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ジェネレーションギ ャップを乗り越える

若手社員からベテラン社員まで、意識を共有化し、同じ方向を向いている組織は強い。また老いも若きも自由闊達に意見をいえる組織からは、新しい発想やアイデアが生まれやすいものだ。だがこうした組織づくりの前に立ちはだかるのが、ジェネレーションギャップの壁。この壁はどうすれば突き崩すことができるのか。さまざまな具体例をもとに考えていきたい。

忙しすぎる管理職
意見をいわない若手社員

「いま時の若いもんは、わからん!」

いつの時代でも、ベテランの社員や経営者は、そういって若手社員の振る舞いを嘆いてきた。一方、若手は若手で「うちの管理職は発想が古い」「若手の気持ちがわかってい ない」と、先行世代に不満を抱く。つまり職場のジェネレーションギャップは、いまに 始まったことではない。

ただし企業の組織活性化支援などに携わっている株式会社プレビス代表取締役の德山誠氏は「 いまの時代ならではの問題がある」と指摘する。それは「中間管理職が若手の面倒をき ちんと見られなくなっていること」だ。

中小企業では昔から、管理職といえどもプレイングマネージャーであることを求められ てきた。だが特に最近は、プレイヤーの比重が高まっており、自分の業務をこなすだけ で精いっぱいの状態。若手の様子を見ながら、適切な励ましやアドバイスをしたり、若 手とコミュニケーションをとりながら、彼らが何を考えているかを理解したりする余裕 がなくなってきている。そのためいつまで経ってもジェネレーションギャップが埋まら ないのだ。

世代間の溝が埋まらないもう一つの要因は、いま時の若手の気質だ。

「いまの若者はSNSで盛んにコミュニケーションを取りあうなど、同世代でのつながりは とても強い。反面、仲間から浮いてしまうことを恐れて、自分の意見をいおうとしません。物わかりはいいし、口答えもしないけれども、なかなか本心がつかめないのが特徴 です」

社長自らが積極的に
若手とかかわっていく

こうした状況を改善するために経営者に求められるのは、まずは中間管理職がもう少 し若手の指導に時間を割ける環境を整えることだ。 「現在取り組んでいる業務の中には、優先度の低いムダな作業も含まれているはず。そ こで業務の見直しを行いスリム化すれば、余裕ができた時間をマネジメントに振り向けることが可能になります」

とはいえ業務のスリム化には限界がある。そこで德山氏は「中間管理職が若手と接する 時間を確保できないのであれば、社長自身がもっと直接若手とかかわっていけばいい」 と語る。従業員数が少ない中小企業であれば、それが可能なはずだ。

従業員数約200人のある会社では、社長が毎朝現場を回り、全社員と目を合わせて挨拶を することを心がけてきた。これを意識的に続けていると、社員の表情の変化が次第にわ かるようになる。ある時社長は、以前は笑顔で挨拶を返してくれていた若手の表情が、 最近こわばっていることに気付いた。そこで食事の席に若手を招いて話を聞き出したと ころ、その若手はある誤解から社長の経営方針に不信を抱いていることがわかったとい う。慌てて社長は若手社員に経営方針の真意を説明し、不信を取り除くことができた。

「その社長は『挨拶がこんなに大事なものとは思わなかった。あのまま気付かず放って おけば、若手との間に大きな溝ができたままになっていた』と話していました。特にい まの若手は自分のほうから意見をいおうとしませんから、こちらから降りていくことが 大切。そして何かいい出した時には、傾聴するように心がけます。自分の意見が否定さ れないことがわかれば、若手も安心して話してくれるようになります」

シニア社員に対しては
求める役割を明確に伝える

ジェネレーションギャップの問題が起きているのは、若手との間だけではない。最近 は定年延長や再雇用制度によってシニア社員が増えたため、若い管理職が年上の部下の 対応に苦労している光景がよく見られるようになった。職場の中でシニア社員をどう位 置付けていくかも、多くの企業が直面している課題だ。

「会社としてそのシニア社員にどんな役割を求めているのか、社長が本人にきちんと伝 えることが重要です。自分が会社から期待されていることがわかれば、シニア社員も期 待に応えるべく振る舞おうとします。また本人の了解を得たうえで、ほかの社員にも『 ○○さんにはこういう役割を期待しているので、皆さんも困った時にはぜひ助けてもら ってください』と周知することも効果的。これにより両者の意思疎通の齟齬 ※ そごを解消することができます」

新卒からシニア社員まで年齢層が幅広い職場ほど、社員が年齢の壁を越えて、お互いを理解し合える関係づくりも重要になる。ある会社では会議の終わりに10~20分程度の「雑談会」の時間を設定。役職や年齢が上の人間から順番に、プライベートについて近況報告をすることにした。すると「彼にはあんな趣味があるのか。私と同じだな」「あの課長は会社では鬼だけど、家では子煩悩なんだな」といったように、お互いのプライベートの姿を知ることになり、世代間の距離がぐんと縮まったという。次からは実際に職場のジェネレーションギャップを解消し、世代を超えた強いチームづくりに成功している企業を紹介しよう。

