中小企業保険なら月々2000円のあんしん財団

定番商品を生み出す開発力

新商品を開発していくことは重要だが、継続的な売上げが見込める定番商品を持つことができれば、経営の安定化に大きく貢献するはずだ。世の中のトレンドにあまり左右されず、長期にわたって支持される商品を生み出すには、どのような視点や姿勢が必要なのだろうか。幅広い消費者のニーズを満たす定番商品開発のヒントを、実例とともに紹介する。


■定番商品の開発に必要な要素例

定番商品の開発に必要な要素例


定番商品に共通する要素は「品質のよさ」「幅広い顧客層からの支持」「手頃な価格」の3つ。それに工作機械事業なら「耐久性」「素材」「熟練の技術」、食料品事業なら「味」「パッケージデザイン」「ネーミング」など、さまざまな要素を合わせていくことが必要になる

企業にも消費者にも
メリットをもたらす定番商品

新たな商品は日々無数に生み出されるが、話題や人気を集めるのはごく一握りだ。一時的にヒットしたとしても、いずれ人気が衰えることは避けられない。だが、それらの優れた商品の中には、顧客層から息の長い支持を受ける「定番」と呼ばれる存在になるものがある。

広辞苑では「流行に左右されず安定した需要のある商品」と定義される定番商品について、「消費財でいえば“棚落ちしない商品”、つまり売り場に必ず置かれている商品ということになるでしょう」と語るのは、(公財)日本生産性本部コンサルティング部で主任経営コンサルタントを務める太田昌宏氏。

「ユーザーの志向や嗜好が多様化し、商品サイクルも短いいまの時代、一定層に持続的に求められる商品を生み出すことは容易ではありませんが、見事定番化に成功すれば、企業にも消費者にもさまざまなメリットを与えてくれます」

企業にとってのメリットとしては「常に安定した売上げが見込め安定経営の基盤となる」、「生産設備を長期間活用でき減価償却とともに利益率が高まる」、「販促活動に大きな労力をかけずに済む」などが挙げられる。一方消費者にとっては、未知の商品を購入して期待外れとなるリスクが回避でき、商品を探す手間も省けることなどがメリットとなる。

どの企業も人気商品となることを願って日々商品やサービスの開発を進めているはずだが、さらに一歩先に目標を据え、売り手にも買い手にも利をもたらす「定番化」を目指したいところだ。

太田昌宏(おおた・まさひろ)

神戸大学大学院農学部農学研究科修了。テキサス大学経営大学院経営学修士(MBA)。江崎グリコ(株)で菓子の商品開発に従事した後、(公財)日本生産性本部コンサルティング部主任経営コンサルタント。著書に『商品企画できない社員はいらない』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

顧客満足を生み出すための
着眼点と商品開発プロセス

どの業界・業種にも、誰もが知るその分野の代表的な定番商品が存在する。それらに共通するのは「品質のよさ」「幅広い顧客層からの支持」「手頃な価格」の3条件を備えていること。さらに、多くの場合、発売時に「それまでになかった新しさ」がある。定番商品を生み出すには、消費者の普遍的な要望を満たしたり、困りごとを解消したりする独創的なアイデアが何よりも重要だ。

「そのためには顕在化していない消費者ニーズに気付く必要があるので、定番商品の開発にはまず観察眼が求められます。独創的なアイデアが得られたら、次に行わなければならないのが、本当にそれが多くの人にとって魅力的なのかを検証すること。本格的な市場調査をする余裕のない中小企業でも、試作品で得意先の客観的な反応を見るといったことが欠かせません。それを省いて発売を急ぐと、開発者だけが満足する独りよがりな商品になりかねません」

開発品と顧客ニーズのマッチングと並んで重要なのが、コンセプト=商品の存在意義の設定だ。どんなターゲット層のどのベネフィット(製品やサービスによって得られる価値・成果・効用)を満たすかを設定しなければ、その商品の市場におけるポジショニングはブレてしまう。

「定番商品の確立にはネーミングも非常に大切で、特長を端的に示して商品イメージを喚起すると同時に、消費者がいいやすく、覚えやすいことが大切です。もしもソニーの『ウォークマン』が『ウォーキング・カセット・ステレオ』といった商品名だったらどうだったでしょうか。大ヒットの背景には、ネーミングの妙もあったはずです」

