中小企業保険なら月々2000円のあんしん財団

売上げ拡大につなげる企業内学習

社員の成長=組織の成長と考え、多くの企業が多様な教育プログラムを導入している。新人研修やリーダー研修、階層別研修など種類は豊富だが、その中には形骸化したものもあり、教育内容と現実の経営環境とがミスマッチを起こしているケースも少なくないはずだ。これからの組織に求められる企業内学習の方向性を考えるとともに、注目すべき事例を紹介する。

学習の本質は
新しい考え方や行動の獲得

「組織全体のモチベーションが低下している」「命令されたことしかしない」など、社員が期待どおりに成長しないことに悩まされている企業が少なくない。経営環境の急激な変化やグローバル化が進むこの時代に利益を生み出す価値を創出するには、柔軟な視点と発想でビジネスに取り組む必要があり、そのためには個々の社員の主体的な行動が不可欠だ。しかし、自ら考え能動的に仕事をする社員はそう容易に育つものではない。

「多くの企業は自前のプログラムや外部機関による研修会などを用意していますが、“受け身の学習”だけでは効果はあまり期待できません」と話すのは、㈱ヒューマンバリュー代表取締役社長の兼清俊光氏。 既存の教育は、組織が過去に試して成果のあったノウハウであり、先行きが不確実な時代には通用しない内容が多い。また、社員は経営層が示すビジョンを信じることができなくなりつつある。だから組織のモチベーションが思うように高まらないのだと兼清氏は指摘する。

「学習の本質は、変化する環境に適応できるよう、新しい考え方や行動を獲得すること。企業にあてはめれば、その時々の外部環境に応じ、個々の社員が価値を創出できるようにクリエイティビティを発揮しなければいけない。しかし会社が用意した一方的に与える教育では、そうした主体性を培うことはできません」

そこで、兼清氏が推奨するのが「学習する組織」づくりだ。これは米マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏が1990年代に提唱した理論で、個人の創造性を高め、仕事にコミットさせるための手法である。欧米の経営思想に大きな影響を与え、近年は日本の大手企業も取り入れるようになってきているという。


新事業展開にともなう業態の変化における新技術の吸収・融合方法

共有ビジョンを描くことで
組織は大きく変わる

既存の研修プログラムは過去の経験から導き出されたものだが「学習する組織」づくりのポイントは、未来に目を向けることにある。まずは一人ひとりが、会社や自分自身がどうありたいかという実現したい未来を描き、その個人ビジョンを皆で共有するところから組織改革はスタートする。最初は「会社の知名度を上げ、自分の貢献度をもっと高めたい」といった漠然としたビジョンでも、周囲の社員と話し合いながら「実現のために何ができるか」と掘り下げていくことで、次第に具体的な行動目標が明らかになってくる。

「例えば、全社の共有ビジョンの実現に新規市場開拓が必要となれば、それまでかかわりの薄かった部署同士が連携する環境が生まれるかもしれません。複数の部署の社員が協力し合うように努力すれば、彼らはそれまでとは異なる行動を獲得したことになります。まさにそれこそが学びで、実現したい未来を想像したから獲得できたということになります」

そのようにして何ヵ月か経つと、数ヵ月前に立てたビジョンとその時の状況とに変化や違いが生まれ、修正が必要になってくる。そうやって定期的に修正しながらビジョンの実現に向かうプロセスが、組織にとっての真の学習だと兼清氏は語る。

「トップが用意するビジョンは、社員にとって他人事にすぎません。しかし自らが設定したビジョンとアクションプランであれば、主体的にチャレンジする気になります。これからは、そうした企業風土を持つ組織が生き残っていく時代がやってくるでしょう」

近年、グローバルカンパニーのトップの主な役割は、社員が自ら学ぼうとする企業風土を創造することにシフトしつつあり、日本の大手企業でもそのような組織改革が急速に進みつつあるそうだ。

「大手の電機メーカーが新規事業創出プログラムとして取り組んでいるSAP(Seed Acceleration Program)は、既存の事業領域外の新しいアイデアを社内で集め、クラウドファンディング(インターネットを通じて不特定多数から出資や協力を募る)で市場ニーズを探りながら展開されています。同様の取組みは広がりつつあり、中小企業なら、社員の提案を何ヵ月か試してみて、見込みがあれば投資を進めるというやり方もあります」

