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社員のやる気を上げる評価・賃金制度

「評価も賃金も社長のさじ加減で決める」─。このように、人事評価制度や賃金制度が確立していない中小企業は少なくない。しかし、人手不足の中、優れた人材を確保するためには、中小企業こそ社員のやる気が上がるような評価・賃金制度を設計することが大切だ。その制度をつくるにあたり、気を付けるべきポイントを事例とともに見ていく。

■社員が人材定着・育成に必要だと考える取組みと、人材確保に成功している中小企業の取組み

経営理念や経営目標を
達成することが目的

一から評価・賃金制度づくりを始める際、経営者は何から考えていけばいいのだろうか。

「評価・賃金制度をつくる最大の目的は何かと、しっかり考えることがはじめの一歩です」と 話すのは、過去1,000社以上の中小企業の評価・賃金制度づくりに携わってきた株式会社M Mパートナーズ代表取締役の松下卓蔵氏だ。評価・制度によって社員のやる気を高めることも 重要だが、最大の目的は「経営理念や経営目標を達成する」こと。それらと制度が連動してい なければ、意味はない。それをふまえて、松下氏がすすめるのは「粗利を増やす行動」を評価 する制度をつくることだ。

「そうすれば、会社の利益目標の達成につながるし、賃金を上げるための原資も生み出せて、 社員のやる気も引き出せます」

営業以外の部門でも、粗利を上げる行動を評価することは可能だ。例えば生産技術なら、1時 間あたりの生産個数が上がり、商品の不良率が下がれば粗利を増やすことにつながる。商品の 在庫管理なら、品切れを起こさず、かつ過剰在庫にならないように調整していれば、粗利を上 げたことに貢献したといえる。

「目に見える成果だけでなく、そこに至るまでのプロセスを評価することが大切です。そうす れば、どの部門の人でも評価できます」 粗利を上げることにつながる行動を評価する方法は、大きく分けて二つある。一つは、仕事が 上手くいくプロセスを細かく分けて、一つひとつのプロセスができているかどうかを評価基準 にすることだ。例えば、営業なら「アポイントがとれているか」「適正な見積もりが立てられ ているか」などを評価していく。もう一つは、社員に粗利を上げることにつながる行動目標を 立てさせ、それが達成できたかを評価することだ。いずれも大切なのは、評価基準や目標の定 量化だ、と松下氏はいう。

「定量化することで達成度合いが明確になり、社員も何をどれぐらいすればよいかが見えてき ます。定量化しにくい部門でも、最低一つは数値目標に落とし込むべきです。『業務を見直し て月平均残業時間を20時間に削減する』などでもいいでしょう」

評価基準は、社員に対してオープンにすることも大切だ。そうすれば、社員は何をすれば評価 されるのかがわかり、粗利を上げることにつながる行動をとるようになる。

また、半年に一度は、評価を伝える面談の場を設けることも重要だ。

「中小企業は少人数なので『社員とはいつもコミュニケーションをとれている。だから、わざ わざ面談なんてしなくてもよい』という経営者もいらっしゃるのですが、評価をきちんと伝え るためには、あえて改まった場を設けたほうがよいでしょう」

面接の場を設けるメリットはもう一つある。それは、社員に対して「会社に必要とされている 」という安心感を伝えられることだ。「必要とされなければ、自分の居場所がなくなる恐怖感を持っている人は少なくありません。 その場合、評価を通じて『必要な戦力である』と伝えることで、安心して仕事に打ち込めるよ うになります」

家族経営的な視点で
温かみのある制度を

以上のようなポイントを基に評価制度の構築ができたなら、次は賃金制度の設計だ。

社員のやる気を引き出すことを考えると「がんばった人にできるだけ多くの賃金を支払う」制 度が望ましいように思える。しかし「中小企業では、最初から賃金が激しく上下する制度を導 入しないほうがよい」と松下氏はアドバイスする。

「賃金の原資は限られていますから、評価の高い人に多く支払えば、評価の低い人の賃金は低 く抑えられることになります。ただでさえ中小企業は不安定なのに、賃金が大きく下がること になると、離職する人が増えてしまいます」

