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シニアビジネス成功の秘訣

シニアビジネスは「宝の山」といわれる。
だが現実では、一時は成功しても、
それを維持できている企業は少ない。
ならば、シニアビジネスで
利益を出し続けるにはどうすればよいか。

PART1
「健康」と「本物志向」がシニア層を引き寄せる-1時間で1,000万円売れる肌着-

本物志向に支持される最高級綿の下着

(株)美光は43年の歴史を持つ女性向け下着メーカーだ。同社がシニア向け下着市場に進出したのはいまから15年前。「癒しの工房」というカタログ通販から始まり、現在では高級百貨店、テレビ通販など多様なチャネルに広がっている。ある通販会社ではふくらはぎのマッサージ効果がある『ゲートル』だけで、年間1億円も売れるという。

同社の製品の特長は、全て日本で生産しており、糸や織り、染色などにこだわりがあることだ。「うちは繊維産業発祥の地、近江で先祖代々糸商をやっていた。だから糸に対する執着がある」と社長の田中大三氏。

例えば、「繊維の宝石」の異名を持つ海島綿でつくった肌着は、ふっくらした感触で思わず頬ずりしたくなる品質の高さ。ショーツは2940円~、ノースリーブのシャツは4725円~と価格は通常の綿のおよそ3倍だ。それにもかかわらず、テレビショッピングに出品すると1時間で1000万円分を売り切ってしまう。

シニア用下着の点数は、当初の4点から現在は500点以上に増え、売上全体に占める比率は2割から6割に増加した。

街頭で道行く人に説明2年で800人を獲得

そもそも同社がシニア市場に出たきっかけは、航空会社に勤めていた知人と偶然、出くわしたことだ。知人はすでに定年。夫婦水入らずの旅行帰りだった。上品で元気な笑顔。当時55歳だった田中氏は、これが自分の理想の老後であり、また、高齢社会のあるべき夫婦の姿だと思ったという。

このような夫婦でいるために一番大切なのは健康。健康のためには免疫力を高める。免疫力の大敵は冷え……。健康に関心が高く、多くの医者と交流があった田中氏はこのように考え、シニアが健康でいられるための下着をつくる決意をした。

しかし、健康用の下着の開発には大変な費用がかかる。例えば、前述したゲートルは、薄いことがセールスポイントだが、薄い生地に血行を促進するほどのパワーを持たせることは難しい。そこで海外から特殊編み機を購入。1600万円の投資だった。さらに1000人単位のモニター調査、医者によるデータのチェックなどが加わり完成までにおよそ3年間費やした。一事が万事この調子。膨大な金食い虫だ。

さらに難問は販売チャネル。シニア向けの下着は低価格が常識なので、どこも高額下着を扱ってくれない。かといって、直販するための顧客リストもない。

田中氏は、同社の通販カタログ「癒しの工房」第1号をつくり、それを持って銀座に出かけていった。商品数はたったの4点。だから、タブロイド版にして、冷えのリスク、冷えを防止するための料理、食材などを紹介する情報紙の体裁をとった。

銀座・和光の前で、健康に興味がありそうな人、好奇心旺盛そうな人などに声を掛け、隣の木村屋で下着のコンセプトを説いた。共鳴しても住所まで教えてくれる人は100人に一人もいない。「『今日こそは、今日こそはと喜びいさんで来てみたが、むなしく帰る両国橋』なんていう歌までつくったよ(笑)」。

しかし、2年間続けてみると、カタログを読んでから、連絡先を教えてくれる人も現れ、顧客は800人に膨らんでいた。

各顧客への販売は 70歳でピークを迎える

田中氏の自信が崩れなかったのは、二つの大義があったからだという。一つは高齢者の健康を守ること。もう一つは糸のみならず、メイド・イン・ジャパン製品へのこだわりだ。

当時は、中国への生産拠点の移転ラッシュが始まった頃。しかし、歴史の循環リズムを重視し、高度成長期の発展スピードを体感した田中氏は、まもなく中国で中産階級が台頭し、彼らはいずれメイド・イン・ジャパン製品をほしがると確信していた。その時のために高い技術を持った日本の町工場を守る必要がある。価格破壊が進行する中、田中氏はこれまで通り、主力商品であったヤング・ミセス用下着を国内工場に発注。だが当然、高額な下着は売れ残り、投げ売りせざるをえない。