プランが成功するかどうかは誰にもわからない以上、アクションを起こさなければ始まらない。まずは小さく試してから振り返りを行い、撤退したり次のステップへ進んだりできる「学習する組織」になることが、規模の大小を問わずあらゆる企業に求められるのだと兼清氏はいう。


真の学習は新しいことへの
チャレンジで生まれる

不確実性が低く未来を見通せた時代には、先見性や主体性を持つ一部の社員だけがビジョンと戦略を打ち立て、残りの社員は指示されたとおりに動けば成果が出た。

「しかし、かつて大半の社員が行っていたルーティンワークは、ロボットやAI(人工知能)にとって代わられようとしています。そのような社会では、新しい価値を創造し続けない企業は必ず淘汰される日が来ます。創造性や社会性を発揮して新しいビジネスを創出することは人間にしかできないという観点からも、企業は『学習する組織』にならなければなりません」

学習する企業風土を生み出す3つの要因

ただし、「学習する組織」というコンセプトを導入すれば、直ちに組織が改革されるという発想ではいけないと兼清氏は指摘する。個々の社員がビジョンを主体的に描いて共有するには、そのための企業風土がなければならないからだ。

「『うちの社員は会議でまったく意見を出さない』とこぼす経営者がいます。そのような企業の社員は、何か提案しても経営者から『そんな資金はない』などと、頭ごなしに否定されることを知っているから発言しないのです。重要なのは社員一人ひとりの考えが尊重されることで『おもしろいプランだけどコストがかかるね。そのコストをかけてまでする価値があるか、みんなはどう思う?』と、経営者が各社員に意見を求めるようなら、誰もが発言しやすくなるでしょう。経営者には、社内にそういう風土・文化をつくることに努めてもらいたいと思います」

兼清氏が強調するのは、学習は新しいことにチャレンジした時に生まれるということだ。上司や経営者が下からの提案を否定しがちな組織では社員が挑戦を恐れ、いつまでも与えられた指示を実行するだけの人材にとどまってしまう。

「互いの信頼関係が強い組織ほど学習効果も高いということが、脳神経科学などの領域で明らかにされてきています。社員を締めつける組織では学習が生まれず、より苦しい経営状態に向かうだけでしょう。会社を『学習する組織』にしたければ、職位や立場を超えて社員が尊重し合えるようになることが不可欠です」

ここからは、社員の主体性や学ぶ意識を高め、業績向上に生かしている企業の実例を見ていこう。

兼清俊光(かねきよ・としみつ)

(株)ヒューマンバリュー代表取締役社長。人々・組織・社会の「学習の質」の向上に貢献するため、人材開発と組織変革の潮流を踏まえつつ、現場の知識・経験を取り入れながら、クライアントとの協働的なアプローチで新しい知識・技術を創造し、変革プロセスをデザイン・実行している。

CASE1
プレスク

豊富な教育機会の提供で
キャリアパスの実現を支援

採用対象の変化で増した
新人教育の重要性

プレスクではワーク・ライフ・バランスを重視して、学習機会の時間とモチベーションをつくり出している(株)プレスクは、幅広い業種のITコンサルティングやシステム開発を担うシステムインテグレーターだ。クライアント企業に高品質なコンサルテーションやソフトウェア開発を提供するため同社が注力しているのが、新人から中堅・管理職まで全社員を対象とした、体系的な教育体制の整備である。

学習内容はビジネススキルとITスキルに大別され、ビジネススキルについては社外教育機関の研修を利用。若手・中堅・管理職と階層別に受講している。ITスキルに関し>は、必要な知識や技能を段階的に習得できる社外研修を用意しているほか、社員が新たなスキルを身に付けたいと自発的に思った場合に、研修費用を同社が負担する制度も用意している。

「以前は中途採用のリクルーティング中心でしたが、最近の人手不足でそれが難しくなり、新卒主体の採用に切り替えました。元々、業界水準と比べて充実した学習機会を提供していたと自負していますが、ITスキルやビジネススキルを一から習得しなければならない社員を迎えるようになったことで、社内の学習環境を整備する必要性を改めて感じています」と同社代表取締役の湯浅信氏。即戦力となる社員の採用が困難になったことで、新卒社員の教育に力を入れなければならなくなったという状況は、多くの中小企業に共通するはずだ。