将来、業績不振に陥った時のことを考えると、基本給を低く抑えて評価を賞与に反映させる制 度をとりがちだが、実際は評価に基づいて基本給を上げたほうが喜ばれるという。

「経営者から見れば物足りないか もしれませんが、多くの社員は一生懸命働いていると思っています。まずは、がんばっている 部分を認めつつ、課題を共有すること。そして、評価に基づき生活水準も踏まえ少しずつ基本 給を上げます。結果に応じてさらにプラスアルファの賃金を払うのは、その後でいいと思いま す」

松下氏がすすめるのは、住宅手当や子ども手当などを支払うことだ。

「これらの手当があることで、家族も会社に大事にされている印象が与えられます。昔ながら の家族的経営の視点なのですが、社員やその家族の顔が見える中小企業だからこそできること 。そういう温かみを感じる制度を取り入れたほうが、社員も意気に感じるものです」

実際、評価・賃金制度を導入すると、会社はどれだけ変わるのだろうか。次からは、評価に対 する納得感を高めて社員のやる気を引き出している2社をご紹介しよう。

目標管理制度運用のポイント

目標管理制度を導入している企業でよく聞く悩みが「容易に達成できるような目標しか出してこない」ということだ。
「これは主に大企業での話ですが、最も出世をする人の目標達成率は、100.1%だといわれています。必ず達成できる目標を立て、その目標に0.1%だけ達成度を上乗せすることを続けることで、余力を残したまま出世をしていくのです」
こんな社員ばかりでは、当然、会社の業績は伸びない。それを防ぐためにはどうすればよいか。松下氏は、「全社員の目標を並べて、目標の難易度が適正かどうか評価する」ことをすすめる。そうすれば、余力を残している人の目標が浮き彫りになってくるという。
また「会社の業績目標から個人のノルマを設定する」こともよく行われるが、業績目標が大きすぎるため、個人目標も現実味がなく、達成できないケースも見られる。それを避けるには、各部門がどのぐらいの伸びしろがあるかをきちんと検証し、適切な業績目標を立てることが欠かせない。
そのためには、経営者や幹部がお客様の元に出向いて、どのようなニーズや市場の可能性があるのかを日頃からつかんでおくといいでしょう。目標の適切さを判断する目安になるはずです」
社員が納得いく形で評価・賃金制度を運用するためには、トップが目を配り続けることが大切だ。

賃上げで企業もオトク!?拡充された所得拡大促進税制

松下卓蔵(まつした・たくぞう)

株式会社MMパートナーズ代表取締役、中小企業診断士。1966 年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、90 年に現・三井住友海上火災保険株式会社に入社。経理・総務・事業企画などを 担当。その後、現・三井住友海上経営サポートセンターにて、中小企業の賃金・評価の人事制度構築支援、経営支援などに携わる。人事労務の経営コンサルティング会社役員を経て、2016年7月より現職。これまで、全国で中小企業の経営支援を実施し、その数は1,700社を超える

CASE1
埼玉金周

「人間力」を重視して
増収増益を続ける

会社の方針にあった
人材を育成する

(株)埼玉金周は、それぞれ四つの店舗と葬祭会場を持つ、埼玉県南部の葬儀社だ。

20年前までは社員数名、年間葬儀施行件数は50件ほどの零細葬儀社だった。しかし年々成長し、現在は社員48名、年間葬儀施行件数は900件にのぼり、15年連続で増収増益増件数を達成している。

「私たちのモットーは『お客様に高い葬儀を売りつけない』こと。ご不幸の後の混乱に乗じて高額な葬儀や仏壇をすすめる会社もありますが、そんなことをしたら二度と頼んでもらえなくなります。地域に根付いた、何代も続く葬儀社にしたいと考えています」と話すのは、代表取締役社長の内田安紀氏。先代社長の跡を継ぎ、2007年に社長に就任した。

内田氏が評価・賃金制度の整備に乗り出したのは7年前。その理由は「自分がいなくなっても会社がまわる仕組みをつくるため」。また、「会社の方針に沿った人材を育成するため」だという。

