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社員満足度を高めて成長する企業

社員の満足度が高ければ、仕事への意欲が湧き、生産性が高まり、売上げや利益にもプラスの影響を与える。一方、満足度が下がれば、まったく逆の現象が起きることになる。企業の成長につながる社員満足(ES)の高め方について、実例をもとに検討する。

図1:ESを構成する5因子10要素

ESの低下がもたらす
負のスパイラル

社員が会社の方針や社風、業務内容、職場の人間関係などに満足しているかどうかは、自社の成長性を測るうえで、とても重要なバロメーターの一つといえる。社員満足(ES:Employee Satisfaction)が向上すれば、社員の仕事に対する意欲や会社への愛着心も上がり、業績も伸びることが期待される。逆にESが低下することになれば、社員の労働意欲の低下とともに、労働生産性も下がるため、品質や顧客満足(CS:Customer Satisfaction)にも悪影響を及ぼすことになる。さらには離職率の上昇も懸念される。

「エース級の社員が不満を理由に退職してしまった場合、単なる人材の流出ではなく、会社全体の士気が大きく下がります。また、新たに社員を採用して一から教育をしなくてはいけないため、労働生産性も低下します。生産性が下がることで、品質やCSが低下し、やる気のある社員が辞めることにもつながります。有能な人材が辞めることで組織の士気や生産性が下がって、さらに品質やCSが低下し、ESもますます下がっていくというように、一度ESが低下した会社は、悪循環に陥りやすくなります」

こう語るのは、ESに関するコンサルティングを手がけている㈱ヒューマンブレークスルー代表取締役の志田貴史氏だ。

ESの低下がもたらす悪影響の中でも、とりわけ大きな痛手となるのが不満退職による人材の流出だ。いま、多くの中小企業は人手不足に苦しんでいる。この傾向は、生産年齢人口(15~64歳)の減少とともに、今後も続くことが想定される。人材の採用が、容易にはできない時代だ。限りある労働市場の中で、優秀な人材を確保し、持っている能力を十分に発揮してもらうためには、多くの社員が「この会社でこの上司や同僚たちと、この仕事をしていきたい」と心から思えるような職場環境をいかに整えられるかが、カギを握っているのだ。

重要度が高く満足度が低い
項目から対策を講じる

図2:ESアンケート例

会社がESの向上をはかっていくために、志田氏は「まずは自社の状況を正確に把握する必要がある」と語る。志田氏によれば、ESを構成するファクターは、図1のように5因子10要素に分けられるという。このうちある会社は「経営理念・方針に関する社員の満足度は高いが、仕事内容の満足度が低い」、またある会社は「多くの社員は労働条件には満足しているが、上司のマネジメントに不満を抱いている」といったように、社員の満足度や不満度が高い因子・要素は会社によってさまざまだ。そのため自社の状況に即した対策を講じることが不可欠となる。

「そこでぜひ実施していただきたいのが、社員へのアンケート調査です。経営者であれば、社員がどんな不満を抱いているかを直観的に感じとられているとは思いますが、実際にアンケートを行ってみると、思いもよらなかった社員の心情が浮かび上がってくることがあります」

アンケートでは、各因子・要素ごとに5問程度質問を設定する(図2参照)。個々の質問では「現在の満足度」とともに「重要度」についても5段階評価で答えてもらう。そして要素ごとに「満足度」の平均値と「重要度」の平均値を算出し、図3のようなポートフォリオに落とし込んでいく。すると社員にとって重要度が高い(低い)要素や、満足度が低い(高い)要素が、一目瞭然で把握できるようになる。

「このうち重点改善項目となるのが、ポートフォリオの右下に位置する『社員にとって重要度は高いのに、満足度が低くなっている要素』です。ここを改善することがESの向上に直結します。一方、満足度も重要度も低い項目については、重点改善項目の施策を考えた後に、検討すればよいでしょう」

またポートフォリオの右上の『重要度が高く、満足度も高い要素』は、会社にとって強みになる部分。ここをさらに強化することが、社員の会社への愛着心や信頼感を高めることにつながるのだ。ちなみにアンケートを実施する際には、要素ごとにフリーコメント欄を設けることも大切だ。社員が具体的にどのように満足や不満を抱いているかについての生の声を収集でき、改善策を講じる際の参考にできるからだ。

