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苦境に打ち勝つ企業再生

百年に一度と言われ、世界経済に多大な損害を与えたリーマン・ショック。
昨年発生した東日本大震災もあいまって、
回復のきっかけをつかめない企業は少なくない。

その流れに飲み込まれ、会社が苦境に陥った時、
経営者はこれをどう乗り越えればいいのか。

V字回復を遂げた会社から再生の発想法を学ぶ。

PART1
強気な姿勢に戦略を加えV字回復につなげる-食品への印刷を会社の軸に-

強気一辺倒の姿勢で苦境へと陥る

ものの流通が滞る不況時においても、攻めの姿勢を持ち続けることは重要だ。しかし、気持ちだけで、それに方向性や計画性が伴わなければ結果に結びつかない。青森県八戸市で印刷業を営む(株)中長印刷が苦境に陥った原因はそこにあった。

2年前の2010年の末、同社はかつてない崖っぷちに立たされていた。

「このままいけば年が越せなくなるのは目にみえていました。どうやってこの状況を乗り越えればいいのか。休みの日にも、会社のことが片時も頭から離れませんでした」

当時の心境を同社の中村勉社長は、そう振り返る。とはいえ何もやってこなかったわけではない。むしろ厳しい状況の中で、営業部員を4名から7名に増やすなど、テコ入れしてきた。しかし、売上獲得を目指し、強気な姿勢で社員を引っ張っても、それがなかなか成果として結びつかない。その結果、営業より資金繰りに時間を取られるようになった。

社長とともに会社を育ててきた弟の中村正明専務が外部の力を借りることを提案したのはそんな時だ。これでダメなら後はない─。その覚悟のもと、企業再生のコンサルタントに助言を仰ぐことを決めた。

先を見据えた全社一体の取り組み

そもそも同社を苦境に向かわせる原因となった強気の姿勢はどこから生まれたのか。そこには会社の歴史も深く絡んでいる。

創業時には製本会社だった同社を印刷業へと転換させたのが今の勉社長だ。その後は新たな設備を導入し、それに合わせて売上を伸ばすことを繰り返しながら、会社の規模を大きくしていった。このサイクルで成功してきた経験が強気な判断へとつながった。

正明専務は、「会社が苦しくなったのはリーマン・ショック後です。ちょうど新しい機械を導入し、これから仕事を増やそうというタイミングでした。ただ、いま思うと考えが甘かったのでしょう。受注減は一時的なものと高をくくって、すぐに投資分を回収できると考えていましたから」と苦しくなる前を語る。結局、この設備投資の借金が同社を苦しめることになった。

そんな同社の再生は、まず返済スケジュールの見直しをするところから始まった。その際に切り札となったのが09年に時限立法として成立した「中小企業金融円滑化法」。先頃、13年まで延長されたこの法律と、コンサルタントの持つ知識をもとに金融機関と交渉を重ね、返済の猶予を得ることができた。これでようやく、本腰を入れて事業の見直しに取りかかれる。そう思った矢先に東日本大震災が同社を襲った。

直接的な被害はなかったが、それでもキャンセルが続くなど大きな痛手となった。こんな状況では売上を伸ばせない─。青くなっていたところ、コンサルタントより考え方の間違いを指摘される。これまでも、売上向上ばかりを考えるあまり、経費削減が甘くなっていることを指摘されていた。加えて、利益に対する思い違いも教えられた。

「売上額を上げることばかりを考え、その内容まで目が向いていませんでした。そのため、印刷料金の見直しを提案された時は、ハタと膝を打つような感じでしたよ」(正明専務)

今まで数度にわたる用紙の値上げにも、同社では印刷料金を変えたことはない。その値上げによる顧客離れを恐れたからだ。したがって、料金の見直しは同社にとって大きな賭けだった。

値上げにより動揺する社員に対し、勉社長と正明専務は、新たな印刷料金を顧客に知らせる前に一つの約束をした。「ここで出た利益を全社員で均等に分配する」。社員の士気向上と、全社一丸となって取り組むことで生まれる一体感が今後会社を再建していく上で欠かせない。先を見据えた上での判断だった。

結果として、印刷料金の見直しによる顧客離れは起きなかった。これまでの誠実な仕事ぶりが認められていたことが、その大きな理由である。自分たちの「恐怖心」が思い込みに過ぎなかったことを勉社長も正明専務も痛感したと言う。

今まで数度にわたる用紙の値上げにも、同社では印刷料金を変えたことはない。その値上げによる顧客離れを恐れたからだ。したがって、料金の見直しは同社にとって大きな賭けだった。

値上げにより動揺する社員に対し、勉社長と正明専務は、新たな印刷料金を顧客に知らせる前に一つの約束をした。「ここで出た利益を全社員で均等に分配する」。社員の士気向上と、全社一丸となって取り組むことで生まれる一体感が今後会社を再建していく上で欠かせない。先を見据えた上での判断だった。