7年前、急成長中だった同社には、競合他社からの中途入社社員が多く在籍していた。彼らは、仕事はできるが「高額な葬儀を売りつけない、地域密着の葬儀社」「長続きする会社」という会社の方針に反する行動をとることが少なくなかった。

例えば、高い葬儀を売りつけたり、新人をいじめて辞めさせたり、手間のかかるチラシ配りをさぼったり、といったことだ。

「彼らは仕事はできるので、いれば目先の数字がとれたのは事実です。でも、会社の将来のためになりませんでした。ですから、評価制度を明確にすることで、そうした人材は評価しないと打ち出したのです」

結果だけの稲刈りより
地道な田植えを評価

「人間力」を重視した評価制度で、社員のやる気も向上している

約5年がかりで評価・賃金制度をつくりあげ、14 年に導入した。最大の特徴は「人間力」を重視していることだ。社員の評価基準の6割を占めている。

「地域密着でやっていくためには、対応の丁寧さなどの人間性が何よりも必要だからです」

「謙虚」「感謝」「自らの非を認められる」など、求める人材像の特徴から15の評価項目を策定。各項目を点数化し、全て満点だと合計100点になる仕組みだ。

新人とベテランでは求めるものが違うため、各項目の点数の上限は、新人・中堅・ベテランで異なる。例えば「あいさつ」の上限は、新人・中堅は5点だがベテランは0点。一方「謙虚」は新人5点、中堅8点に対し、ベテランは13点も占める。

「ベテランはあいさつなどの基本はできて当然なので評価しませんが、『感謝』や『謙虚』を失いがちですし、それがないと部下がついてこないので評価対象にしています」

評価基準の3割を占める個人業績も、さまざまな項目で点数化する。大きな特徴は「下働き」を評価することだ。具体的には、葬儀施行件数の多さよりも、チラシの配布枚数や事前相談件数を重視する。

「稲作に例えれば、稲刈りだけをする人よりも、何もないところに一生懸命田植えをした人を評価するということです。そういう地味な作業を認めないと、皆がスタンドプレーに走ってしまいます」

これらの評価については、毎月、社員が自己申告で提出する。その評価を各部門長がチェックし、修正する。どれだけ評価項目の点数を獲得できたかどうかで、昇給や賞与が決まる仕組みだ。

この評価・賃金制度を導入したことで、大きな変化があった。それは、先述したような中途入社の社員が次々と辞めていったことだ。

「『売上げより人間性を評価して何になるんだ』といって辞めていきました。でも、それは思惑通り。私の理想の会社の姿は、野球でいえば、ワンマンプレーを繰り返す4番打者に頼るよりも、スター選手はいないけども、高度なチームプレーで粘り強く勝っていくチームです。当社も会社の方針と合わないスター選手が退職したことで、そんなチームに生まれ変わった、と感じています」

それは業績にも現れている。昨年、営業エリアに業界大手が葬祭会場を新設するという逆風が吹いたが、同社の売上げは前年比40%増にも達したという。評価制度を導入した効果は、決して小さくない。

(株)埼玉金周

代表取締役社長の内田安紀氏

●設立:1985年

●資本金:1,000万円

●代表取締役:内田安紀

●事業内容:葬儀、法事、葬儀場運営

CASE2
原田左官工業所

納得感のある制度で
離職率が激減

二つの軸で
評価制度を構築

(有)原田左官工業所は、左官業界では異色の存在だ。業界では、仕事が発生したら元請け会社が自営の左官職人を集めるのが一般的だが、同社は職人を正社員として雇用。現在は49人の社員を抱える。

「私の祖父でもある初代は50代で身体を壊し、現場に出られなくなってしまった。祖父のように職人が病気などで働けなくなった時に、職人を少しでも支えられるようにと正社員雇用を始めました」と話すのは、同社三代目で代表取締役社長を務める原田宗亮氏だ。