ESアンケート調査は、組織の健康診断

社員のESを測るためのアンケート調査は「会社の健康診断のようなもの」だと志田氏は語る。自覚症状があってもなくても定期的に健康診断を受けるように、ESアンケート調査も、年に1回程度の頻度で実施することが大事だという。社員の会社に対する満足度は、刻々と変化している。問題の早期発見・早期改善が重症化を防ぐのだ。
またアンケート調査を行ったら、社員にその結果をフィードバックすることも大切だ。
「社員の中には、フリーコメントの欄に『こういうアンケート調査をやっていただき、ありがとうございます。本音がいえて気持ちがすっきりしました』といった感想を書かれる方も多くいらっしゃいます。いい方は悪いですが、アンケート調査を実施するだけで、社員の不満のガス抜きになるという効果もあるのです」
これに加えて調査結果を公表し「出てきた課題を改善するために、今後こんなことに取り組んでいきます」といった方針や施策を示せば、社員は「会社は本気なんだ」と感じ、会社に対する信頼度が高まる。アンケート調査の実施と、結果と対策をフィードバックするだけでも、ESは大きく上がっていくのだ。

「経営理念」が曖昧だと
不満が生まれやすくなる

先に挙げたESの5因子10要素の中でも、一番重要でなおかつ多くの中小企業にとってウィークポイントになっているのが「経営理念・方針」だという。

「経営理念・方針」は、会社という船が、何のためにどこに進もうとしているかを示したものだ。これが不明瞭だと、社員はトップが何を考えているかわからないため「社長はいつも思いつきでいっている」といった不満も生まれやすくなる。

逆に社員が共感できる「経営理念・方針」を掲げることができれば、それが社員にとってその会社で働くやりがいにつながり、ESも向上していくことになる。

「『経営理念・方針』を、具体的な『行動規範』にまで落とし込んで提示できると、社員は会社が何を大切にして、どんな行動が求められているのかをイメージしやすくなります。『経営理念・方針』を社内に浸透させるためには、定期的に機会を設定して、繰り返し社員に語りかけていくことも大切です」

もう一つ「重要度は高いが、満足度が低い要素」になりやすいものに「上司のマネジメント」がある。

「特に上司のヒューマンスキルやコミュニケーション力に不満を抱いている社員が、多く見られる傾向にあります。中小企業の場合、管理職教育が不十分なまま管理職に昇格させているケースが少なくありません。彼らに対して、管理職に求められる役割や、ヒューマンスキルに関する教育をしっかりと行うことが、一般社員のESの向上にもプラスに作用します」

もちろん前述したように、ES低下の要因は会社によって多様だ。「経営理念・方針」や「上司のマネジメント」に関する満足度は高くても、ほかの要素についての不満の高さがES低下につながっている場合もある。あくまでも自社の課題を的確に把握し、的を射た対策を講じることが、ESの改善と向上を可能にする。

次からは、社員の満足度が高い「働きがいのある職場」を実現している会社を実際に見ていこう。

志田貴史(しだ・たかし)

1972年生まれ。福岡大学法学部卒業後、上場大手メーカー、経営コンサルタント会社を経て、㈱ヒューマンブレークスルーを設立し代表取締役に就任。現在はESに特化したコンサルティングに注力しており、中小企業から大企業まで、さまざまな業種・業界で豊富な実績がある。著書に『会社の業績がみるみる伸びる社員満足(ES)の鉄則』(総合法令出版)、『顧客と会社を幸せにするES(社員満足)経営の鉄則』(中央経済社)がある。

CASE 1
ランクアップ

社員に任せて
働きがいを高める

いい会社のはずなのに
社内は重く沈んでいた

社員51人中47人が女性で、そのうちの半数が子どもがいるというランクアップ。社員に一生働いてほしいという想いから、ほぼ残業なしを実現。いまでは17時30分の定時を待たず、17時には多くの社員が帰宅するという

