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独自の技術力で勝負する

市場変化が目まぐるしい状況であるいま、図面どおりの製品を製造していればいいという時代ではない。多様化するニーズに応えるため、新しい技術や製品を開発したいところだが、そのためにどのような取組みをすればいいのだろうか。本特集では、中小のものづくり企業が独自の技術で価値を創造するための方法を探る

新技術・新製品開発に取り組んだ中小企業に聞いたメリットとデメリット

売り先が固定化すると
事業展開が行き詰まる

 近年の大手製造業は、グローバル化した競争環境での生き残りをかけて製品の高品 質化や多様化を模索しており、商品のライフサイクルも短縮している。それにともない 、部品メーカーなど協力企業に対する要求も難易度が高くなりつつある。単純な部品は 海外から安価に調達できるようになり、旧来のタイプの中小ものづくり企業の存在価値 は薄れているのが実情だ。

「経営が行き詰まっている中小企業に共通して見られるのは、自社製品や技術の売り先 が固定化されていることです」と話すのは、KHEコンサルティング代表兼KHE国際 特許事務所所長の小西頴さとし氏。多数の中小企業の技術開発を支援している小西氏は 、特定の技術が単体で求められることは近年めっきり減少しているという。

「納入先の事業内容が刻々と変化している以上、保有する技術を新しい分野へ応用や転 用ができるよう考えるべきですし、市場を広い分野に求めることも重要です」

 そのためには、自社の固有技術をどう応用すれば新技術や新製品の開発に結びつけら れるか、日頃から追求する姿勢が欠かせない。経営者は技術系の展示会などに積極的に 足を運んで世の中の潮流を把握するとともに「この製品をよりよくするには、自社の技 術をどのように改良して提供するべきか」という視点を持つことが大切だと小西氏はいう。

“出口”までしっかり見据えた
事業計画が開発を成功させる


3つのステージ

 いくら独自技術や製品の開発に成功しても、売り先がなければビジネスは成立しな い。小西氏によると、技術開発に積極的な中小企業は「開発先行型」が多く、市場開拓 は後手になりがちな傾向があるという。マーケティング戦略も開発計画と同時に立案す るべきだと指摘する。

「研究・開発プロセスは、市場ニーズなどを探る『入口ステージ』、実際に研究・開発 を行う『事業開発ステージ』、ビジネスモデルを軌道に乗せて利益を確保する『出口ス テージ』の3ステージで構成されます」

 経営者はこの3つのステージに即した事業計画書を策定し、プロジェクトの進行状況 に応じて計画書の中身を逐次アップデートすることが必要だ。それなくして、的確な設 備投資や人材の投入をすることはできないという。また、自社の発案によるオリジナル 案件とは別に、大手メーカーの協力会社として新技術の開発を要求されるケースもある 。その場合、もちろん依頼内容に対して確実に応えることは重要だが、発注する側がど のような協力企業を高く評価するのかを知っておくことも大切だ。

「大手メーカーは『低コスト』『ハイスペック』『ハイスピード』で新規開発を行おう としますから、その要求にどれだけ貢献できるかがポイントです。また、既存技術の転 用ではできない開発をする時には高い技術力を持つ協力会社を必死で探しますから、そ こで有用な提案ができれば、厚い信頼を勝ち取ることができるはずです」

 かつて大手メーカーの技術者として半導体装置の試作開発に携わった経験のある小西 氏は、東京都大田区の町工場に相談した際、的確なソリューションを発案する提案力に 加え、「その技術ならあの工場にある」というように、試作開発に必要な解決手段を有 する複数の工場をコーディネートしてくれた企業に強い魅力を感じたという。ものづく り企業にとっては、そうしたネットワークを有していることも大きな強みとなる。

バランスのよい事業展開で
経営の安定化をはかる

 いざ、新しい技術が開発できれば、新技術は会社にとって大切な知的財産となるが 「技術を公開することになる」などの理由で特許を取得しない企業が少なくない。

「他社に新技術を利用されるのは特許の申請内容が容易に特許侵害を回避できる記載と なっているからです。的確な技術内容の出願をすれば、その特許技術の利用によってラ イセンス料を取れます。特許出願時には技術経験の豊富な弁理士に相談するといいでし ょう」と、小西氏はアドバイスする。

 多くのものづくり企業には、これまで会社を支えてきたコア技術がある。それを単な る技術のままにしておくのではなく、自社ならではの「コアコンピタンス」にまで高め られるかどうかが、いまの時代には必要だ。

 また、一度新技術・製品の開発に成功したからといって、慢心してはいけない。なぜ なら、ニーズは急速に変化するからである。小西氏によれば、成功しているものづくり 企業の多くは、6割が「ルーティンワーク」、2割が「新規開発」、2割が「近い将来 、終了させる分野」という内訳で成り立っているという。このバランスは、自社の事業 が市場のニーズに即しているかどうかを測るための大きな目安となるはずだ。

 次からは、独自の技術を応用して市場で優位なポジションを獲得することに成功した 企業の開発事例を見ていこう。

新技術・新製品開発を成功させるために重要なこと

小西頴(こにし・さとし)

