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デザインワークで伸びる企業

多くの市場が成熟し、商品の差別化をはかることが難しくなっている中、デザインワークを競争力強化やイノベーションに活用しようとする企業の動きが活発化している。デザインワークとは、単に外見上のかたちをつくることではなく、商品の本質的な価値を明確にし、その魅力を的確なターゲットに訴求するプロセス全体のことを指す。本特集では、企業がデザインワークをどう認識し、その力をいかに高めるべきかを多角的に探っていく。

その商品は誰にどのような
ベネフィットをもたらすのか

優れた技術やノウハウはあるのに、商品化する際の“デザイン力”が不足しているため「商品の魅力や特長を十分に訴求できていない」という悩みを持つ企業が少なくない。

市場参入時には先進性を帯びていた商品も、後発品の普及につれて優位性や特異性が薄れていき、結局は厳しい価格競争に巻き込まれることを避けられない。しかも、近年の製造業においては、新興国による安価な製品の大量供給がそうした状況に拍車をかけている。 そういった価格競争から抜け出すには、商品のデザインの仕方を根本的に見つめ直す必要がある。ただし、デザインといっても、外見のスタイリングだけを意味するわけではない。

「商品特性をユーザーに伝えるには、プロダクトデザインの前に、社内で“その商品の持つ本来的な価値”を突き詰めて考えることです」と話すのは、デザインコンサルティングファームとして多数の企業のデザイン戦略をサポートする、トリニティ㈱CEOの湯浅保有美氏。

「商品や技術を特定層の顧客に提供するだけで利益が得られた時代には、他社製品と意匠が違ういわゆる“カッコいい”デザインを施せば注目されました。しかし、いまは世代間で価値観が大きく異なっていますし、マーケットも以前と比較にならないくらい多様化しています」

そうした状況で差別化を生み出すために、その商品が備える本質的な価値を生かすデザイン開発の高度化、つまりデザインワークが必要だという。

規模の大小を問わず、多くの企業が細かな仕様やプロダクトデザインに凝りがちだが、その前に「商品が誰にどのようなベネフィット(利益やメリット)をもたらすのか」を明確にすることが不可欠で、「商品価値そのものに企業が持つ技術やサービスをリンクさせるという視点でデザインするべき」と湯浅氏は指摘する。

例えばユーザーが個性を発揮する手段となっていた一昔前の自動車では、スペックや外見が重要な価値の一つだった。しかし、自動車を単なる道具として捉えることが増えた最近の若い層には、それだけでは十分に訴求できない。「自動車が生活にどんな利便性をもたらすのか」といった価値をわかりやすく伝えない限り、ユーザーの目を惹きつけることはできないのだ。

全社が一体となって
取り組める体制づくり

では、製品づくりの企画から商品コンセプトの決定、それに続 く設計やプロダクトデザインといったデザインワークに、企業はどのような体制で臨むべきなのだろうか。

一般に大手企業では商品企画やマーケティング、デザインや設 計、製造、PRなど、業務ごとに部門が分かれている。ただ、分業制では開発途中で企画意図がずれていくといった弊害が見ら れるようになった。そこで、最近ではセクショナリズムを撤廃し、各部門のメンバーによるプロジェクトチームを立ち上げて 、企画からリリースまで協調する動きが主流になっているとい う。

「中小企業では一人の担当者が企画から開発、PRまでの全てを 手がける場合もあるかと思いますが、的確なマーケティングを するためには、社内の各部署との密なコミュニケーションが欠 かせません」

場合によっては、経理部門の担当者から売れ行きの動向について貴重な情報を得られるケースもある。部門の異なる社員同士 が意思疎通をしやすい環境を整えることは、経営者の大切な役 割の一つなのだ。

大手企業のデザイナーは、以前はデザインの専門性を深める勉 強に終始していた。しかし、隣接する部門のスタッフとのコラボレーションの重要性が不可欠となった現在は、説得力を持っ てプレゼンテーションや交渉をするための折衝術などを学ぶ機 会も設けられているという。もちろんプロダクトデザインの専 門性は必要だが、ただ専門技術を持っているだけでは、ユーザ ーの共感を得ることはできないのである。