「残業はないけれど、やりがいもない」──。化粧品開発・販売会社の(株)ランクアップは、かつてはそんな会社だったという。

代表取締役の岩崎裕美子氏が同社を設立したのは2005年のこと。女性が出産後も一生働き続けられる会社にしたいと考えた岩崎氏は、業務を徹底的に棚卸したうえで、ルーチンワークについてはシステム化を推進。社員が目標や目的に集中できる環境を整えることで、ほぼ残業なしの職場を実現した。

業績も好調で、売上げも順調に伸び続けていたという。

「当時はこんなにいい会社はないと、私自身は思っていました」 と、岩崎氏は振り返る。ところが現実には、職場の雰囲気は重く沈んでいた。朝礼はお通夜のようにしんと静まり、残業もほとんどないはずなのに、体調不良を訴える社員が何人も現れた。

その原因が判明したのは、外部の講師に依頼をして2泊3日の社員研修を実施した時だった。「会社のために自分たちは何ができるか」というテーマで話し合わせた際「会社が私たちのことを信頼してくれないのに、私たちが会社のためにできることなどない」という声が続出した。この時、岩崎氏は「会社が暗かったのは、やる気のある社員の意欲を潰してきた私に問題があったんだ」と気付いたという。

「それまでの私は、社員が何か提案をしてきても、少しでも私が納得できなければ全て却下していました。社員の提案が、どうしても浅いものに感じていたのです。そのため社員は、やがて意見をいうことをあきらめ、口をつぐむようになりました。 私は社員を、私にいわれたことをこなすだけの作業員にしてしまっていたのです。これでは、社員が仕事のやりがいをなくしてしまうのは当然でした」

価値観を明確にしたことで
社員との間にブレがなくなる

ほぼ残業なしを実現するため「社内資料はワード1枚」「メール文面に『お疲れさまです』の記載禁止」「会議は30分」などのルールを設けている

岩崎氏がまず着手したのは「挑戦」という会社の価値観を明確にし、社員に浸透させることだった。「当社はベンチャー企業であり、お客さまから選ばれる企業であるためには、変化を恐れず挑戦し続けなければいけない」というメッセージを社員に発信することにしたのだ。

ちなみに「挑戦」は岩崎氏自身はずっと大切にしてきた価値観だったが、社員には示してこなかったという。そのためこれまで社員は、社長がどんな価値観を持ち、会社をどういう方向に導いていきたいかを知らないまま、与えられた業務に取り組んでいた。

「『挑戦』を打ち出した時、社員の多くは『また社長が何かいっているよ』という反応でした。けれども粘り強く何度も訴えかけるうちに『どうやら社長は本気らしい』と気付いてくれました」

この価値観を打ち出してから、岩崎氏は社員に安心して大胆に仕事を任せられるようになったという。「挑戦」という判断軸が社内で定まったことによって、社長と社員の判断の間に、ブレがなくなったからだ。

また社員の側も、本来挑戦することが好きだった社員は積極的に企画や提案を出すようになり、そうでない社員は挑戦が好きな社員のサポートに回るというように、それぞれが自分の活躍の場所を社内に見つけられるようになった。

同社では、社員に「働きがいのある会社」であるかどうかのアンケート調査を定期的に実施している。社内の暗く沈んでいた13年当時「この会社の人たちは、仕事に行くことを楽しみにしている」という質問に、「はい」と答えた社員は何と0%だったが、17年には57%にまでアップした。また「この会社は、仕事や職場環境に関する意思決定に従業員を参画させている」という質問では、13年の11%から17年には57%にまで上昇している。

つまり、いくら残業が少なくても、いくら会社の業績がよくても、それだけでは社員は幸せにはならない。社員が主体的に参画できる環境を整え、会社からの信頼と仕事のやりがいを感じられるからこそ、ESの向上につながっていくのだ。

(株)ランクアップ

代表取締役の岩崎裕美子氏

設立:2005年

資本金:1,000万円

代表取締役:岩崎裕美子

事業内容:オリジナルブランド「マナラ化粧品」の開発および販売

CASE2
アクロクエストテクノロジー

社員が全員参加で
会社の意思決定を行う

一人ひとりの給与も
みんなで話し合って決める

アクロクエストテクノロジー(株)は、高速鉄道の安全運行制御システムなどのシステム開発やシステムコンサルティングを手がけるIT企業だ。1991年の設立以来、同社が目指してきたのは「社員一人ひとりが、気持ちよく活き活きと働ける職場をつくること」だった。