イマドキ新入社員の仕事観

十年一昔というが、たった5、6年でも新入社員の仕事に対する価値観は大きく変わってくるものだ。㈱リクルートマネジメントソリューションズが行った「新人・若手の意識調査2016」を見ると、その変化をはっきりと確認することができて興味深い。図2は2010年、13年、16年に、その年度の新入社員に「仕事中心の生活に対する考え方」について、「1:全くあてはまらない」から「6:とてもあてはまる」までの6段階で答えてもらい、平均を表したものだ。これを見ると「仕事中心の生活はいやだ」という問いでは、10年度入社組の平均が3.8だったのに対して、16年入社組は1ポイント近く高い4.7となっている。「あてはまる」と答えた新入社員が多かったわけだ。同様に「仕事は生計を立てるための手段と割り切っているのでほどほどにしたい」「仕事以外の生活を充実させたいので、仕事はほどほどにしたい」といった問いでも、16 年度入社組は高い数値となっている。かつて日本のサラリーマンは「モーレツ社員」だとか「企業戦士」といわれたものだが、それとは真逆の働き方を志向しているわけだ。ただし16年入社組は「打ち込める仕事であれば、仕事中心の生活になることもいとわない」という問いでは、ほかの年次の入社組よりも肯定的な回答が多くなっている。「仕事はほどほどに」といいながらも、心から打ち込めるやりがいのある仕事を求めている姿が見えてくる。

德山誠(とくやま・まこと)

1955 年生まれ。㈱プレビス代表取締役。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科兼任講師。三菱自動車工業㈱勤務を経て独立。コンサルタントとして、組織活性化支援や人材の能力開発支援、キャリア開発支援に取り組むほか、メンタルサポートも手がけている。

CASE1
ダイヤ精機

みんなで知恵を出し合う
「THE町工場」を目指す

ベテランと若手を
社長自らがつなぐ

工場内では話し合う声や笑いが絶えない

NHKのドラマ「マチ工場のオンナ」の原作者としても知られるダイヤ精機㈱代表取締役の諏訪貴子氏。2004年に代表に就任して以来目指してきたのは、従業員が年齢の違いを越えて、何でも話し合える職場環境をつくることだった。

同社では07年より新卒社員の採用を強化。かつては50代以上が全社員の6割を占めていたが、いまでは20 ?30代が中心の組織に生まれ変わった。他方で、定年を70歳まで延長し、その後も本人が希望する限りは嘱託として働き続けられることにした。若い社員を中心としながらも、70代社員も勤務している。そんな組織になったのだ。

「ベテランの社員には、『好きなだけうちで働いてくださいね』と話しています。彼らを見ていてすごいなと感じるのは、60代や70代になっても『俺は職人としてまだまだ』といいながら、腕を磨き続けようとするところ。若い社員には、彼らの技術はもちろんのこと、仕事に向かう姿勢を学んでほしいと思っています」と諏訪氏は語る。

ただし70代と20代となると、祖父母と孫ぐらいの年齢差がある。ベテラン社員は「技術は盗んで覚えるものだ」という価値観の下で育ってきた。それに対し、いまの20代は少子化の中で親や学校の先生から手取り足取り物事を教わってきた世代。どうしても学ぶ姿勢は受け身になる。育った環境がまったく異なる両者のジェネレーションギャップを埋めるためには、工夫が必要だった。

諏訪氏はベテラン社員に対しては、「いまの若い子はこういう環境で育ってきているから、こちらから教えないとダメなんだよね」と何度も繰り返し語りかけた。するとある時ベテラン社員のほうから「いまの子は教えないとダメなんだよな」といい出すようになったのを聞いて「しめた!」と思ったという。 一方、若手社員には「わからないことがあったら、自分のほうからどんどん質問しなさい。質問されてイヤな顔をする人間は、うちの会社にはいないから。逆に頼られると、人ってうれしいものなんだよ」と語りかけた。こうして世代が異なる両者を、社長が自らつないでいったのだ。

1000分の1mm単位の精度が求められるゲージ製作の技術継承も進んでいる

新入社員の様子を
「交換日記」で把握する

同社において世代間ギャップを乗り越えるうえで効果的なツールとなっているのが、「交換日記」である。これは座学研修を終えて実際に工場で働き始めた新入社員に1ヵ月間、その日の業務内容や学んだこと、考えたことなどを大学ノートに自由な体裁で書いてもらうというもの。同社では新入社員の生活面での相談に乗る「若手生活相談係」や、ゼロから作業を教えていく「教育係」を置いているが、新入社員が提出した交換日記を、この若手生活相談係、教育係、諏訪氏の三者で回覧し、それぞれコメントを書き加えて本人に返している。

