H1

基本が大事!冬の感染症流行期に備えた職場での感染症対策

コンテンツ
〔広報誌2020年12月号掲載〕

 例年、秋・冬を中心に流行している「インフルエンザ」「ノロウイルス」などに加え、今年は「新型コロナウイルス」も新たなリスクとなり、企業の「感染症対策」は必須となっています。いま、中小企業に求められるリスクマネジメントとして、取るべき対策とは何でしょうか?事業所における感染症対策について、当法人のセミナーで講師を務める岩﨑惠美子氏にお話を伺いました。



感染症対策の第一人者

岩﨑惠美子氏

新潟大学医学部卒業。1998年厚生省 成田空港検疫所 企画調整官 仙台検疫所長就任。2000年WHOの派遣要請によりウガンダ現地におけるエボラ出血熱の診療・診断・調査活動に従事。2007年仙台市副市長に就任。現在は株式会社健康予防政策機構 代表取締役。



新型コロナウイルスに加え引き続き対策を


 新型コロナウイルスの影響で、感染症に対する関心が極めて高い今年においても、冬の感染症に対しては正しい対策を再確認することが必要だと、岩﨑氏は話します。
 「毎年冬は、インフルエンザ・ノロウイルスの『2大感染症』を中心とした感染症の流行期。新型コロナウイルスの流行が小康状態になったとしても、感染症対策をおろそかにしてはいけません。4月の緊急事態宣言で、感染症流行が企業経営の大きなリスクになると実感したはず。従業員の健康や命、事業の継続性を守るためには、2大感染症も新型コロナウイルスと同じリスクがあると考えましょう」



空気よりも「手からの感染」に要注意!


 新型コロナウイルス感染拡大以降、岩﨑氏の下には、不安と混乱の声が多数届いているといいます。しかし、岩﨑氏は「効果の期待できない対策が、多数メディアで報じられました。間違った情報におびえすぎないで」と語ります。「何をすればいいのか迷った時は、やはり基本に立ち返ること。特に手洗いは徹底してください。感染症の主な感染経路となる『接触感染』は、手から体の中に入ることが多いです。外回りからの帰社時やトイレ使用後は、必ず石けんでの手洗いを。『飛沫感染』も感染経路になり得ますが、飛沫が直接体に入るケースは実際には少なく、飛沫のついた場所を手で触ることが主な原因です」
 報道の影響で、「現在は感染症に対して『空気・飛沫』だけを恐れる人が多い」と岩﨑氏。しかし、ウイルスをまき散らすのは“口からだけではない”と考えることが大事です。「口から入ったウイルスは、確かに当初口腔内で増殖しますが、その後血流とともに全身に回り、腸管へ至ります。そのため吐しゃ物や糞便も、大変危険なのです。マスクを絶対的に信用したり、密を避けたりするだけでなく、感染経路をイメージした対策を行い、感染症を予防しましょう」



まずはしっかり手洗いから

 



秋・冬に流行する「2大感染症」の対策が基本!



インフルエンザ
ノロウイルス
特徴・主な症状  38℃以上の高熱やせき、のどの痛み、関節痛など。風邪と似た症状で急激に発症。流行する型が毎年異なる 突発的に発症し、激しい嘔吐、下痢を伴う急性胃腸炎を引き起こす。ヒトの腸管のみで増殖する
感染経路 飛沫感染、接触感染、空気感染 食品媒介による経口感染、飛沫感染、接触感染、塵埃(じんあい)感染※
主な対策 1.手洗い・手指消毒
石けん・流水で指先までしっかり手洗い。アルコール消毒も有効
2.うがい
気道粘膜の十分な湿度を保ち、細菌の付着、定着を防ぐ
3.ワクチン接種
毎年流行前に接種し、感染後の重症化を防ぐ
4.せきエチケット
ウイルスを他人にうつさないよう、せきやくしゃみをする際はマスクなどで口を防ぐ
1.徹底した手洗い
ウイルスが非常に微細なため、食事前・トイレ後は二度手洗いが有効
2.生活環境の洗浄・消毒
トイレはドアノブやペーパーホルダー、手洗い場まで洗浄・消毒
3.汚物の処理
二次感染を防ぐため、汚物処理の備品を事前に用意
4.食品の加熱
中心温度85~90℃で、90秒以上食品を加熱する

※乾燥した便や吐しゃ物が埃とともに空気中に舞うことにより感染すること



事業所の感染症対策に関するお悩みに、岩﨑氏がアドバイス


感染症対策の情報が多すぎて、何を優先すればいいのか……

テレビや新聞では、毎日移り変わるように異なる感染症対策が報道されているし、業界のガイドラインも項目が多すぎて、すべては実施できそうにありません……。


手あたり次第にやればいいわけではない。基本を大事に

中小企業では、大企業のようにコストをかけた万全な感染症対策が、必ずしもできるわけではありません。業種によっては、不可能な対策もあるでしょう。低コストで、効果の大きなものを検討すれば、自然と基本の感染症対策になるはず。左ページの2大感染症対策をベースに、手洗いの徹底を中心とした感染症対策を継続しましょう。

従業員に感染症対策が浸透しません……どうしたら?

感染症対策を徹底するよう、従業員に呼びかけているのですが……。新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言後、半年以上がたち気が緩んできているのかも……。


ルールはシンプルに、数を少なく。その分徹底しましょう

複雑な対策を呼びかけても、忙しさからつい忘れてしまうことはあります。業務を優先しつつ感染症対策を行うには、ルールはシンプルに。外出する際は「なるべく公共のトイレは使用しない」「オフィスに戻ってきたら石けんで手洗い」の2つだけは徹底しましょう。また、社内ではポスターなどを目立つところに掲示して啓発しましょう。

事業所でのクラスターを防ぎたい!

集団感染を防ぐために、事業所内ではどこに注意すべきですか……?


トイレ、出入り口、共有スペースを清潔に。喫煙所も注意が必要です

トイレの使用後は石けんでの手洗いを徹底しましょう。また、出入り口や共有スペースは接触感染のリスクが高いです。さらに注意したいのが食堂と喫煙所。食事やタバコを吸う際は手が口に触れるので、接触感染の原因になります。食堂や喫煙所へ向かう“前”にも必ず手洗いを!



社内で感染症が発生したら……事業所としての正しい事前準備


 感染症対策をしっかり行ったうえで、万が一、社内で感染症が発生したら……。事業所は従業員の健康と命、事業継続のために、事前にどのように行動すべきかを決め、社内で共有しておかなければなりません。右を参考に初動対応に最低限必要な情報を、いますぐ確認しておきましょう。

1.連携可能な保健所の確認

濃厚接触者への対応など、必要な相談を受け付けてくれる「保健所」「帰国者・接触者相談センター」 等の確認など

2.初動対応ルールの策定

感染の疑いがある場合、速やかに相談・連絡できる担当者を決定。感染が疑われる従業員への連絡義務、該当者への差別的な行動の禁止等の周知など

3.感染拡大防止策の策定

濃厚接触者の調査方法とその取扱い、接触箇所の消毒、社内周知の方法、事業継続の判断、自宅作業環境の実現性など