シニアビジネスに進出したのは、そんな時期だった。田中氏には、シニア用下着なら、高額でも国内生産ならではの価値を理解してもらえるはずだという自信があった。

主力商品で赤字を垂れ流し、新規ビジネスのシニア用下着は売れない。スタートして8年間の赤字は4億円近く。田中氏に見切りをつけて辞めていった社員は30名に達した。このままでは債務超過に陥るというところで、シニア用下着が売れ始めた。団塊の世代がシニアに突入してきたことも大きかったのだろう。またその頃、シニアが割引でチケットを買えるJRのジパング倶楽部も始まった。「その会報誌に広告を出したことも奏功した」。同時に田中氏の予想通り、メイド・イン・ジャパン製品が見直されてきた。ダブルの赤字の要因が、ダブルの黒字の要因に変わったわけだ。

「癒しの工房」の会員数は8万人に達し、リピート率は2割。50〜60歳で同社の製品に触れ、70歳で消費のピークに達するという循環も見えてきた。また、年齢を問わずアトピーなど皮膚の弱い人の愛用者も増えている。

ところで、通販カタログのネックは送料。8万部出せば1回で約650万円かかる。今後はネット、さらに3年後を目標に社内にスタジオをつくりテレビショッピングに切り替えるという。その先には、高齢化を迎えるアジア市場が広がっている。まだまだ伸びしろは大きい。

PART2
シニアも含めた全年齢層が利用できるサービスを展開
-細分化した宅配サービスで安定した売上げを確保-

シニアは千差万別 選択肢を多くする

健康上の理由で、気軽に買い物ができない高齢者が増えている。そこに商機を見出し、近年、大手スーパーや生協、コンビニエンスストアが宅配サービスを始め、競い合っている。

そんな激戦の中で、独自の宅配サービスを展開し、利用者を増やし続けている三重県の中堅スーパーが、スーパーサンシ㈱だ。戦後、協同組合からスタートし、現在は、四日市や鈴鹿など、県内に13店舗を構える。

同社が高齢者向けの宅配サービスを始めたのは1980年代前半。30年以上も前の話だ。


「『近い将来、高齢社会になり、必ず宅配サービスが求められる。いまから始めよう』。そんなオーナーの鶴の一声でした」

そう営業本部長の田中勇氏は語る。一軒一軒チラシをポスティングして回り、少しずつ認知度を高めた。顧客の要望を吸い上げながら、サービス内容を改善したという。「お客さまの声を聞いてわかったのは、シニアといっても千差万別ということ。多様なニーズに応えるため、さまざまな選択肢を用意しました」。

利用者から支持を受けている理由は、「安心クラブ」「ネット宅配サービス」「らくだ便」という3つの宅配サービスを用意することで利便性を高めたことだ。

まずは「安心クラブ」。これは、60歳以上の高齢者と体の不自由な人だけが受けられる会員制サービスで、2000年にスタートした。申込むと、毎週1~2回、希望した曜日と時間に同社から電話がかかる。目的は御用聞きと安否確認だ。電話に出なかった場合は緊急連絡先に連絡が入るようになっている。一人暮らしの高齢者にとっては、ありがたいサービスだろう。

年2回配布される商品カタログや新聞の折込チラシの特売品を見て注文すると、その日のうちに注文した商品を届けてもらえる。もちろん、スーパーサンシからの電話を待つのではなく、思い立った時に、客から電話をかけて注文してもかまわない。

「注文はコールセンターで15人の担当者が受付けています。お客さまの中には『あの人と話したい』と指名してくる方も。『昨日、病院に行ったら、こんなことを言われて』などと雑談をされる方もいます。効率は下がりますが『あの人の声を聞くと元気になる』といった喜びの声を聞くと、モチベーションも上がる。可能な限り、話に応じるようにしています」

毎月500円で利用できるサービス

二つ目の宅配サービスは、パソコンや携帯電話で注文する「ネット宅配サービス」だ。「意外かもしれませんが、ネット宅配を利用するシニアの方は非常に多いです。パソコンもスマートフォンも使いこなす60代は珍しくないですから。70代後半~80代前半になると安心クラブを利用される方が増えてきます」。

3つ目の「らくだ便」は、店で買った商品をその日のうちに自宅に届けてもらえるサービス。

「米やペットボトルなどの重い物を持ち帰るのは辛い。シニアのお客さまに限らず、若い世代の方にも利用されています」

いずれのサービスにも共通するのは、月500円の登録料を払えば、何度利用しても送料がかからないことだ(※らくだ便は買い上げ金額が1500円未満の場合1回80円)。さらに、最低注文価格は1円。商品の価格も店頭と変わらない。

