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消費者心理・行動から生み出す新商品

消費者のニーズが多様化している現在。購買の意思決定を左右する、消費者の心理や行動を理解していなければ、企業の成長は難しい時代になっている。

そこで、消費者の心理と行動をどのように分析し、売上げ拡大へと結び付けることができるのか、またそこから、どのような商品や サービスを生み出すことができるのかを検証していく。

データの活用と
社員自身によるリサーチ

「ただ品質がいいだけでは、モノは売れない時代」といわれるようになってから、ずいぶんと時が経つ。そんな中でメーカーやサービス業の企業に求められているのは、消費者心理や行動からニーズをつかんだうえで、それを新商品や新サービスの開発に生かしていくことだ。

「消費者の心理や行動をつかむことが大切といっても、コストをかけて大がかりな調査をする必要はありません。マーケティング部門を持つことができない中小企業でも、工夫次第で十分に対応できます」

こう語るのは、消費者の心理や行動に詳しい跡見学園女子大学教授の佐野美智子氏だ。佐野氏は、お金をかけずに消費者の消費トレンドやニーズを把握するためには「データの活用」と「社員自身によるリサーチ」が2本柱になるという。

いまの時代はインターネットで検索すれば、官公庁や調査会社が実施した各種の消費者調査を無料で入手することができる。そうしたデータの中から有益だと思われる情報を常時収集していれば、社会や市場の大きな流れの中での消費者の心理や行動が見えてくるようになる。

一方、営業マンや販売員といった顧客との接点が多い社員は、顧客の暮らしぶりや興味・関心を直接感じとるチャンスに恵まれている。「あのお客さまは、あんな生活をしていて、こんなことをいっていたから、こういう商品やサービスを提供すれば飛びつくのではないか」といった予測や想像ができやすい立場にある。

データだけでは、消費者の実像は見えにくいが、個々の顧客の暮らしぶりや声を吸い上げるだけでは、偏った情報になる危険がある。しかし両者を組み合わせ、すり合わせることで、大きな社会の流れの中で消費者が何を感じ、求めているかをつかむことが可能になる。

「営業マンや販売員の方なら、商品に対する顧客の不満やニーズにつながる消費者心理を、多かれ少なかれ感じとっているはずです。しかし多くの企業では、彼らが現場で感じていることを組織として共有化し、活用する仕組みが設けられていません。そこで大切なのは、顧客と接する中で気付いたことやいわれたことを、みんなで話し合う場を設けることです。そしてデータと付き合わせながら、顧客の心理や行動に関する仮説を立てていく中で、開発すべき商品やサービスが見えてきます。営業マンや販売員は、顧客にモノを売ることだけが仕事ではありません。顧客の状況をリサーチする役割も担っているという意識を、個々の社員に持たせることが大切です」

■意志決定過程の包括モデル(CDPモデル)

CDP(Consumer Decision Process)モデルは、消費者の意思決定過程を包括的に示すために、意思決定の流れ(欲求認識→情報探索→購買前の代替案評価→購買→使用・消費→使用後の評価→処分・不満・満足)、情報処理の流れ(刺激→露出→注意→理解→受容→保持→記憶)、意思決定に影響する環境の要因(環境の影響)、意思決定の個人差を生み出す要因(個人差)の4つの要素から構成されている

佐野 美智子(さの・みちこ)

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授。早稲田大学で社会学を学んだ後、米国ミシガン大学大学院で社会調査の方法論について学ぶ。修士課程修了後、㈱日本経済新聞社の研究所で13年間にわたり、消費に関する調査研究に常勤研究員として従事。消費者調査の企画・設計・分析に数多く携わり、1990年代末より大学教員として研究を重ねている。著書に『消費入門―消費者の心理と行動,そして,文化・社会・経済―』(創成社)などがある。

心理・行動・環境から
潜在ニーズを把握する

佐野氏は、顧客と接する時には「消費心理」「消費行動」「消費環境」の3つに目を向けると、消費者のニーズが見えやすくなると話す。

ある店舗で、子連れの若いお母さん方がよく購入する(=消費行動)人気商品があったとする。そんな時にはなぜその商品を好んで購入するのかという理由(=消費心理)と、商品を購入する人たちの経済状況や家族構成、ママ友との関係など(=消費環境)についての把握に努めるようにする。そして「そうした環境や心理にあるお母さんは、ほかにはどんな商品があると喜んでくれるだろうか」とイメージしてみると、新商品や新サービスのアイデアが生まれてきやすくなるわけだ。