それに加え、太田氏は新商品のリリース時期への配慮も重要だと指摘る。例えば、食品や家電の流通業界では「春夏」を上期、「秋冬」を下期としており、それぞれのシーズンの始まりにしか販売店の新たな棚を確保することは難しい。バイヤーとの商談は各シーズンの2~3ヵ月ほど前に始まるので、そうしたスケジュールを踏まえた発売計画が求められるのだ。太田氏がコンサルティングを行ったある食品メーカーは、以前は自社の都合で新商品をリリースしていたが、流通サイドに合わせた開発サイクルに改めたことをきっかけに、マーケティングのやり方を見直した結果、売上げが6倍も伸びた例があるという。

定番の維持に不可欠な
トライ&エラー

リリースした商品が首尾よく定番商品になったとしても、売上げが永久に持続するわけではない。消費者のニーズは時代とともに目まぐるしく変化するからだ。一つの商品を存続させるには既存顧客をつなぎ止めることと、新規顧客を開拓することが不可欠で、そのためには定番商品のスペックの見直しや、目新しい系列品の開発が必要となる。

「商品も人間と同様に年を取るので若返りをさせなければなりませんが、定番商品であるほどリニューアルは難しくなります。かつて海外のある飲料メーカーが味を変えたところ、愛飲してきたファンによる不買運動が起きました。新しいマーケットの開拓には思い切った刷新も重要ですが、その商品のコアの部分を変えることには危険がともないます」

海外メーカーの失敗に学ぶ

また、定番商品がその会社の売上げの大部分を占めるようになると、人気が衰えた際の打撃や、技術開発で他社に後れを取るというリスクも発生する。生産設備が定番商品に特化したものになってしまうと、市場環境の急な変化への対応が難しくなるので、特に注意が必要だ。

「商品開発や販売の鉄則は市場ニーズを満たすことですから、定番商品の確立後は、トライ&エラーでこまめにマイナーチェンジや系列品の開発を行い、消費者の反応を見ることが大切です。定番商品を持つ食品メーカーは、よく季節限定のシリーズ品をリリースしますが、そこには既存顧客に定番商品を再認知してもらうとともに、新たに開拓したい顧客層の反応を試すという意図もあります。季節限定の発売なら、ヒットしなくても痛手はある程度の大きさで済むのです」

定番商品を見直すことは、メーカーに限らずあらゆる業界に共通するとして、太田氏は宝塚歌劇団の取組みを例に挙げる。

「100年以上の歴史を持つ宝塚歌劇団は、不変の本質を保ちながらも常に新しさを発信してきました。『ベルサイユのばら』のような演目を定番としながらも、最近はアニメ作品の『るろうに剣心』や『ルパン三世』、ゲームソフトからアニメ化された『逆転裁判』などを舞台化することで、既存ファンの期待に応えながら新しいファンを獲得しています」

消費者は「保守的」で「飽きやすい」という矛盾した二面性を持つ。そのことをしっかり認識したうえで、宝塚歌劇団が象徴的に示すような「不易流行」を心がけることが、定番商品を生み出し、ロングセラーに育てるために必要、と太田氏はアドバイスする。ここからは、不断の工夫で商品の定番化に成功している企業の実例を見てみよう。

CASE1
ミラック光学

顧客ニーズを反映しながら
グローバルに市場を開拓

半世紀以上販売されている
工業用単眼顕微鏡

半世紀にわたり定番商品として愛され続けているメジャースコープ(株)ミラック光学の主力製品は、1963年発売の工業用顕微鏡「メジャースコープ」だ。現社長の村松洋明氏の父が開発したこの単眼顕微鏡は、レンズ内で対象物の向きが上下左右一致する、正立正像が得られるプリズムを組み込んでいるのが特長だ。その精度は極めて高く、多様な工業製品の生産・加工・検査工程での測定や、工作機械や測定器・各種装置の位置決めに活用できる。機械の始動時に刃先を合わせるセッティング用装置として多数の旋盤メーカーにも利用され、工業用単眼顕微鏡というニッチな市場でシェアを拡大。50年以上にわたるロングセラーとなっているが、過去にはその存在価値が揺らいだ時期もあった。

「父の病を機に私が入社したのは、『メジャースコープ』の発売から30年近くたった92年です。以前は大手工作機械メーカーと大口の取引きをしていましたが、タッチセンサーによる自動補正システムの導入などで、工作機械用としてのニーズは減っていました。測定用向けの需要はまだまだあったものの、競合他社は当社より安価な製品を販売。それまでの品質の高さだけを売りにするのではなく、ユーザーが欲する付加価値を付けなければ、やがて売れなくなるだろうという危機感を抱きました」と村松氏。

