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経営者力を高める伝える力

会社の舵取りを担う経営者は、自分の思いや考えをしっかりと社員に伝えることで、彼らを動かしていくことが求められる。また経営者は朝会やビジネスプレゼンといった場で、社内外のさまざまな人間を相手にスピーチをする機会も多い。経営者が相手を理解させ、納得させ、動かすための「伝える力」「話す力」の磨き方を探っていく。

労使コミュニケーションの良好度

PART 1

自分の思いや考えを社員と共有し、
社員を動かすための「伝える力」の磨き方

高飛車型リーダーから
気配り型リーダーへ

経営者であれば、自社を取り巻く状況を把握したうえで、事業を成長に導く戦略を練るという行為を日々繰り返しているはず。こうした状況把握力や戦略構築力は、経営者にとって重要な能力であるといえる。

「ただし、それだけではまだ不十分です。どんなに実現性のある優れたプランを頭の中で描けたとしても、それを実行できない限りは絵に描いた餅にすぎないからです」

そう語るのは、ビジネスコミュニケーションに関する教育研修会社・インサイトラーニング(株)の代表取締役社長であり、自身もインストラクターとして長年活躍してきた箱田忠昭氏だ。

では描いたプランを実行に移すためには、何が大切になるのか。箱田氏は「伝える力」だという。トップがつくったプランに沿って、実際に動くのは社員である。プランの内容や意図を社員にきちんと伝えることができ「なるほど、そのプランを実現させることは確かに大切だ。よし、やってやろう」という納得感を引き出せないと、彼らは動いてくれない。

箱田氏は、経営者の多くは伝える力が不足しているという。リーダーのコミュニケーションのスタイルには「高飛車型」「放任型」「気配り型」があり、中小企業の経営者で多く見られるのが高飛車型だと語る。

高飛車型とは、社員の言葉に耳を傾けようとせず「いいから黙って俺のいうとおりにやれ」という感じで、上から高圧的に命令を下すタイプ。一方、中間管理職に多いのが放任型で、仕事の指示を大雑把に出したうえで「あとはお願いね」と丸投げしてしまうタイプだ。どちらも伝える力という点で問題がある。

これに対して気配り型では、自分が描いたプランの内容と「なぜそれが大事なのか」「どう取り組んでいけばいいのか」を言葉にして社員に伝えることができ、なおかつその後も社員への適切なフォローを怠らないタイプのことをいう。

「高飛車型タイプの社長が命令をすれば、社員は否応なく従わざるを得ません。しかし高圧的に社員を従わせたとしても、生産性は上がりませんし、ミスも多くなります。事実、元アメリカ空軍コンサルタントのジョー・K・ヘンプヒル博士の研究によれば、気配り型の職場の生産性を100とすると、高飛車型の職場の生産性は39しかなかったそうです。本当に成果を上げたいのなら、高飛車型のワンマン社長から、伝える力を磨いて、気配り型の社長へと変わる努力をすることが大切です」

目的・目標を明確に示し
動機付けをする

気配り型のコミュニケーションでは、社員に指示を出す時には、まず目的・目標を明確に伝えることが大切になる。

目的とは「自分たちが成し遂げたいこと」を定めることであり、目標とは「その目的に近付くために、何をいつまでにするのか」を定めることである。

例えば会社の事業でいえば、目的を「自社の商品を全国各地に行き渡らせたい」と設定したならば、「2020年までに札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡の主要な都市に営業所を配置する」などが目標となる。

「この目的・目標をわかりやすくはっきりと伝えることで、社員との意思の疎通が円滑になり、ズレがなくなります。ただし目的・目標が社員に伝わっても、それが実行されなくては意味がありません。そこで次に大切になるのは、実際にそれをやりたくなるような動機付けを社員にすることです」

ある物事に取り組みたくなる動機は「社内での評価が高まる」「仲間との喜びが分かち合える」「高い報酬が得られる」「社会や人々の役に立てる」「自分の成長につながる」など、人によってそれぞれ異なる。そこで普段から社員とよくコミュニケーションを取りながら、その人が持つ目的・目標達成の動機をよくつかんでおくことが大事になる。

社会貢献に価値を置いている社員であれば「これが実現すれば、世の中が変わるかもしれないよ」という言葉がけが心を動かすであろうし、自己成長に関心がある社員であれば「30代のうちにこれを経験しておくことは、すごく意味があると思うよ」といった言葉がけが効果的になるからだ。