「特にいまの時代は、消費行動の背景となる消費環境を見ることがとても大切になってきています。消費者が置かれている環境が、非常に多様になっているからです」

例えば一口に子育て中の母親といっても、専業主婦もいれば共働きもいるし、親世代と同居していて子育てのサポートが得られる人もいれば、そうではない人もいる。またシングルマザーも増えている。そうした消費者の多様な環境を把握し、どの層に向けて商品を開発するのかを絞り込まないと、消費者の心を捉えた商品を世に出すのは困難だ。

また、近年は時間面の豊かさ、人や社会とのつながりに豊かさを求める消費者心理があり、市場にも影響を及ぼしていると佐野氏は話す。

「ミレニアル世代と呼ばれている20代や30代前半までの若い人たちは、友達とSNSなどで情報交換をしながら、次にどんな商品を買うかについての選択をしたり、友達同士のつながりを求めて、同じ消費行動をとる傾向が顕著になっています。同様に団塊の世代を中心としたシニア層も、時間と人的ネットワークが豊かであればあるほど、知人に喜んでもらえたことや、他者と経験を共有できることにお金を使おうとする傾向が強くなっています。ですから消費者の環境を把握する時には、その人が普段どんな時間の使い方をしながら人的ネットワークの中で生活をしていて、そのネットワークの中ではどのような商品やサービスが求められているかを探っていくことが大切になります」

年代別の最も重視している「豊かさ」

実際に顧客と接する中で
消費者の心理や行動をつかむ

消費者の心理や行動を把握するためには、営業マンや販売員が「どういう環境にいるお客さまが、どんな心理でこの商品を購入しているのか」という課題意識を持ちながら、日々顧客と接することが基本となる。メーカーのように、直接消費者と接する機会が限られている場合は、自社の商品が扱われている店舗などを訪れて、消費者の様子を観察するといいだろう。

その顧客は、誰とどんな場面で何をするために、その商品を購入しているのかをイメージしながら接客や営業をしていると、顧客の心理が見えてくる。もちろんさりげない会話の中で、そうした情報を顧客から聞き出していくことも重要だ。またクレームも、消費者が商品やサービスに対して何を求めているかを知る貴重なチャンスとなる。事実、クレームを新商品の開発に結びつけている企業は少なくない。

さらに近年は、SNSなどを利用して、企業が消費者と直接やりとりをしながら消費心理や消費環境に関する情報を入手できるため、これらも有効に活用したい。

佐野氏は「消費者の行動や心理環境に敏感になるためには、日々のニュースにもアンテナを張っておいたほうがいい」と話す。

「テレビや新聞で、いまこんな新しい消費のスタイルが起きているとか、こんな商品やサービスがブームになっているといったニュースに接したとします。その時には、どんなライフスタイルの消費者がその商品やサービスを利用しているのかを推測したうえで、自社ではどのような商品やサービスを提供できるかを考えてみます。これを繰り返すことで、消費者の心理や環境を察知し、商品開発に結びつけていく力が磨かれていきます」

そして消費者の心理や行動、環境に精通した社員から情報や意見を集め練り上げる中から、新商品や新サービスに関するアイデアが浮かび上がってくるわけだ。

次からは、実際に消費者の心理や行動を分析し、それを商品開発に結びつけた例を紹介しよう。

CASE1 ホワイトプラス

利用者の生活の質を高める
宅配ネットクリーニング

「営業時間」「品質」
に対する不満を全て解消

(株)ホワイトプラスが運営する「リネット」は、ネットで申し込むと配送業者が集配をする宅配ネットクリーニングサービスだ。

多忙なビジネスパーソンなどの利用者が一般のクリーニング店の営業時間内に持ち込み、後日受け取りをするのは容易ではない。

しかし「リネット」にはそうした不便さがなく、重い衣類を運ぶ必要もない。最短2日で納品されるというスピード感も受けて利用者が増加している。

「クリーニングに対する消費者心理の多くは不満・不便です。その中でも多い『営業時間』『品質』のうち、『営業時間』の問題は宅配で解決できます。また、一般のクリーニング店の経費の3~4割は店舗運営にかかりますが、実店舗を持たずにお客さまと工場をダイレクトに結ぶ当社のビジネスモデルなら店舗運営費分をクリーニングの質を高めるために投資することが可能です」と話すのは、代表取締役社長の井下孝之氏。

同社の事業を急成長させた大きな要因は、自宅にいながらにして集配がなされる利便性だが、それだけではこの事業は成立しないという。一度利用した顧客がリピーターとなってくれるためには、品質が極めて重要なカギを握るからだ。