時代は折しもバブル崩壊直後。製造業が軒並み設備投資を控えたことで、売上げはピーク時の3分の1にまで落ち込み、廃業を考えたこともあったという。

顧客ニーズを吸い上げ
基幹製品をブラッシュアップ

メンテナンスも請け負うことで、顧客に商品の買い替え時を提案できる会社を承継した村松氏が苦境を脱するために実行したのは、自ら得意先の町工場に赴き、ユーザーの要望にじかに触れることだった。大口の得意先の要望に合わせる形で、小規模なマイナーチェンジを2~3回行っただけの「メジャースコープ」は、時代のニーズとマッチしなくなっていることを感じたからである。

ある工場で耳にしたのは「単眼顕微鏡は目が疲れる」という声。早速、顕微鏡画像をCCDカメラで撮影してモニターに映し出せる仕組みを搭載すると、大きな評判を呼んだ。その後IT化の加速とともに、製品に使われる部品の微細化が進んだことで、CCDカメラ付きの「メジャースコープ」は電子部品の加工・検査に広く使われるようになっている。

「多様な使用環境に対応するため、周辺アクセサリーのラインアップを拡充し、接眼ミクロメーターのカスタマイズにも応じるようになった結果、『メジャースコープ』は工業用単眼顕微鏡の定番商品として生き残ることができました」

ある機械メーカーからは、顕微鏡を上下させるアリ溝式摺動ステージの精度を高く評価され、ステージ単体での納品を受注した。微細部品の検査・測定時に、正確な位置決めができるステージの需要の大きさを感じた村松氏は、このパーツを独立して販売できるよう商品化。「グリスの気化や金属の帯磁を嫌うクリーンルームで使用したい」という要望に応えて、オール樹脂製の製品も開発し、いまや「アリ溝式摺動ステージ」は「メジャースコープ」と並ぶ同社の主力商材となっている。

同社の取組みは、いかに評価の高い製品も「定番商品」の地位に甘んじていると、いずれ淘汰される可能性があることを示すとともに、市場ニーズに応じて利便性を高める工夫さえ行えば、新たな需要が掘り起こせることを物語っている。

定番の第2ブランドを創出し
海外展開を推進

国内市場のシュリンクを見越した同社は、数年前よりアジアを中心とする海外展開にも着手。展示会への出展を通じてマーケットを開拓中だ。「新興諸国では『日本製品は確かに高品質だが、オーバースペック。外国製など安価な製品を使い、壊れたら買い直せばいい』という考え方が一般的です。価値観の異なる顧客にいくら品質の高さをアピールしても意味がないと感じ、当社は2016年の夏に『メジャースコープ』の廉価版である『インスペクションスコープ』をリリースしました」

価格は「メジャースコープ」の5~7割。周辺アクセサリーはほとんど用意せず、より高い品質や、関連部品の組合せのバリエーションを求める顧客には「メジャースコープ」をすすめる、という販売モデルを設定した。この第2ブランドは海外限定販売にすることで、国内での「メジャースコープ」という高品質な定番商品の存在価値を損なわない工夫がなされている。

海外展開に際しては、市場を求めるだけでなく、現地メーカーとの技術交流も進め、顕微鏡の画像をWi-Fiで送信できる仕組みを導入。「デジタルキャッチ」と名付けられたこのシステムは「メジャースコープ」をより便利に使うためのオプションとして人気を博している。

「このように適宜新たな機能を開発して提供することは、既存のお客さまから買い替え時に、再び『メジャースコープ』を選んでいただくためのフォローアップにもつながります」

コア技術は不変でも、常に付加価値を加える努力をし続ける。そのことが定番商品の命脈を保つのだと村松氏は語った。

(株)ミラック光学

代表取締役の村松洋明氏創業:1963年

●資本金:1,000万円

●代表取締役:村松洋明

●事業内容:顕微鏡および光学関連機器の設計・製造、精密機械工具の設計・製造、位置決め摺動ステージの設計・製造、そのほか上記に関連する周辺機器・特殊品の設計・製造

CASE2
サクマ製菓

的確なマイナーチェンジで
世代を超えて愛される商品

かつてなかった食感で
定番商品化に成功

サクマ製菓(株)が、飴の中にチョコレートを入れるという斬新な発想の「チャオ」を発売したのは1964年。次なるヒット商品とするために開発したのが「いちごみるく」だ。70年にリリースされたこの飴のコンセプトは「噛む飴」。飴といえば口の中で溶けてなくなるまでなめるものだったが、その常識を覆して噛み砕けるようにしたことで、消費者に、より気軽に食べてもらえる商品とすることを目指した。