KHEコンサルティング代表、KHE国際特許事務所所長、弁理士。大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻修了(工学博士)後、㈱東芝、シュルンベルジェ㈱などで研究開発部門のプロジェクトリーダー、所長、事業開発プロジェクトマネージャーを歴任。


CASE1
カナメ

多様なニ ーズに応える
柔軟な研究開発体制

軽量かつ耐久性に富む
新しい屋根材を模索

 栃木県宇都宮市に本社を置く㈱カナメは、金属屋根の製造・販売・施工を事業の柱 としている。1971 年に同社を設立した現取締役会長の渡部渉氏が78年に開発したのが、 純和風金属瓦「カナメルーフ」である。瓦を6枚綴りにしたこの製品は、施工の手間を 省き、継ぎ目の少なさが雨漏りを防止するといった多くのメリットを備え、同社の最初 のヒット作となった。 「当時の主な用途は一般住宅でしたが、耐久性の高い『カナメルーフ』は社寺の屋根材 として注目されるようになりました」と話すのは、マーケティング部課長の越雲聡明氏 。  同社は全国の社寺の屋根改修需要を見越し、社寺事業部を設立。主に銅板で屋根改修 を行っていたが、お客さまから耐候性、意匠性への要望が相次いだ。

 そこで注目した素材がチタンである。鉄鋼並みの強さを持ち、腐食もしづらいチタン は、見た目も土瓦の風合いに近く、社寺の屋根材として理想的だ。業界初となるチタン 成型瓦の完成を目指し、当時社長だった現会長の指揮下、数名の技術スタッフからなる 開発プロジェクトがスタートしたのは2001年のことだった。

数年に及ぶ試行錯誤の末
チタン瓦の開発に成功

 開発過程で直面した最大の課題は、曲げても元の形に戻ろうとするチタンの性質で ある。それを克服するため、金型の設計を何度も変更し、数十万回に及ぶ試験を繰り返 して、プレス時の最適な圧力と潤滑剤の組合わせによる新しい技術を追求した。

「開発の支えとなったのは『これが成功すれば社寺建築に革命を起こせる』という会長 の情熱でした。ブレークスルーが起きたのは、研究着手から数年後のことです。開発途 中の加工品を目にした素材メーカーの担当者が『チタンをここまで加工できるとは』と 驚き、より軟度を高めたチタンを開発してくれたのです」

 その素材によってさらに加工の自由度が上がり、06 年に「チタンカ ナメ段付本瓦葺き」が完成。全国の社寺にDMを送付して宣伝したところ、宝蔵門の屋 根改修を計画していた浅草寺(東京都)から引合いがきた。チタン瓦の厚さはわずか0.3 ㎜。宝蔵門の屋根重量は約8分の1となった。その耐久性と仕上がりの美しさを評価し た浅草寺は後に本堂にもチタン瓦を使い、東日本大震災の揺れを受けても1枚も落ちる ことがなかった実績から、17年には五重塔の屋根改修にも採用した。

 同社のチタン瓦は全国的に注目されるようになったが、素材が高価なため、都市部の 社寺が中心だという。 「過疎化で維持が困難になっている地方の社寺にこそ、一度施工すればメンテナンスコ ストがほとんどかからないチタン瓦を利用してほしいと考え、現在は形状をある程度規 格化することで採用しやすい製品バリエーションも用意しています」と越雲氏はいう。

 同社によると、国内には約7万もの寺院があるといい、その広大なマーケットに柔軟 な姿勢で対応しているのも特長といえるだろう。

チタン瓦は土瓦の風合いを持ちながら、機能性を高めている

新しい製品を生み出すために、技術開発に注力している

部門の枠を超えて
全社員のアイデアを結集

 その後も、限られた屋根面積を最大限に有効活用でき、施工工程も大幅に省ける、 屋根と太陽電池を一体化させた「カナメソーラールーフ」をはじめ、数々の独創的な製 品を生みだす新技術を開発。そんな同社の原動力となっているのが、社員による活発な 提案活動だ。

「毎月1回、間接部門も含む全社員が新製品や販促法などに関するアイデアを提案して おり、そこから特許取得や商品化に至るケースも少なくありません」

 栃木県大田原市の那須工場にはR&D部門が併設され、金属や太陽光エネルギーなど の専門知識を有する研究員が多様な研究開発を行い、産学官連携の研究プロジェクトも 推進。案件によっては各部門の社員も参画し、施工現場の声が技術開発に反映されると いう。

「失敗に終わる開発案件も多数ありますが、常に技術革新をし、新製品や新市場を生み だし続けるのが当社の使命だと思っています」

 そうした経営理念に基づいて同社が掲げる社訓は、「創意挑戦」。「チタンカナメ段 付本瓦葺き」で「ものづくり日本大賞経済産業大臣賞」(07年)を獲得するなど、同社 の技術力の高さは折り紙付きだが「今後も手を緩めることなく新技術開発に取り組んで いくつもりです」と越雲氏は力強く語った。