顕在・潜在ニーズを引き出す
利用者とのコミュニケーション

品質を追求するため、提携先のクリーニング工場は、同社が定めた100以上の基準を満たすとともに「利用者の心を豊かにする」という価値観を共有できる先だけを厳選。現在は「リネット」の専門工場も設けられ、パートナー工場と密な連携をとって品質改善に取り組んでいる。一般のクリーニング店では男性のスーツとワイシャツが多いが、同社では女性ものの扱いも非常に多い。男性は利便性、女性は品質を重視する傾向があるそうだが、ユーザーの約60%を女性が占めていることも、同社のクリーニングの品質の確かさを物語っているようだ。

顧客とのコミュニケーションを重視し、利用ごとの仕上がりの満足度調査やアンケート調査で不満や要望を吸い上げることで、顧客の心理をサービスの改善や新たなクリーニングの価値創出に役立てているのも同社の特長だ。顧客が気軽に声を発信できるのは、ネットサービスの大きな利点。例えば昨年開始した通常の7割の料金設定での子ども服のクリーニングは、利用者の声から生まれた新たなメニューだ。

「ただし、声として上がってこないニーズもあるため、私たち自身が常にお客さまの目線を持つことが欠かせません」と井下氏。顕在化した要望と潜在ニーズをしっかり拾い上げることで、衣類がシワになりにくい梱包材や梱包法の考案、より洗浄効果の高い独自洗剤の開発など、創業時からこれまで絶え間なくサービスの質を向上させてきた。

全国の会員数が20万人を突破しているのは、そうした実践の積み重ねの結果である。

現在、会員数が20万人を突破するまでに成長した「リネット」

成熟した社会に求められる
価値観を掘り起こし提唱する

最近欧州を訪れた井下氏は、昔ながらのまち並みが保たれている都市の様子に、あるヒントを得たという。

「一つのものを長く大切に使うという人々の心理が、精神的な豊かさを生み出しているのではないかと思いました。自分が大切にしている服をケアするためのクリーニングもまた、そのことに通じると感じました」

社会が成熟期に差しかかった日本人消費者の心理は、今後新しいものを手に入れるより、愛用しているものを長持ちさせる方向に向かうはずだと確信した井下氏は、改めて同社が展開する品質重視のクリーニングの存在価値を認識。そのことをきっかけに、「お気に入りをもっと好きになる。そんな自分がもっと好きになれる」をコンセプトとする「Love more」プロジェクトを発案し、より豊かなライフスタイルを送るためのクリーニング体験を提供しようとしている。その一環としてアパレル専業の運送会社の協力で、21時から24時までの集配サービス「夜間便」と、衣類をハンガーに吊るしたまま届ける「シワなしハンガー便」を今年10月から都内23区で開始。将来的には実施地域を拡大する意向だ。このプロジェクトでは、今後も利用者の潜在ニーズに応えるための新サービスを逐次展開していく予定だという。

大切にしている服をきれいにすることで気分が満たされるとともに、宅配によって節約できた時間を家族との語らいなどに活用してもらうことを大きな目的とする同社の事業は、クリーニングを通じて利用者に多様な付加価値を届けようとしている。

(株)ホワイトプラス 代表取締役社長の井下孝之氏

代表取締役社長の井下孝之氏

●設立:2009年
●資本金:7億2,950万円(資本準備金含む)
●代表取締役:井下孝之
●事業内容:宅配型クリーニング「リネット」、ふとんクリーニング「ふとんリネット」、ブーツクリーニング「くつリネット」、保管付クリーニング「リネット保管」、クラウド型収納スペース「HIROIE」

CASE2
(株)ベルニクス

人々が何で困っているか
課題設定がカギとなる

もし日本で売り出せば
人気が出るのではないか

埼玉県さいたま市に本社を持つ(株)ベルニクスは、さまざまな機器の電流や電圧を調整する電源装置の製造メーカーである。そんな同社が電動自転車を開発したのは、2012年のこと。開発のきっかけは同社代表取締役社長の鈴木正太郎氏が、2010年にドイツ・ミュンヘンで行われた世界最大のエレクトロニクスショーを視察し、スタイリッシュな電動自転車を見つけたことだった。

「もし日本で、こういうデザインの電動自転車を売り出せば、きっと人気が出るのではないか」と、その時に鈴木氏は思ったという。

その後、鈴木氏から欧州の電動自転車事情について話を聞いた自治体から、子育て中の母親向けの電動自転車の開発についての依頼があった。市民の自転車活用の機会を増やし、二酸化炭素の削減をはかろうという自治体のアイデアだった。

「当社にとって自転車の開発は、いうまでもなく分野違いです。ただ、電動自転車で必要となる電池の充電やモーター制御といった技術は、電源装置の開発の中で培ってきています。自分たちが有している技術を生かせる分野であると判断して、依頼をお受けすることにしました」