結果として、印刷料金の見直しによる顧客離れは起きなかった。これまでの誠実な仕事ぶりが認められていたことが、その大きな理由である。自分たちの「恐怖心」が思い込みに過ぎなかったことを勉社長も正明専務も痛感したと言う。

南部せんべいの印刷がV字回復の武器に

一方で会社にとって新たな収益源の獲得にも注力した。従来の印刷だけではもう売上は伸びない。そのため、これまでとは違う事業の必要性を感じていた。何を新たな柱に据えるか。頭を悩ませる中で、正明専務が前々から知っていた食品への印刷を提案する。すぐに食品に対応できる印刷機メーカーと交渉し、商談をまとめた。

一方で、勉社長は食品への印刷を始めるにあたって、事業者消費安全マイスターの資格を取得。安全性を確保しつつ、本業の印刷技術を生かし、食品会社にはできないクオリティの高い「食品プリント」を実現した。

そして、地元の観光土産「南部せんべい」の印刷を請け負う。これを含めた「食品プリント」の売上が前年比200%で伸長し、同社が再生する上で大きな武器になった。

「これまでは、どんなに動いても仕事がとれませんでしたが、南部せんべいの印刷を始めたことが話題になり少しずつ受注が入るようになりました。これは、ただやみくもに動くのではなく、方向性を定め、それに基づいて行動した結果です。これがなければ全てがダメになる。身をもってそのことを教わりました」(勉社長)

事業再建の転機となった2010年を第二の創業と位置づける同社。この経験を生かし、今後どのように展開していくのか。さらなる躍進から目が離せない。

PART2
組織の危機を救った個々の意識改革 -体質改善で戦う組織へ生まれ変わる-

「負債がある」の意識を持たない組織

新薬開発や医療技術の試験、研究などに用いられるラットなどの実験動物。動物繁殖研究所は、医学や生物学の進歩、発展に寄与する目的で、その実験動物の繁殖を行う財団法人である。

一般的に財産の運用益での運営を原則とする財団法人は、経営に行き詰まるイメージが持たれにくい。だが、銀行の利率が限りなくゼロに近い時代。一般企業と同様に事業で収益を上げられないところは必然的に淘汰される。同財団は繁殖させた実験動物を、製薬メーカーや国の研究施設、大学などに販売、その売上により運営されてきた。

とはいえ、財団と一般企業とでは、職員の意識が全く違う。それが苦境に陥った一因だと外尾亮治理事長は言う。

「年初に立てた計画通りに進めるため、年度予算は使い切らなければならないという意識がありました。それに、財団法人である以上、利益を出しすぎてはいけない。実際は負債があるにもかかわらず新たな年度が始まると、やたらと新規発注することが習慣化していました」

年々膨らむ負債に身動きがとれなくなったのは4年前。当初、二つある研究施設の一つを売却し、それを返済にあてる予定だった。しかし、リーマン・ショックの影響で売却の話が頓挫し、打つ手がなくなってしまう。「取引先や銀行から毎日のように督促がくる。深夜に脂汗だらけで目が覚めたことも一度や二度ではありません。それくらい追い込まれていました」と外尾理事長は当時を振り返る。

この状況を乗り切るためにどうすればいいのか。考えあぐねた末、外部の意見を取り入れることにした。

経費に営業・・・何もわかっていなかった

中村氏

相談した外部コンサルタントから最初に指摘されたことは支出の多さだった。動物を飼っているので、飼料や光熱費などの経費は必要だ。だが、収入が限られている以上、そうした経費をいかに抑えるかが重要になる。そこで、職員全員にコスト意識を浸透させるべく、各部署の幹部職員を一人ずつ説き伏せ、変革の仲間に加えていった。

理事長とともに、職員に変革を促した中村智雄常務理事は、職員の変化を次のように語る。

「職員一人ひとりのコスト意識を変えるのは容易ではありません。頭ではわかっていても、行動に結びつくまでは相当な根気と時間が必要です。それでも続けていけば必ず変わります。意識が変わったと感じるようになったのは、1年ほど説き続けてからでしたね」

職員の意識の変化は着実に数字としてあらわれている。例えば、いつでも確認できるように、光熱費の使用量はグラフ化して貼り出され、職員全員でチェックし合うようになった。また、動物の在庫管理を徹底し飼料費を削減。運送委託費に至っては、発注の効率化で25%削減に成功している。

この意識改革は売上にも影響を及ぼした。「組織内には『営業』という言葉がなく『普及』という言葉が使われていました」と中村常務理事が言うように、同財団には「儲ける」という意識がなかった。しかし、それでは赤字体質から脱却できない。