独自の社内勉強会により
上流工程担当者を養成

プログラマーやSE(システムエンジニア)としての経験を積んだ同社の新卒社員は、数年経つと開発の上流工程(ソフトウェア開発における要求仕様の取りまとめや要件定義、基本設計書の作成など)に携わる人材に成長することが求められる。上流工程の仕事を担うには、論理的思考力やドキュメンテーション作成能力を身に付けなければならないが、そうしたスキルを外部研修で養うことは容易ではない。

「そこで当社は、独自の社内勉強会制度を発足させました。中堅の管理職が講師となり、2~3名の若手社員を選定して、ほぼマンツーマンで密度の濃い指導をしています」

2ヵ月ほどにわたる勉強会の参加者は、講師である管理職が出題する仮の要求仕様に対する基本設計書を作成。その過程で講師がさまざまな注文を出すことで、クライアントとのコミュニケーション能力や、プレゼンテーション能力も徹底的に鍛え上げられるという。

社内学習を通じて、社内のコミュニケーションも深まっている

「多くの若手プログラマーやSEが開発現場のマネジャーを務めるようになり、ITコンサルタントや上流工程専門の担当者に成長しています。何より『そろそろ現場を指揮する立場にならなければ』という責任感が参加者に芽生えることに、社内勉強会の大きな意義があると思います」同社には、社員が自発的に企画・運営する自主参加型のワーキンググループ制度もある。社会奉仕を行う「CSRワーキンググループ」、自社で管理するシステムの運用保守、ITに関する情報発信などを行う「社内システムワーキンググループ」、社内資料のテンプレートを改善・作成し、社員の資料作成ミスの削減や事務作業の時間削減に貢献する「テンプレワーキンググループ」などだ。これらの活動を通じて、業務以外でも社員間の横の連携が強化され、自ら課題を抽出して、新しい制度やルールを構築するようになったという。

こうした取組みは「学習する組織」にも通じ、社員の自発性促進と、独自の企業文化の形成に大いに役立っているようだ。

自発的な学習意欲を引き出す
働きやすい職場づくり

社内勉強会をはじめとする同社の学習制度が奏功している背景には、社内でどのような目標を達成していきたいか、将来のキャリアパスを個々の社員に明確にイメージさせていることもある。同社は社員が仕事だけではなく、家庭生活なども大切にできるように配慮しており「東京ワーク・ライフ・バランス認定企業」(認定当時)にも選定されている。

「当社は無理なスケジュールの開発案件は受注しないことを方針としています。そのことで一部上場企業の顧客を失ったこともありますが、質の高い開発をするには社員の絶え間ない成長が不可欠で、長時間労働が強いられる職場には、意欲的に学習に取り組む余裕はありません。自己研鑽をする時間もなく社員が仕事に追われ続ける会社は、いずれ淘汰されてしまうと考えています」

ワーク・ライフ・バランスを重視した雇用環境の整備は、知名度がそれほど高くない企業が有用な新卒者の関心をひくための戦略でもあると湯浅氏はいう。自らの将来のビジョンと照らし、その実現のための学習環境が社内に用意されていることは、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながる。IT業界では人の移動が激しいが、同社に新卒で入った社員の離職率は極めて低いという。

「意義ある社内学習の機会・環境を提供することは、会社にとって必要不可欠な投資と捉えています」湯浅氏はそう語り、その投資効率をさらに高めたければ、労務環境の整備も一体となって進めるべきだと指摘する。

(株)プレスク

代表取締役の湯浅 信氏■設立:1989年

■資本金:3,000万円

■代表取締役:湯浅 信

■事業内容:情報システム分野におけるITコンサルテーション、パッケージ、ソフトウェア開発・保守、およびアウトソーシング事業全般

CASE2
エスタシオ

「自ら学ぶ姿勢」を
企業風土として根付かせる

技術や人間力を多面的に
高められる環境を整備

(有)エスタシオは、東京、埼玉、神奈川、山梨にある4店舗の美容室と1店舗のエステティックサロンを運営している。カット、パーマ、メイクに加え、マインドリラクゼーションメニューやケアヘルスメニューを用意し、心身ともに女性を美しくする「フルビューティー」をコンセプトとしている。

一般に美容業界における技術指導は、同一店舗内の先輩・後輩社員が徒弟に近い関係を結んで行われる。しかし、それでは店舗間で技術や接客の水準にばらつきが出る。そこで同社は、店舗をまたがって研修を施す教育チームを置き、技術指導のためのカリキュラムを確立するとともに、指導役となる社員のティーチングスキル習得に力を入れた。