(株)カナメ

マーケティング部課長の越雲聡明氏


●設立:1971 年

●資本金:8,800 万円

●代表取締役社長:吉原正博

●事業内容:一般住宅外装・内装リフォーム、大型建築物の屋根施工、社寺建築の金属屋根開発・製造・販売・施工、太陽光発電システムの開発・製造・販売・施工およびシステムの流通販売、太陽光発電事業

CASE2
エリオニクス

社内の技 術力を結集して
最先端の研究装置を開発

研究者のニーズに応える
産学連携事業を推進

 東京都八王子市の㈱エリオニクスは「電子ビーム描画装置」や「三次元粗さ解析走 査電子顕微鏡」など、微細加工装置や測定装置を開発する企業だ。「科学技術の進歩に 貢献したい」と、大手精密機器メーカーを退職した7名の技術者が1975年に創業。日本 の半導体製造の黎明期に大手メーカーと共同で電子ビーム描画装置の開発に取り組み、 当時世界最小レベルの描画精度を実現した。以後、メーカーへの装置提供で国内半導体 産業の発展に貢献してきたが、バブル崩壊の影響を受けて売上げが半減してしまう。

「それを機に当社は、ナノテクノロジーを研究する研究機関と連携し、大学などの研究 で必要とされる装置の開発に乗りだすようになりました」と語るのは、代表取締役社長 の岡林徹行氏。研究者のニーズをキャッチして産学連携の技術開発に軸足を移すように なった同社は、薄膜や極表面層の硬さを測定をするための「超微小押し込み硬さ試験機 」、物質表面に働く微小な力を計測するための「表面力測定装置」など、世界からも注 目される技術を駆使して研究のための装置を開発してきた。日々の技術開発と研究によって、世界から注目される製品を世に送り出している

「開発品の多くは、バージョンアップしながらシリーズ製品化されます。当社が最初に 開発した電子ビーム描画装置も改良され、現在の最上位機種の描画線幅は5nm以下と世界最小レベルの技術を誇ります」

 1㎝角の領域に100万本以上もの線を描けるこの装置は、次世代大容量ハードディスク などの研究開発にも用いられ、同社の研究用電子ビーム描画装置は国内シェアの約8割 を占めているという。

ENT-NEXUSとELS-F125

高度な開発力を支える
独自の人材育成ノウハウ

 部品製造を協力企業に外注する同社は組立てのみを行うファブレスメーカーで、多 様な開発ニーズに応えることが命脈といえる。それだけに、若手技術者の育成に独自の ノウハウを有しているのも同社の特長だ。

「企画力や技術力、さらには顧客対応力を総合的に養うため、入社2〜3年目の社員に 開発案件の主担当を任せ、設計から納品までの全体をマネジメントさせています」

 約100名の社員のうち、実際に開発に携わる技術者は30数名。プロジェクトごとに電気 、機械、コンピューターなどを専門とするスタッフがチームを組み、若手の主担当が先 輩技術者のフォローを受けながら、試行錯誤して装置をつくり上げる。

 ベテランが主導すれば開発はスムーズに進むが、それでは次代の成長が立ち遅れる。 開発効率と人材育成のどちらを優先するかは大きなジレンマだが、若いうちから責任あ るポジションを任せることは同社の長年の伝統だ。まだ世の中に存在しない装置を開発 し得る高い技術力は、そうした企業風土に支えられている。

グローバル展開で
経営環境の変化に対応

 同社は90年代以降、大学をはじめとした国内の研究機関をマーケットの中心に据え てきたが、ここにきて再び市場戦略の見直しを迫られているという。

「当社の主要な取引先である大学が、研究費の予算削減を余儀なくされるようになりま した。今後、国内市場が飛躍的に伸びることは期待できないことから、最近は海外への 販売に注力しています」

 海外からの引合いはこれまでもあり、アメリカやアジアに代理店を設けていたが、最 先端の研究が活発なことから特に市場の大きいアメリカと中国での販売力を強化しつつ ある。グローバル市場では先行するドイツの装置メーカーが強力な競合だが、エリオニ クスの製品は性能の高さに加えて故障が少ないことから評価が高く、電子ビーム描画装 置はアメリカのハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などでも活用されていると いう。

「これまで海外では基本的に既製品の販売のみでしたが、今後は国内の産学連携による 開発と同様、各国のニーズを受けて新規開発品や特注品を受注することも考えています 」と岡林氏は語り、「最高の顧客満足を提供する世界ブランドの企業を目指したい」と 意欲を燃やす。

 40年以上にわたって蓄積されてきた豊富な知見と、創造性に溢れる技術者を育成する 土壌を持つ同社は、持ち前の技術力でそのフィールドを国内から世界へ大きく広げよう としている。

(株)エリオニクス

代表取締役社長の岡林徹行氏


●創業:1975 年

●資本金:2億7,000 万円

●代表取締役社長:岡林徹行

事業内容:電子・イオンなどの粒子線、および光・X線などの電磁波に関する技術を応用した各種機器・システムの研究・開発・設計・製造・販売・技術提供・輸出入・ 保守サービスなど