「それでも『登録料が500円は高い』との声をいただくことも。お客さまはシビアです」

シニアを意識しつつ他の年齢層も取り込む

これだけサービスが充実していれば、利用者が多いのも頷ける。しかし問題は採算だ。コールセンターで注文をまとめた後、配達拠点の7店舗で商品をピックアップし、配達する。その商品ピックアップと配達担当のスタッフは、自前で用意している。毎日配送しているので、多くの人を確保する必要がある。

「シニアだけをターゲットにしていては、採算はとれないでしょう。そこで、他の年齢層の方にも利用していただけるよう、知恵を絞っています」

会員の家の外に宅配ロッカーを設置し、商品を置くシステムを導入したのは、その対策の一つだ。こうすると、日中に時間のない共働きの夫婦を取り込める。配送スタッフと顧客が直接会わないため、高齢者の安否確認はできないが、必要なら「安心クラブ」を利用すればよい。また、宅配ロッカーを導入すれば、不在時の再配達がなくなり、配送効率もぐんとよくなる。

一方、シニア向けサービスとしては、配達時に新聞や缶・瓶などの資源ゴミを無料回収するサービスを行っている。年をとると、資源ゴミを収集場まで持っていくのがきつくなる。玄関先での回収サービスは、同社を選ぶ有力な決め手になるわけだ。もちろん、ゴミを出す時間のない人にも喜ばれるだろう。

こうしたサービスを提供した結果、宅配サービスの会員は1万人をはるかに超えた。1日平均数千件の受注が得られるようになり、その売上げは同社の安定した収益源となった。

シニアを意識しつつも、全年齢層に受け入れられる。それでいて、利益も出る。そんなバランスのとれたサービスを設計できるかどうかが、シニアビジネスの成功の鍵といえそうだ。

PART3
「これまで通り」をいかにサポートするか -高齢者向けサービスは元気な人には無用-

アクティブシニアは本当にターゲットか?

何歳からがシニアなのか。時代によってイメージは変わるものだが、仮に65歳以上とすれば、その数は今年、3000万人を突破した。今後も増加の一途をたどるので、目の前に膨大なマーケットが広がっているように見える。

実は、私も数年前まで、そう考えていた一人だ2004年にシニアマーケット参入を狙う企業の異業種交流会「ゴールド倶楽部」を立ち上げると、瞬く間に全国組織に育ち、シニアマーケットの将来への期待を膨らませたものだった。

中でも、多くの企業が着目したのは元気な高齢者、いわゆるアクティブシニアだった。健康で時間とお金に余裕があり、知的好奇心も旺盛。こんなシニアをターゲットに、会員たちはクルーザーの販売、高級旅行、シニアの経験を生かした人材派遣、金融コンサルティングなど、さまざまなビジネスを考案したが、結論から言えば、いずれも惨憺たる結果に終わった。冷静に考えれば、アクティブシニアが、わざわざ高齢者向きのサービスを利用する必要もないし、メリットもないからだ。

一方、最近、弁当や日用雑貨をはじめとした宅配サービス、送迎サービス、出張販売など、足腰が弱くなったシニアの不便を解消するサービスがめざましく伸びている。注目すべきポイントは、「買い物」という目的については、シニア向けではないことだ。

誰でも利用できるサービスにヒントあり

提供しているのは、一般のスーパーやコンビニなどを利用するためのサポート・サービスにすぎない。また、このサポート・サービスは、シニアの利用が多いだけで誰でも利用できる。この買い物サポート・サービスにシニアビジネス成功のポイントが隠れている。

まず外せないポイントは、「シニアはこれまで通りの生活や趣味などを続けたい」ということだ。それを妨げるのが老化や病気であり、シニアは希望の生活と自分の体力のギャップを埋めてくれるサービスを求めている。

ところが、多くの企業は、「シニアビジネスとは、店に例えれば、シニア専門のスーパーやコンビニそのものをつくることだ」と思い違いをしていたわけだ。「イスの数を増やす」、「文字の表記を大きくする」。もしかしたら、そんな工夫を加えるだけで自社のビジネスがシニアビジネスに進化するのかもしれない。

「シニアビジネス参入」と大上段に構えるのではなく、「握力が弱くなったら」「視力や聴力が衰えたら」─そんな角度から、自社のサービスや商品の使い勝手を見直すことが、シニアビジネス成功につながるといえよう。