また、社員が多角的な視点を持つと同時に、経営者も自社と異なる業界・業種と積極的にコンタクトを取ることも大切だ、と 湯浅氏は語る。

「優れた製品は、既存市場以外のユーザーにベネフィットをも たらす可能性があります」 例えば自動車産業の中だけだと思っている自社の素材や独自の 技術は、今後、医療や宇宙産業などの分野でも役立つかもしれ ない。製品価値を認識し、それを必要とする顧客を広い視野で 探せば、新たな市場を開拓する可能性が大きく広がってくる。

デザインワークで伸びる企業

デザインマインドを
社内に浸透させる

社内に的確な商品開発のプロセスが根づいていない企業には、 外部デザイナーと連携する方法もある。日本経済の屋台骨を支える中小企業の競争力強化を目指す国の意向を受けて、近年は 多くの自治体が企業とデザイナーとのマッチングや資金の援助 といった支援策を打ち出しており、そうした制度を活用するこ とも有効だ。ただ、留意したいのは“自分の作品”をつくろう とするデザイナーが少なくないこと。

「そういったタイプのデザイナーとコラボレートして新製品開 発を行った場合、一回性のプロジェクトとして上手くいくこと はあっても、その経験が企業の知見として蓄積されることは期 待できません。業容やマーケットを分析したうえで企画を練り 、企業を成長に導こうとするデザイナーと手を組むのがベスト です」

客観的な視点を持つ外部のデザイナーなら、異なる市場への進 出のきっかけとなるような画期的な提案をしてくれることもある。 「外部の人の意外な視点や新鮮な発想は、いい刺激をもたらし ます。突飛な発想に触れると日頃使わない脳の使い方をすることになり、提案を実現するために社内が一体にならなければな らない、といった状況が生まれたりもします」

そして、そういった取組みを続けることで、社内にデザインマインドを備えた人材も育ってくるのだ。

実際に図面を引くのはデザイナーという専門職かもしれないが、商品の価値をかたちにし、多様な潜在顧客に訴求するプロセスには、職種に限らずデザインマインドを 持つ人の誰もが参加できる。経営者はもちろん、営業や間接部 門にいたるまで、社員全員にデザインマインドを浸透させるこ とが、これからの企業には大切だと湯浅氏はいう。

次からは、デザインマインドを発揮して商品開発に取り組んで いる企業の事例を紹介しよう。

湯浅保有美(ゆあさ・ほゆみ)

カッシーナジャパン(現・カッシーナ・イクマシー)勤務後、イタリアのドムスアカデミーと三菱商事、内田洋行のジョイントベンチャーで設立されたDDA㈱において日本側のプロデューサーとして活動。その後独立し、デザインコンサルティングファーム、トリニティ㈱を設立。


CASE1
国際ディスプレイ工業

企画意図を明確にして
新ブランドを創設


振り子の羽ばたきで
ひらめいた新商品のアイデア

1950年創業の国際ディスプレイ工業㈱は、電動木製玩具の製作・販売からスタートし、80 年代に室内光で振り子を動かすソーラームーバーを開発。この仕組みを利用した「動くPOP広告」のディスプレイメーカーとして、国内外の多数の企業の販促ツールのOEM生産を行うようになった。また、室内光で動くソーラートイの分野において代表的な商品である「ソーラー招き猫」は、全国約2,500 ヵ所の宝くじ売り場に置かれてきた。

同社は2012 年に新ブランド「KOKUSAI DSP.」を立ち上げ、太陽電池エネルギーによる羽ばたきで旋回する「ソーラーオーニソプター」をリリース。愛くるしいデザインのソーラートイとは対照的に、ステンレスや真しん鍮ちゅうを組み合わせたメカニカルな機構がむき出しになっているこの商品は、大人向けの高級感あるオーナメントとして人気を博している。

開発のきっかけを企画開発部の竹内裕之氏は次のように語る。

「光エネルギーで動く振り子に羽をつけ、その羽ばたきに推進力があることに気付いて、羽ばたき飛行機=オーニソプターの着想を得たんです。そこで、ソーラーオーニソプターの開発を社内に提案しました」