「こうして目的・目標を共有し、動機付けをしてあげれば、社員は動き出します。さらに気配り型では、社員の業務遂行の様子を見ながら、『うまくいった時には褒める』『方向がずれている時には注意する』『自信を失っている時には励ます』『迷っている時にはヒントを示す』など、場面に応じて適切なフォローをしていくことが求められます」

特に日本の経営者は、社員を叱ることは得意でも、褒めることは苦手な人が多い。褒めるべき時は思い切り褒める。褒められれば誰だってうれしいし、それがまた次の仕事への動機付けへとつながるのだ。

話を聞いてほしければ
話を聞いてあげる

気配り型のリーダーは、実は普段のコミュニケーションの場面では、自分が話すことよりも、相手の話を聞くことのほうに多くの時間を割くことができている。

「臨床心理学者のカール・ロジャース博士は『人は話すことで癒やされる』という名言を残しています。話を聞いてあげれば『この人は私に関心を持ち、私のことを認めてくれている』と人は感じます。すると聞いてくれた相手に好意を抱き、今度は相手の話にも耳を傾けようとするようになります。だいたい80対20の法則で、聞く時間が80%、話す時間が20%を意識しておくとよいと思います」

つまり経営者が自分の思いやメッセージを社員に聞いてほしければ、まずは社員の話を聞いてあげることが必要なのだ。

話を聞く時には、目つき、顔つき、姿勢、言葉遣いの全てに気を配りたい。上司の中には、部下が報告や相談をしているのに、相手の顔も見ずにパソコンや書類を見ながら「ふん、ふん」と返事をする人もいるが、これはよくない。

顔を相手のほうに向け、しっかりとアイコンタクトをとりながら、ときどき相手の話にうなずく。また管理する立場にいる者は、社員の意見や提案をつい頭ごなしに否定してしまいがちだが、これでは社員は口をつぐんでしまう。どんな発言があっても、まずは相手の話を肯定的な態度で聞くことも大切だ。

こうして聞く態度を身に付けることが、相手から聞いてもらえる関係をつくることにつながるのである。

落語家の伝える力、話す力
柳亭小痴楽さん

話すプロである落語家は、普段高座のうえで何を考えながら聴き手と相対しているのだろうか。実力派の若手落語家として注目を集める柳亭小痴楽さんに話を伺った。

ネタ選びで、その日の高座のほとんどが決まる!?

落語はネタ(演目)を選ぶことから始まります。その日のネタは、パンフレットやチラシの関係で数ヵ月前から決めておかなくてはいけない時を除いて、だいたい本番の20~30分ぐらい前に楽屋の中で決めています。自分の前に高座に上がった人のネタや、お客さんの反応を見ながら「今日のお客さんは軽いネタのほうがいいかな」「ここまで軽いネタが続いたから、じっくり聴かせるネタにしようか」といったふうに考えて、自分の古典落語のレパートリーの中から、その日のネタを選ぶのです。

ベテランの師匠方は「ネタ選びでその日の高座のほとんどが決まる」とおっしゃっているぐらいに、どの演目を選ぶかはとても大事です。その日の客層や場の空気によって、ウケるネタがまったく違ってくるからです。また同じネタでも、ちょっとした言葉の選び方や言い回しの違いで、お客さんが近づいたり離れたりします。

でも僕にはそれを感じとるセンスが本当にない(笑)。話し始めた途端に「あれ!? いま、お客さんが離れたな」と、お客さんの冷めた反応を感じることが多々あります。逆にお客さんが食いついてきた時には「今日は何をいっても大丈夫だ」というぐらいにはまるんですけどね。

一時期あまりにもお客さんのことがわからないものだから、自分の高座を全部録音して、それを聞きながらその日のお客さんの年齢層や男女比率、その場の雰囲気、ウケた言い回しなどを細かくメモしていたことがありました。それで「この客層の時には、こういういい回しがウケるんだな」と分析したのです。ところがそのうち高座中にそのデータが頭の中に浮かぶようになって「こりゃ邪魔だな」と思い、きっぱりやめることにしました。

ただし、一度お客さんのことを理詰めでとことん分析したのは、悪いことではなかったと思います。その頃から何となくですが、場の空気やお客さんの雰囲気を感じとれるようになってきましたし、ウケるようにもなってきましたから……。でも、まだまだ修業が必要です。

客層が若い時には、あえて型を外す

最近は僕のような若手の落語会に、20代や30代の若いお客さんがたくさん来られるようになっています。落語の笑いは元々は、落語家のボケにお客さんが心の中でツッコむという形で成り立っています。ところがいまの若い人はコントや漫才を見慣れているために、落語家が自分でボケてツッコまないと笑ってくれません。

