臓器へのダメージが大きくなります。

熱中症の好発症状と対応方法





効果的な4つの熱中症対策



1.環境対策


ポイントはWBGTを下げること

「日陰をつくっているか」「通風が確保できているか」など、勤務環境を確認しましょう。また、作業場所ごとにWBGTを把握し、熱中症が急増するといわれる28(厳重警戒)を超えた場合は作業を中断するなど、適切に対処しましょう。

  • 日陰をつくる
    屋外ではキャノピーなどの簡易的な屋根を設置。
  • 冷房設備の設置、通風の確保
    冷房設備のほか、大型ファンで風を送ると、体温を下げる効果が高まる。また、風の通り道をつくって熱気や蒸気を排出する。
  • 散水設備の設置
    ミストシャワーなどを設置する。

環境省「熱中症予防情報サイト」では、2日後までのWBGT予測値を公開しているので、事前の備えに役立てましょう。


2.作業管理


作業にかかわる予防ポイントを見直す

暑熱順化に配慮した作業スケジュールやシフト、休憩場所の整備、衣類の工夫など、作業にかかわる熱中症予防のポイントを確認しましょう。

  • 作業計画の柔軟な見直し
    梅雨明けの急に暑くなる時期や休日明けは連続作業を減らすなど、余裕のある作業スケジュールを組む。
  • 水分・塩分の補給
    ウォータージャグなどを設置し、休憩時間以外にも頻繁に水分補給できるようにする。水分は常温でもよいが、作業前に冷たい飲料を飲んでおくと体温上昇がゆるやかになって効果的(プレクーリング)。塩分と水分を同時に補給できるスポーツドリンク塩あめなどを常備しておく。
  • 作業シフトの調整
    休憩は1時間に1回など頻繁にとる。2人以上で作業し、暑熱下での作業は短い時間で交代制にする。
  • 作業着の工夫
    天然素材や、やや大きめの服を選ぶなど、通気性を高める工夫を。ファン付き作業服保冷剤を仕込んだ衣服も効果的。屋外では帽子を着用する。



3.健康管理


リスクを早期に発見できる仕組みづくりを

熱中症を防ぐための環境整備、職場巡回、飲水指導などを担う熱中症予防管理者を決めておきましょう。また、普段から従業員への健康管理指導を行うことも重要です。

  • 管理監督者による確認・巡回
    管理監督者は毎日、従業員の体調を確認。特に「糖尿病、高血圧、心臓病などの持病がある人」「朝食を食べていない・下痢・発熱・疲労・睡眠不足・二日酔いの時」などはリスクが高まるので注意が必要。作業中は頻繁に巡回し、体調が悪そうな従業員がいたら、すぐに声をかけ状態を確認し、必要に応じて休ませるなどの対処をする。
  • 健康管理指導と申告しやすいムードづくり
    日頃から熱中症予防のための労働衛生教育、健康管理の重要性などを周知しておく。また、体調不良の時に遠慮せずに自ら申告できるような雰囲気をつくっておくことも大切。



4.救急処置


熱中症を重症化させない最後の砦

体調が悪化すると言葉で異変を伝えられず、周囲が気付かないうちに重症化してしまうケースが少なくありません。少しでも様子がおかしいと感じたら、上記の「熱中症の好発症状と対応方法を参考に、早めに救急処置を行えるよう、日頃から周知しておきましょう。

  • 軽度でも日陰で休憩させる
    軽い症状でも、熱中症が疑われる時は日陰で休ませる。
  • 意識障害があれば迷わず救急車を
    上記「熱中症の好発症状と対応方法」のⅠ度が回復しない場合、およびⅡ度・Ⅲ度の時、特に意識障害が見られる時はすぐに救急車を呼ぶ。
  • 救急車を待つ間に体を冷やす
    救急車の到着を待つ間はとにかく体を冷やし、体温を下げることが重要。
【応急処置】
衣服をゆるめ、ヘルメットなどは外し、靴・靴下を脱がせた状態で、体に水をかけて風を送る。風はファンがあればそれで送り、なければうちわなどであおぐ。いざという時にすぐ対処できるよう、普段から水道の場所を確認し、水を入れたバケツを常備しておく。





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  • 講師/産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健管理学研究室 教授 堀江正知氏
    【資格】修士(公衆衛生学)、博士(医学)、日本内科学会認定内科医、日本産業衛生学会専門医・指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)
  • 配信期間/6月1日(木)10:00〜9月30日(土)24:00まで  ※期間中は何度でも視聴可能
  • 視聴時間/約60分
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