公的機関の支援制度活用で
デザインワークを習得

社内で承認を得た竹内氏は、開発に取り組んでいくが、ある思いを感じていた。竹内氏自身、動くPOP広告やソーラートイの

企画設計を行ってきたが、その手法は入社後に業務の中で体得したもので、デザインについてきちんと勉強した経験がなかったという。社内にもプロダクトデザインを本格的に学んだ人材はおらず、自社の過去のヒット商品は、明確な企画意図に基づいて生み出されたものではなく、「結果的に売れた」というものが多かった。

「商品のアイデアをしっかりとした道筋でプロダクトデザインに落とし込みたかった私は、デザインのノウハウを一から習得

する必要性を感じました」

そこで竹内氏は、デザイン活用による商品の高付加価値化を支援する、(公財)東京都中小企業振興公社主宰の「事業化チャレンジ道場」(製販一体型新製品開発支援事業)に参加し、2年間にわたる実践的な指導を受けた。これには、竹内氏と同社代表取締役の伊藤恒夫氏も参加。経営者が率先してデザインワークを学んだことは、社内全体の意識を啓発することにもつながったという。

このプログラムに参加するまで、竹内氏はデザインとは絵を描いたり造形したりすることだと思っていたが、それはあくまでも最終的な“出口”だったことに気付いたという。

「そこにいたる前に、まず商品の存在価値を明確にするコンセプトワークや、その価値をどんな購買層に向けて発信したいのか、マーケティング戦略を練ることの重要性を学びました」

デザインの勉強と商品の試作を続ける中、竹内氏は「ソーラーオーニソプターが懸命に羽ばたく様子がけなげで、日々仕事と向き合うビジネスマンの共感を得るに違いない」と確信。そこでターゲットを男性に定め、ギフト市場においては「女性が身近な男性に贈りたくなる商品」というマーケティング戦略を描き、価格もあえて比較的高めに設定した

入念に練ったコンセプトは
社内の共感を生む

こうして完成したソーラーオーニソプターだが、同社の営業部員は当初「高額で売りにくい」と反発。しかし竹内氏には、爆発的にヒットしなくても、静かなロングセラーとなる予感があった。開発意図を丁寧に説明したところ、次第に竹内氏の思いを理解した営業部員たちが販路開拓に尽力してくれたという。

「社員を説得できたのは、コンセプトの段階からきちんと商品設計をできたからだと思います。お客さまより前に、まず社内で商品価値が認められたことがうれしかったですね」

その後ソーラーオーニソプターは、デザイン性の高さが評価されて東京都美術館のミュージアムショップなどにも置かれ、今日まで安定した売上げを維持している。

今年6月には「KOKUSAI DSP.」ブランドシリーズの第2弾として、光エネルギーによって雨音のような音を奏でる「amaoto」を発売。こちらも、洗練されたデザインと優しい音色が癒しを与えてくれるオーナメントとして話題を集めている。

「既存のソーラートイの設計に際してもコンセプトから深く考えるようになり、商品をつくる姿勢そのものが変化したことを感じています」

そう語る竹内氏は「KOKUSAIDSP.」シリーズを、POPツールやソーラートイと並ぶ同社の事業の柱の一つに育てたいと意気込んでいる。

国際ディスプレイ工業㈱

企画開発部の竹内裕之氏

創業:1950 年

資本金:9,900 万円

代表取締役:伊藤恒夫

事業内容:ムービングディスプレイ、メカデザイン設計製造販売、各種ディスプレイモニター、ソーラートイの製造販売


CASE1
庄田鉄工

解決不可能とされてきた
課題に果敢にチャレンジ

ダスト・フリー構造の
NCルータを開発

静岡県浜松市に本社を構える庄田鉄工㈱は、木工機械の設計製作をメイン事業として1926年に創業した。以後、独創的な技術によって数々の画期的な機械を生み出し、68年には自動的に木材を加工する初の国産NCルータ(数値制御の切削機械)を開発。当初は木工用だったが、その後切削する素材はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、アルミ、セラミックなどと多様化し、近年は自動車の実物大モデルなどのモックアップ加工にも用いられるようになった。