だから若いお客さんが多い時には、あえて型を外した落語をやっています。昔ながらの落語ファンにいわせれば「そんなのは落語じゃないよ」ということになるのでしょうが、そんなことをいっていたら若いお客さんが離れてしまう。まずは若い人に一度落語の世界に入ってもらうことが大事ですから、そこから本当の落語の楽しさを知ってもらえればいいと思っています。

もちろん「朝日名人会」のような伝統があって通の落語ファンが多く来られる落語会では、正統派の落語をしっかりとやります。一方で実験的な落語をお客さんも許してくれるような雰囲気の落語会では、あえて自分がやりたいものを自由にやらせてもらうこともあります。

落語は、その日のお客さんとの距離感でよし悪しが決まる部分が多くあります。 「今日のお客さんはどんな人なのだろう」ということをいつも意識しながら高座に上がっています。

柳亭小痴楽(りゅうてい・こちらく)

柳亭小痴楽

●落語家

●1988年生まれ。

2005年10月「ち太郞」で初高座。08年6月に五代目柳亭痴楽門下へ移り「柳亭ち太郞」と改める。09年9月、師匠であり父である痴楽没後、柳亭楽輔門下となる。同年11月、二ツ目昇進を期に三代目小痴楽を襲名。11年には「第22回北とぴあ若手落語家競演会」の奨励賞を受賞。いま注目を浴びる若手落語家の一人。

PART 2

説得力のあるプレゼンやスピーチをするための
「話す力」の磨き方

相手が何人だろうが
話し方の基本は変わらない

経営者は朝会での講話やビジネスプレゼンといったさまざまな場面で、自分の考えや思いを社内外の人たちに話す機会が数多くある。またその際に話をする相手は、少人数の場合もあれば大人数の時もある。ただし箱田氏は「話をする相手が何人だろうが、どんな場面だろうが、話し方の基本は変わらない」と語る。

「少人数を相手に話している時には、おもしろいエピソードや冗談を交えながら、とても魅力的に話すことができているのに、大人数が相手になると、突然演説調の語り口に変わってしまう人がよくいます。しかし演説調では聞き手の心をつかむことはできません。大勢の前でも、1対1で話す時と同じように話せばいいのです」

箱田氏は、大人数を相手に話す時の一つの理想として、深夜ラジオのDJ(ディスクジョッキー)をあげる。ラジオは公共放送だから、聴取者は不特定多数。しかし深夜ラジオのDJは、誰か特定の親しい人に向かって語りかけるような口調で話す。だから聞いている側も、まるで自分だけに向かって語りかけられているように感じ、語り手に好意や親近感を覚えるのだ。

「大勢の前でも親しい人に向かって語りかけるように話すためのコツは、喫茶店にあります。 喫茶店の中での人々の会話には、話し方のヒントがたくさん隠されています」

喫茶店で話に夢中になっている人たちの会話を分析すると、以下の5つの特徴があるという。

① 相手と対話しており、一方的なしゃべりになっていない

② 具体例、出来事、体験が多く話される

③ 部分描写が明確で、状況が手に取るように表現されている

④ 喜怒哀楽などの感情がそのまま出ている

⑤ 口語体、会話調で普段の言葉で話している

つまり大勢の前でも、普段の言葉遣いで、喜怒哀楽の表情を豊かに、具体的な出来事、体験を、細部の状況描写まで意識しながら話すことを心がければいいのだ。これはもちろん少人数を相手に話す時にも効果的である。

聴衆分析を行ったうえで
話す内容を変える

ただし喫茶店での会話は、話が脱線しても許されるが、プレゼンなどの場合はそうはいかない。自分が伝えたいメッセージを順序立ててわかりやすく話す必要がある。また、話す相手も親しい間柄とは限らない。相手が社員であればまだしも、まったく面識のないケースも多い。

「例えば私が『リーダーのあり方』をテーマに講演を頼まれたため、ピーター・ドラッカーやダグラス・マグレガーの理論についてまとめたうえで本番に臨んだとします。しかし聞き手によっては『理論はいいから、もっと現場ですぐに役立つことを教えてくれ』と思う人が多い場合もありますし、逆に『もっとより最先端の深い理論を教えてくれ』と思う人が多い場合もあります。

ですから特に面識のない人を相手に話をする時には、聞き手はどんな人たちで、どういう話に関心があり、話すテーマに関する知識や経験のレベルはどれぐらいか、あらかじめ聴衆分析を行うことが大切になります。そして相手によって話す内容を変えていきます。つまりは『人を見て法を説け』ということです」