このままではいけないという機運が高まり、コンサルタントとも相談し、組織としての強みを探すことにした。そこで浮かんだのが繁殖と並行して手掛けてきた研究。その成果を営業に生かそうというものだった。

「自分たちも研究しているからこそ、取引先の求めていることがわかります。それを武器に、相手からほしいものを聞いてくる御用聞き営業から、取引相手の懐に飛び込み、こちらから提案する営業へと変えていきました」(外尾理事長)

加えて、他では手に入らない慢性肝炎や糖尿病などの研究用ラットを営業で紹介し、財団の研究成果のアピールにも努めた。その結果、東日本大震災の影響で4月から3カ月間の売上が前年より大きく落ち込んだにもかかわらず、2011年度全体の売上は、過去最高額を記録。職員の意識の変化が実を結んだ。

給与体系も変え戦う組織づくりに着手

苦境に打ち勝つ企業再生

3年連続の黒字化で苦境を脱した同財団だが、新たに職員の給与体系の見直しにも着手している。この断行に踏み切ったのには理由がある。

近年、動物福祉の観点から製薬業界などで実験に使う動物を減らす動きが強まっている。現在の市場規模はピークだった04年と比べると6割にも満たない。戦える組織にするにはいましかない─。その覚悟のもと、半年前からことあるごとに説明を重ね、今年の4月から実施した。

新しい体系では、全員一律の基本給に、売上に応じた能力給を加えた。そうすることで、年功序列的な要素を弱め、若い職員のモチベーションを高めることが狙いの一つだ。年長の職員も納得した上での新制度である。

「先般の公益法人改革で、財団法人は一般と公益のどちらかを選ぶことになります。我々は一般財団法人を選択したのですが、そうなると事業の自由度が増します。その切り換え前に給与体系を見直すことで、これからの姿勢を職員に示したかった。今後、収益を増やせば、みんなで分け合うこともできるわけですから」(中村常務理事)

旧態依然とした体質から脱皮し、新たな一歩を踏み出した動物繁殖研究所。外尾理事長は「脂汗を流していた時と比べると見違えるように職員の意識が変わりました」と笑う。苦境を乗り越えた経験を財産として、企業に負けない財団法人を目指し、一層の改革を進めていく。


PART3
方向を示せば会社は上向く -プロが語る企業再生の極意-

一過性の事象だけで会社は苦境に陥らない

リーマン・ショック、東日本大震災と、企業経営を揺さぶる出来事が続いた日本経済。苦境に陥っている会社には、これらを理由と考える経営者も少なくない。だが、(株)フィナンシャル・インスティチュートの川北英貴代表取締役は「必ずしもそうとは言えません」とその考えを否定する。その理由として、苦境に陥った会社はごく一部であり、それ以外の多くの会社はすでに回復を遂げていることを挙げる。

こうした会社の経営者にはいくつかの共通点がある。それは「売上をつくる」「経費を削減する」「戦略を立て、戦術に落とし込む」「見える化に取り組む」がきちんとできていないこと。本来、これらは日々の仕事の中でやって然るべきことである。それらを怠り、常に後手に回ってしまう。それが会社を苦境に陥らせる真の原因なのだ。

さらに最近増加傾向にあるのが、悪い方向に会社が進んでいるのにそれに気づいていないケース。その多くは、数字をきちんと読めない経営者に原因がある。「経営者ならば決算書が読めて当たり前」ということを前提に川北氏は、さらにその数字の見極めができていないことに注意を促す。

「例えば、人件費一つとっても、数字に見合った働きを社員がしているか否か。それを判断し、問題があれば手を打つのが経営者の役割です。表面だけではなく、数字の中身を深掘りすることが会社を苦境に陥らせないためには必要です」(川北氏)

企業再生に欠かせない経営者の覚悟と気迫

現在、同社に相談にくる会社は資金繰りに行き詰っている会社が大半だ。それらの会社をどうやって再生へと導くのか。

同社ではまず、返済額の見直しやリスケジュールなど金融機関との交渉を最優先で行う。それは、どんなに黒字化が可能でも、それまで会社を持ち堪えさせなければ元も子もないからだ。そのため、返済の負担を緩和し、気持ちに余裕を持たせた上で、事業の見直しに取り掛かっている。

事業の見直しでは、売上増と経費削減が必須となる。それに関して川北氏は「どちらかを優先するのではない」と言う。即効性のある経費削減を行いつつ、中長期的に売上を伸ばしていく。ほぼ同時に進めることが、会社を立て直す上で重要となる。

最後に川北氏は言う。

「企業再生に欠かせないものは、経営者の思いです。苦境に陥っている以上、経営者にはこれまでのやり方を否定する勇気、素直さが必要です」

経営者の再生に懸ける覚悟と気迫。その意思が強ければ強いほど、再生への道は広がる。