仕事の幅を広げるため、左官だけでなく、防水やタイル、ブロック組積など複数の工事を覚えてもらうことで、店舗内装や住宅の湿式工事を一人でこなせる「多能工」が多数育った。その存在が同社の大きな強みになっている。30年前から女性職人の育成にも取り組んでおり、現在も40人の職人のうち9人が女性だ。

評価・賃金制度を整備したのは、三代目の原田社長が就任した10年前。きっかけは「自分は正当に評価されていない」と辞めてしまう職人がいたことだ。離職率は50%に達していたという。

同社の評価・賃金制度の特徴は、「技術」と「マネジメント」による二つの軸で職人を評価することだ。「技術」に関しては、七つのレベルに分かれており、一定の種類の技術を習得するとレベルが上がる。一方「マネジメント」に関しては、新人、主任・係長、課長、部長、役員という五つのレベルに分かれていて、現場監督をしたり、複数の現場を受け持ったりできる、と判断されるとレベルが上がる。

二つの軸を立てた理由は、「技術は一流だが、マネジメントは苦手」「技術は普通だが、現場を仕切るのが上手い」という、どちらかに長けた職人がたくさんいたからだ。

「どちらのタイプの職人からも批判が出ないよう、両方を評価すると明確に打ち出しました。評価基準における技術とマネジメントの割合はだいたい6:4に落ち着きました」

不満・不平には
説明して理解を得る

技術向上にはげむ若い職人たち 右

技術向上にはげむ若い職人たち 左同社では日給月給制を採用しているため、基本の日給×稼働日数で給料が支払われる。レベルが上がると、基本の日給が上がる仕組みだ。4年目までは修行の身(新人)で全員一律だが、5年目からは同期でもレベルに差が出る。

「ただし、習得技術数が技術レベルにつながるので多少の差はありますが、月々の給料はゆるやかな年功序列のようになっています」

つまり、この賃金体系だけでは、日頃のがんばりは給料に大きく反映されにくい。そこで原田社長は、半年に1回の賞与で差をつけるようにしている。賞与の基準は二つあり、一つは3人の役員の評価だ。

「全体を見る私と、お客さまからの声を吸い上げる工事管理担当の役員、現場に出て職人の働きを間近に見ている職人の役員。視点の異なる3人の意見を総合することで、正当な評価をしようとしています」

もう一つは、新材料の説明やクレーム情報の共有などを行う工事会議の出席回数だ。

女性の職人も数多く活躍している「職人は会議の出席を強制にすると嫌がるので任意にしていますが、できるだけ出てほしいので、賞与の評価に加えました」

3人の役員の評価と「工事会議」出席回数をかけ合わせてポイントを算出。ポイント数に応じて、賞与を割り振っていく。同期の職人でも、数万円しかもらえない人もいれば、その20 ~ 30倍をもらっている人もいるという。

「賞与だけは、銀行振込ではなく手渡しにしています。かつて、職人は現金を家に持ち帰り、自らの手で現金を家族に渡すことが一つの自慢でしたが、そんなひとときを年2回くらい残そうという配慮です。もちろん、賞与が多い人ほど家族に大きな顔ができますね(笑)」

この評価・賃金制度を導入した際、大きな反発はなかったという。

「給料が大幅に下がるような人を出さなかったからだと思います。『評価が低い』といってきた人は何人かいましたが『この技術が習得できていないから』などと説明すると、納得してもらえました」

制度導入のもう一つのメリットは、新人を体系的に教えられるようになったことだ。

「以前は防水の仕事ばかりやっていて、左官はあまりやっていない、というように、経験のある職人でも習得技術にムラが出ることがありました。いまは、技術の評価制度に沿って、幅広い技術を習得してもらっているので、以前よりも短期間で複数の技術を持った職人を育てられるようになりました」

50%もあった離職率は、現在5%にまで低下した。制度導入によって、評価・賃金体系や育成方針に納得感が出たことが、その大きな要因となっている。

(有)原田左官工業所


●創業:1949年

●資本金:4,180万円

●代表取締役:原田宗亮

●事業内容:左官工事、タイル貼り工事、防水工事、れんが・ブロック工事