また、プレゼンやPRなどの場では、ビジュアル化して相手の右脳に訴えるかけることも重要だという。「イメージ、図形などで見たものは忘れにくいのです。ですから左脳で理解する論理、文字、記号などよりも、右脳で理解するイメージや図形などで訴えるのが効果的です」

ビジュアル化の効果~時間経過と情報記憶量~

PREP法とSDS法で
話の内容に説得力が出る

SDS法によるプレゼンの流れ

話す時には、前述した喫茶店での会話を意識しながら話していけばいいわけだが、同時に話の組立ても考える必要がある。

箱田氏は、朝礼でのスピーチのように話す時間が短い時にはPREP法、ビジネスプレゼンのように持ち時間が長い時にはSDS法で話すと、相手に伝わりやすく説得力のある話し方ができるという。

PREP法とは、①Point(ポイント、要点)、②Reason(理由)、③Example(具体例、実例)、④Point(ポイント、要点)の順番で話すというもの。

例えば小売店の経営者が朝会の場で、「社員だけではなくパートの方々にも、店舗をよくしていくための提案を積極的に行ってほしい」という話をするとする。

そこでまず①Pointでは「私はパートの皆さんにも、お店をよくしていくためのアイデアが出てきたら、どんどん提案してほしいと思っています」というように、最も伝えたいメインメッセージをまず最初に話す。次に②Reasonでは、「なぜならパートの皆さんは、現場でお客さまと接する時間が一番長く、お客さまの不満や要望を社員よりも肌で感じていると思うからです」というように、その理由を話す。

そして③Exampleでは「実は5年前にも、あるパートの方の提案で店舗の鮮魚コーナーを○○のように改善しました。するとお客さまからも大変好評で、売上げが20%もアップしたことがありました」といったように、実例や具体例を挙げる。さらに④Pointで「ですから私は、パートの皆さんにも、お店をよくしていくためのアイデアをどんどん提案してほしいのです」と、もう一度念押しをするというものだ。

「人は相手の話を意外と聞いていないものです。頭の半分ではまったく別のことを考えていたりする。ですから大事なポイントは念押しするぐらいでちょうどいいのです」

ちなみにPREP法は、朝会などのスピーチの場面だけではなく、日常業務で社員に丁寧に指示を与えたい時にも使える技法だ。一方、ビジネスプレゼンなど比較的長い時間話す時には、SDS法が効果的だ。SDS法は①Summary(全体)、②Details(詳細)、③Summary(全体)で構成される。

①Summaryでは「これから来年度の事業計画の概要についてお話しします。ポイントは三つあります。一番目は○○、二番目は○○……」というように、ポイントを絞り込んで三つ程度にまとめて要約する。次に②Detailsでは、Summaryで挙げたポイントを数字や事例を挙げながら、それぞれ細かく説明していく。そして③Summaryでもう一度ポイントを確認したうえで『ですから、ぜひ当社への投資をお願いいたします』といったように、力強く訴えて締めくくるというものだ。

ただしPREP法やSDS法を使ってどんなにわかりやすく順序立てて話したとしても、それだけでは聞き手の心を動かすことはできない。

「一番大切なのは、自分の思いを言葉に乗せて聞き手に伝えようとすることです。聞き手の一人ひとりにアイコンタクトをとりながら、喜怒哀楽の感情を込めて、自分の思いをたった一人に語りかけるように話すことが、人を動かすプレゼンやスピーチになります」

そのためには、いきなり本番ではダメで、重要なプレゼンやスピーチになればなるほど、事前の入念な準備とリハーサルが欠かせない。

準備をしっかりとして、伝える力を向上させることで、経営者力を高めるきっかけにしてほしい。

箱田忠昭(はこだ・ただあき)

インサイトラーニング㈱代表取締役社長。慶應義塾大学商学部卒業、ミネソタ大学大学院修了。パルファン・イブ・サンローラン日本支社長などを経て、デール・カーネギー・コースの公認インストラクターも務める。その後、インサイトラーニング㈱を設立。プレゼン、交渉力など、コミュニケーションスキルの専門家として、全国各地で経営者やビジネスパーソンへの講演、研修を行っている。『「できる人」の話し方&コミュニケーション術 なぜか、「他人に評価される人」の技術と習慣』『「できる人」の話し方&人間関係の作り方 なぜか、「好印象を与える人」の技術と習慣』(いずれもフォレスト出版)など著書多数。