サービスの提供には顧客とのコミュニケーションも重要なため、技術のみならず社員の人間力を高めるための仕組みづくりにも早くから取り組み「社員は家族」の理念のもと、互いにニックネームで呼び合う習慣などを定着させ、社内にフラットな人間関係を構築した。

「その狙いは、上下関係の中での一方的な指導になることを防ぎ『いまの自分が学ぶべきことは何か』を個々の社員が考え、主体的な学習意欲を引き出すことにあります」と同社代表取締役の舟木なみ氏は語る。この業界の離職率は高いといわれているが、同社の離職率は約4%にとどまっており、こうした社風が新入社員のモチベーション維持にもつながっていることを物語っている。

互いの考えを述べ合う勉強会で
コミュニケーション力を伸ばす

社員の向上心を養うための同社の教育手法の一つに社内勉強会がある。これは舟木氏自身が研修を受けた際に、教材として用いられていた月刊の経営誌を活用したもの。さまざまな業界の経営者インタビューや、顧客満足を実現したケーススタディなどの記事をピックアップして事前に配布し、社員が記事を読んで感じたことを記述する。そのうえで毎月1回、店舗ごとに持ち回りのファシリテーター役を務め、各自の意見を述べ合うことで進められている。

離職率が高いといわれる業界の中、「社員は家族」の言葉どおり、エスタシオの離職率は約4%にとどまっている

「経営誌の記事を読むことで、現場のスタッフが経営者やマネジャーの役割について理解できるようになり、立場の異なる社員同士の相互理解が進むことが期待できます。また、自分の考えをまとめてアウトプットし、他者の多様な考え方に触れるという経験を重ねることで、コミュニケーションスキルも磨かれます」

正解を出すための勉強会ではなく、あくまでも各自が感じたことを率直に発表する場なので、互いの意見を尊重する姿勢が生まれ、職場の雰囲気をよくする効果もあるそうだ。社員の記述を読むことは、舟木氏にとって個々の社員の内面を把握することにもつながる。

舟木氏は全ての記述に赤ペンで共感や励ましのメッセージを書き込み、何かに困っている様子が認められた場合はアドバイスを添えることで、勉強会への意欲を高めている。「この勉強会を行うようになってから、社員の記述内容が明らかに変わり、物事を深く考えるようになったことや、コミュニケーション力が目に見えてアップしました。そのことは、結果として接客スキルの向上にも大きく役立っています」

自発的に取り組む学習は
多くの収穫を組織にもたらす

同社はほかに、舟木氏が「理念」や「ビジョン」を主なテーマとして語る「社長塾」や、人間力を高めるためのさまざまな学びの場である社内大学「エスタシオユニバーシティ」などを開催。これらへの出席は強制されず、完全な自主参加制である。勉強会に出席するたびにポイントが付与され、累計ポイントに応じて独自の修了証が発行されるが、それはあくまでも参加意欲を促す手段にすぎず、人事考課とは無関係だ。

社内勉強会では、いつも活発な意見交換が行われている

「私は社内学習を、個々の社員がより幸せになってもらうための手段として位置付けています。社員が幸せになるということは、自分の仕事にやりがいを持ち、周囲の社員からもお客さまからも愛される存在になることです。そのための学びはトップダウンで強いられるのではなく、社員が自主的に取り組むことで初めて意味を持つのだと考えています」

そう語る舟木氏自身が率先して自己研鑽に励んでおり、毎年長期・短期の複数の経営者研修などを受講している。

長年にわたる社内学習や舟木氏の姿勢に啓発されて「自ら学ぶ」というPDCAサイクルがすっかり社内に浸透し、最近はネイルやエステの技術を自主的に身に付けようとするヘアスタイリストも多くなってきたという。

後輩社員への指導や、店舗のマネジメントに強いやりがいを抱く社員も増えてきた。同社は今後、直営店を倍増させる経営計画を描いているが、そのために必要な人材も期せずして育成されていることになる。これもまた「学習する組織」を企業風土として根付かせたことによる成果だといえるだろう。


(有)エスタシオ

 代表取締役の舟木なみ氏

■設立:2006年

■資本金:300万円

■代表取締役:舟木なみ

■事業内容:美容室・エステティックサロンの経営