「ただ、さまざまな産業分野で利用されているNCルータには、切削時に粉塵が飛散するという問題がつきまとっていました」と語るのは、代表取締役社長の庄田浩士氏。

「粉塵によって作業者が健康被害を受けることを防ぐため、刃物周りに集塵装置を取り付けるといった試みはされてきましたが、大量に出る粉塵を完全に吸い取ることはできず、メーカーもお客さまも“そういうものだ”として諦めていました」

しかし「何か解決策はあるはず」と信じる庄田氏の命で、全社が一丸となってアイデアを出し合い、この難問に取り組んだ。その結果開発されたのが、ダスト・フリー構造のNC ルータ「PLANET BLUE」シリーズである。

優れた製品はデザインも
洗練されているべき

2014年に発売された「PLANET BLUE」の1号機はNCルータ全体をカバーで覆い、切削粉塵の発生する加工エリアと作業者のいる作業エリアを分離。内部の気圧を大気圧より低くすることで粉塵が外部へ出ないようにした。この結果、作業者が吸い込む粉塵の量が大幅に減るとともに、粉塵が駆動部を傷つけることによるマシンの劣化を抑制。カバーで密閉されたことで、運転時の騒音も緩和された。

庄田氏がこの開発に乗り出した背景には、26年に迎える同社創業100周年に向けて「世界一のNCルータメーカーになる」という大きな目標を立てたことにある。

「『優れた製品はデザインも洗練されているべき』と考え、外部デザイナーの協力を得て、宇宙に浮かぶ青い地球を想起させるデザインを施しました。操作パネルの機能性や意匠にも凝り、お客さまに快適にお使いいただけるよう配慮しています」

15年リリースの2号機は「機能性と結びついたデザイン」が評価され、16年には機械工業デザイン賞・審査委員会特別賞を受賞。「PLANET BLUE」の価格は既存のNCルータの1.5倍ほどだが、売上げは着実に伸びているという。

「機械内部や材料の上に残ってしまう切削粉塵については、まだゼロにはできていません。100%ダスト・フリーという究極の目標に向け、改良を重ねています」

柔軟な発想で経営戦略を
“デザイン”する

1号機の開発でデザインのノウハウを学んだ技術部の社員は、2号機以降の「PLANET BLUE」のプロダクトデザインを自ら手がけている。

「技術部では既存の標準品を、お客さまの利用環境に合わせてカスタマイズすることもありますが、そこでも洗練された設計を心がけるようになりました。『PLANET BLUE』の開発以降、『NCルータのトップメーカーを目指し、競合他社の製品との差異化を図る』という経営方針が深く浸透したためです」

切削によって摩耗するルータヘッドの交換は1日がかりだが、最新の「PLANET BLUE」には、わずか数十分で交換できるクイックチェンジ機能を搭載。ヘッド交換時期が事前にわかるソフトウェアも組み込まれている。アフターサービスも重要な付加価値の一環と考える同社は、NCルータを販売するディーラー向けの技術研修も開催するようになった。また、顧客が保有するマシンを有効活用できるよう、アイドルタイムにNCルータの利用希望者を紹介するマッチングサービスも開始した。

「当社の事業の目的はお客さまの切削加工をサポートすることであり、その手段はマシンの販売だけではありません」

ユーザーがNCルータの活用でよりよい製品をより効率よく生産するための“コンシェルジュ”を標榜する同社は、このように新たなビジネスモデルを次々と生み出している。

「製品に限らず『経営の方向性もデザインする』という視点が、経営者には不可欠だと思います」

そう語る庄田氏は、創業100周年の26 年に売上高を現状の約4 倍の100億円にすることを目標として、さらに多様な経営戦略を展開しようとしている。

庄田鉄工㈱

代表取締役社長の庄田浩士氏


●創業:1926 年

●資本金:6,000 万円

●代表取締役:庄田浩士