消費者の課題を
徹底的にリサーチする

同社が開発にあたって着手したのは、電動自転車に関する消費者心理にある不満を徹底的にリサーチすることだった。その結果わかったのは、パンクに対する不満の多さだった。電動自転車の重量は30キロ前後に達する。そこに母親と子どもが乗った場合、タイヤにかかる負荷は相当なものになり、パンクが頻繁に起こりやすくなる。重い自転車を引きずりながら、子ども連れで修理をしてくれる自転車店を探すのは、母親にとって大変な苦痛だ。

そこで同社が開発したのが、チューブの代わりに特殊な樹脂を用いることで、仮に釘が刺さってもパンクをしないタイヤだった。

「大切なのは課題の設定です。『売れる電動自転車をつくろう』というだけでは、社員からアイデアは出てきません。でも『多くの人がパンクに困っているから、これを何とかしよう』という課題を投げかければ、社員は一生懸命解決案を考えるようになります。商品開発では、その分野でいまの課題は何かについて、意識を向ける必要があります」

このほかにも同社が開発した自転車では、万が一転倒した時に一緒に乗っている子どもの衝撃を和らげるために、車輪を小径にすることで子どもの座席を低くしたり、子どもの体よりも先にチャイルドシートのとっ手が地面について支えるようにするなどの工夫が施された。

ただし同社の自転車事業は、挫折が待ち構えていた。さまざまな事情により、依頼してきた自治体の電動自転車を導入するという計画が頓挫したのだ。そこで市販での販売に活路を見出そうとしたが、販売体制が整っていなかった。

しかし、鈴木氏は事業をあきらめなかった。子育て電動自転車では市場が狭すぎると判断して、一般向けの電動自転車の開発に方針を転換。そして世界で初めてのワイヤレス給電式の電動自転車の開発に着手し、商品化を実現したのだ。

「従来の電動自転車は、充電の際には電池を自転車から外して充電器に挿入し、一昼夜充電しなければいけないというように、非常に手間がかかっていました。でもワイヤレスであれば、自転車を止めたその場で電池を外さずに充電ができます」

ワイヤレス給電の場合、充電管理が楽になるため、レンタサイクル事業会社などでの導入が今後進むことが期待されている。また同社では現在、自転車販売店への販路開拓も進めているところだ。

ワイヤレス給電式の電動自転車も「充電に手間がかかる」という多くの人が抱いている課題を解決しようとする中から生まれた商品であるといえる。同社の商品開発は、課題設定がカギであり、いかに消費者の心理や行動の問題を解決していくかが重要になっているのだ。

(株)ベルニクス 代表取締役社長の鈴木正太郎氏

代表取締役社長の鈴木正太郎氏

●設立:1978年
●資本金: 2,000万円(払込資本金)
●代表取締役社長:鈴木正太郎
●事業内容:産業用など各種電源装置、電源システムの開発、製造。電動自転車や、在庫管理システムなども手がける
【消費者の不満を収集し、企業に提供してくれるサービス】

不満買取センター ホームページ画面

(株)不満買取センター

(株)不満買取センターは、消費者が商品やサービスなどに関する不満について綴った文章を、その内容に応じて1件1~50円で買い取り、ビッグデータ・自然言語解析をして情報を整理し、企業に提供をしている会社である。約30万人の会員から、1日最大4万件の投稿があるという。

不満データは、業界・業種や商品単位などに159のカテゴリーに分けて整理分析されており、企業はカテゴリーごとに情報提供を受けることが可能だ。また調査事業といって、「○○の商品に関する不満を集めてほしい」といった個別の依頼にも対応しており、この場合は期間を設けて調査が実施される。

「一般に調査会社に調査を依頼すると、莫大な費用がかかります。しかし当社では、例えば調査事業では1,000件単位から受注しており、コストを数十万円に抑えることも可能です。比較的安価で、しかもより多くの消費者の不満の声を集められるところが魅力です」と、同社代表取締役社長の中島正成氏は語る。

また調査を行う際は、多くの会社では自社商品やサービスだけではなく、競合他社の商品・サービスに関する不満の収集も依頼するという。するとライバル会社と比較した時の自社の強みや弱みを把握でき、それを商品開発に反映することができる。

「いまの時代は、消費者が何を求めているかをしっかりと把握したうえで商品開発を行わないと、簡単にはモノが売れない時代になっています。中小企業もマーケティング力の有無が、ビジネスの成否を大きく左右しますから、当社の果たす役割は大きいと考えています」