「発売後しばらくは反応が薄かったようですが、新しい食感が口コミで少しずつ広がり、徐々に人気が高まりました」と話すのは、商品企画部 商品企画グループ1課長代理の佐伯裕子氏。口に入れた瞬間はいちご味、噛めばサクサクした歯ごたえとともに、いちごみるく味が広がるという不思議な味わいは、いちご味の飴とみるく味の飴をミルフィーユ状に重ね、さらに全体をいちご味の薄い飴でくるむという独自の製法によるものだ。「いちご」と「みるく」という味の取合せも新鮮で、一度食べれば病みつきになる美味しさを秘めていたのが、消費者に受け入れられた理由だった。「当時はスーパーマーケットが普及し始め、それまでの主要な販路だったまちのお菓子屋さんが減っていった時代です。そうした時流に合わせ、いち早く量販店向けの販売に対応したのもヒットの一因だったのではないかと思います」

それに加え「ま~るくて、ちっちゃくて、さんかくだ!」の歌詞でおなじみのテレビCMも知名度アップに大きく貢献。「画期的な食感」、「流通形態の変化への対応」、「効果的な宣伝」という要素が重なり、同社を代表する定番商品となった。発売から46年たったいまも「いちごみるく」は同社の売上げの約40%を占める主軸商品であり、多くのファンに愛されている。

市場動向を敏感に捉えて
味や包装をリニューアル

世代を超えて親しまれる「いちごみるく」(左)と、2016年に発売された「サクマみるくアソート」(右)

「いちごの酸味」と「みるくの甘み」の絶妙なハーモニーと「食感」を大切にしている点は発売当初から不変だが、その味は時代ごとの消費者の好みに合わせて何度もマイナーチェンジされてきた。発売当初は甘い飴が好まれていたが、健康志向の高まりなどで、消費者は甘さを抑えた味を求めるようになったという。福岡県産あまおうの果汁を添加するとともに、少量の食塩を加えて味の奥行きを表現するようになったのは2009年のこと。商品の顔であるパッケージも、初期のデザインを踏襲しながら何度も変更されている。「そうしたリニューアルは、市場調査を行い、企画・開発・営業の各部署が意見を交換しながら常に検討しています」

いまは量販店での販売が中心であることから、マーケティングのメインターゲットとなるのは主婦層だ。往年の消費者である親世代に支持されれば、子世代へ「いちごみるく」を広めてもらう効果も期待できる。「認知度は高いものの購買機会が比較的少ない若いカスタマーへの訴求策として、14年にはSNSを利用したキャンペーンを展開しました。『いちごみるく』のかわいらしさと、美味しさを再認識していただくために、『いちごみるく』をモチーフにしたバッグやアプリのプレゼントキャンペーンを行った結果、10代の消費者による購買が増加しました」と佐伯氏は語る。これは新たな若い顧客層の開拓に、SNSが有効であることを示している。

世帯構成の変化に応じ

柔軟な販売手法も模索

かつてのお菓子は家族によって共有されるものだったが、近年は単身生活者が増加し「1人では同じ味の飴を食べきれない」という声が増えているという。そこで同社は16年に定番の「いちごみるく」と、「ぶどうみるく」、「みかんみるく」などのシリーズ品を1袋にパックした「サクマみるくアソート」を発売。3つの味を同時に楽しめる「アソート」は、コンビニや量販店を中心に展開している。

「味や包装をリニューアルするだけではなく、世帯構成やライフスタイルの変化に対応した販売など、きめ細かな工夫をすることが重要だと思います」「いちごみるく」から派生した商品群

少子高齢化による国内市場の縮小は深刻な問題だが「いちごみるく」は最近、訪日外国人からも人気を集めている。その独特の食感が受け、お土産として購入するケースも多いそうだ。

「『いちごみるく』は東京五輪が開催される20年に発売から50周年を迎えます。日本を代表するお菓子の一つとして認知されるように、インバウンドに向けた訴求にも力を入れられればと、個人的に考えています」

これまで何度も改良を重ねてきた「いちごみるく」は、より多くの顧客の心をつかむためのブラッシュアップや宣伝手法を、現在も試行錯誤しながら続けている。既存顧客の期待に応えるために商品の基本部分を変えることなく、いかに新規顧客を開拓するか。「いちごみるく」もまたそんな悩ましいテーマを抱えているが、これは魅力ある定番商品ならではの宿命といえるだろう。

サクマ製菓(株)

商品企画部商品企画グループ1課長代理の佐伯裕子氏

●設立:1949年

●資本金:3,900万円

●代表取締役:山田隆男

●事業内容:菓子(キャンデー類)製造