交換日記の本来の目的は、新入社員に対して温かい励ましやアドバイスを行うことで、入社間もない彼らの不安を解消することにある。他方、コメントを返す側にとっては、いま時の新入社員がどんな場面で悩み、つまずき、何を考えるものなのか、把握できるようになるというメリットがある。また、ひと口に新入社員といっても十人十色。性格も異なれば、業務に対する向き不向きもさまざまだ。そこで交換日記を通じて、それぞれの性格や資質を知り「彼は責任感が強いタイプだから、あまり仕事を押しつけると一人で抱え込みやすい。だから今後はこんなふうに育てていこう」というふうに、その後の指導に生かしているという。

こうして世代間のギャップを解消したうえで諏訪社長が目指しているのは、ダイヤ精機を「THE町工場」にすることだ。

「ベテランの社員には確かな技術や経験があります。また若手社員からは新たな発見やアイデアが出てくることが多いですよね。そこで何か問題が起きた時には、ベテランと若手が一緒に図面を囲み、ああでもこうでもないと知恵を出し合うのが当たり前の職場にしていきたい。それが私が考える理想の町工場です」

ダイヤ精機㈱


 ダイヤ精機㈱ 代表取締役社長の諏訪貴子氏

●設立:1964年

●資本金:1億8,700万円

●代表取締役社長:諏訪貴子

●事業内容:冷温熱鍛造用型・プレス型・治工具・ゲージ・精密部品・専用機・設計製作販売



CASE2
大川印刷

委員会活動を通じて
年齢や部門の壁を突き崩す

ベテランと若手が同じ立場で
会社のあり方を議論する

㈱大川印刷は1881(明治14)年創業の老舗企業。代表取締役社長の大川哲郎氏は六代目にあたる。

老舗企業というと離職率が低く、長年働いている社員が多いというイメージがあるが、同社も例外ではない。それは当然大きな強みである一方で、課題にもなり得るという。

「若い人が入社してみると、職場では何十歳も年上の人が働いている。『自分は一体いつ管理職になれるんだろう?』と思いますよね。また会社の中でやりたいことがあっても、年齢の壁にぶち当たって、なかなか実現できない。そのために若い社員が意欲をなくすようなことは、避けたいと考えていました」

そこで大川氏はこれまで、社員が年齢や勤務年数に関係なく、生き生きと働ける職場づくりに力を注いできた。その一つが2010年より取り組んでいる委員会活動だ。

これは部署内での業務とは別に、CSV委員会やみんなの幸せ向上委員会、品質保証チームといった委員会やチームを立ち上げ、社員に組織改革や業務改善についての検討・提案をしてもらうというもの。各委員会の委員長については、毎年幹部社員で適任者を検討し、本人の了解を得て選出される。

そして選ばれた委員長は、全従業員の前で「私は今年、この委員会でこんなことをやりたいと思います」とプレゼンテーションを実施。従業員はそのプレゼンを聞いたうえで、自分が所属したい委員会を希望できるというものだ。「委員長には若手が就任することもあります。またメンバーは正社員 だけでなく、パートも含んでいます。普段の部署の業務では、どうしても年功序列のピラミッドの中で仕事をすることになりがち。一方で委員会活動では、年齢も立場も所属部署も全部シャッフルして、全ての従業員が同じ立場で、会社をよくするためにはどうするべきかをみんなで議論します。これによって会社の中にある年齢の壁や部門の壁を取り払いたいと考えているのです」

社長が朝礼の場で
直接思いや狙いを語りかける

もちろん理想と現実は、常にギャップがあるものだ。ある若手が委員長を務めている委員会で、組織改革に関する前向きな提案を行おうとしたところ、一人のベテランが「それは無理でしょう」と否定的な発言をした。すると若手の委員長はその発言に引っ張られてしまい、議論が停滞するということが起きた。

こうした時には社長自らが朝礼の場で、そもそもなぜこういう取組みを行っているのか、その思いや狙いを全従業員に語りかけるようにしているという。

「うちの会社の理念は『喜びを分かち合えるものづくりの実現』ですよね。大切なのは、その実現に向けて、老若男女関係なくみんなで意見を出し合うこと。そんな中で後ろ向きな発言をするのは、理念に反することですよね」

そう訴えかけることで、理念や思いの浸透をはかっていくのだ。

同社ではこのほかに、同社のCSR活動を外部の人々を招いて報告する「CSR 報告会」の準備についても、メンバーが部門横断的に集まって行っている。これも「役職や年齢に関係なく、イベントを成功させるために、みんなで熱く議論を交わす場」になっているという。さらに今年度からは、世代や部門を超えたコミュニケーションを促進するために、就業時間後に従業員同士で飲食をした場合には、月に一度、1人3,000円を支給する制度も導入した。

「CSR活動の一環として実施している植樹活動も、従業員にとっては、年齢や部門を超えたコミュニケーションの場になっています。経営学の研究でも、従業員がプライベートの部分も含めて、普段からお互いによく語り合い、理解し合っている職場は、生産性が高いという研究結果が出ています。そうした職場を目指しています」

大川印刷もまた、社長が率先してジェネレーションの壁を突き崩そうとしている。

㈱大川印刷

 ㈱大川印刷 代表取締役 大川哲郎氏

●創業:1881年

●資本金:2,000万円

●代表取締役社長:大川哲郎

●事業内容:印刷業