そのための仕組みの一つが、月に1回全社員が参加して行う全社員会議(MA:Meeting of All staff )だ。同社では会社の経営方針からイベントの企画まで、トップダウンではなく、MAの場で全員で決めている。

これは、社員自身が本当にやりたいことや、やるべきことを自分たちで決定することで、高いモチベーションを持って仕事に取り組めるようになることを狙いとしているためだ。取締役副社長の新免玲子氏は、次のように語る。

「MAでは多数決ではなく、全員が賛成するまでとことん話し合います。時間はかかりますが、一度決定するとみんなが納得しているため、実行のスピードは速くなります」

さらに同社では「ハッピー査定360」と呼ばれる全体査定で、社員一人ひとりの給与についても全社員で話し合って決めている。これは人事評価に対する納得性や透明性を高めるのが目的だ。

「当社には比較的高学歴の技術系社員が多く、本来であれば大学卒業時にもっと高い年収が見込める大企業に就職することも可能であったはずです。それでも社風や仕事内容に惹かれて、当社への就職を決めてくれました。彼らは高い給与を得ることよりも、社内での自分の成長や、仕事ぶりを正当に評価されることをより重視しています。そのため『ハッピー査定360』は、単に給与を決めるのではなく、その社員が1年間でどう成長し、貢献してきたか、今後はどうあるべきかについて、本人と周りの社員が納得がいくまで話し合う場となっています」

新免氏は「ハッピー査定360」によって、社員間の関係がギスギスするようなことは、まったくないという。「これができるのは、日頃からお互いのことを深く知っており、家族のように本音でいい合える関係を築けているからです。だから、指摘しても関係が壊れることはありません」

さまざまな仕組みで
家族のような関係を築く

誕生日に全社員から花を一輪ずつ贈られる「花一輪」。数ある制度の中でも人気が高い

同社では「家族のような関係づくり」のために、例えば上司が部下を社内にあるバーカウンターに呼んで、日頃の仕事ぶりを褒め、感謝の気持ちを伝える「ほめバー」や、毎日15時からの15分間、全員が仕事の手を休めて歓談をする「コーヒーブレイク」など、社員間のコミュニケーションを促進するためのさまざまな仕組みを設けている。

また職住接近を推奨しており、社員の8割はオフィスの最寄り駅であるJR新横浜駅の徒歩圏内に住んでいる。週末などは、終電を気にせずに社員同士で夜遅くまで飲めるのがメリットだ。

さらに日々の業務についても、約80人の社員全員が、その日の仕事内容や気付いたこと、直面している課題などを「WEB報告書」に毎日書き込み、共有化をはかっている。

「以前『ハッピー査定360』の場でこんなことがありました。自分の強みをまだ見つけられていない女性の若手社員がいたのですが、彼女に対して周りの社員は『あなたは技術者よりも営業のほうがきっと向いている。なぜなら……』と根拠を示しながらアドバイスをしました。彼女は『そこまでいわれるのなら』と、営業職に転換したところ、才能を大きく開花させたのです」

社員がお互いの仕事内容や仕事に対する長所や弱点をよくわかっているから、その人が一番輝ける場所を見つけ、指し示してあげることができる。だから、一人ひとりの社員が生き生きと働くことができているのだという。

同社では現在「中小企業に入って日本を活性化しよう」キャンペーンに取り組んでいる。自らの実践例をベースに、中小企業の経営者たちと「働きがいのある会社づくり」のための勉強会を開催するなど、学生たちが中小企業への就職を前向きに考えてくれるようになることが、同社の願いだ。

15時にオフィス内で行われる「コーヒーブレイク」。リフレッシュ効果はもちろん、コミュニケーション活性化の場としても活用されている(上)。月に一度開催される全社員会議(MA)の様子(右)。通常は13時から18時まで行われるが、議論が白熱すると21時頃まで続くこともある

アクロクエストテクノロジー(株)

取締役副社長の新免玲子氏

設立:1991年

資本金:4,100万円

代表取締役:新免 流

事業内容:IoT・ビッグデータ分析などのパッケージサービス販売事業、システムコンサルティング事業、システム開発・支援事業、飲食事業、職場改善コンサルティング