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1億人を共鳴させる商品づくり

1億個以上売れる商品を手がけている企業は、何に着眼し、何を大切にしながら、商品開発や販売促進を行っているのだろうか。多くの人の心をつかむ商品づくりとはどのようなものかを探っていく。

売れる商品を生み出すマーケティングサークル

潜在ニーズをつかまないと
ヒット商品はできない

世の中には、累計で1億個以上売れているような誰もが知っている大ヒット商品が存在する。そしてその商品を手がけているのは、中小企業である場合が少なくない。では1億個以上売れる商品は、どうすれば生み出すことができるのか。

「全ては顧客の潜在ニーズをつかむことから始まります」

そう語るのは、さまざまな業界で新商品や新サービスの立ち上げに携わってきた㈱ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役の山本康博氏。

潜在ニーズとは、簡単にいえば顧客自身も気が付いていない心の奥底にあるニーズのこと。店頭で目にするまでは、ほしいとも何とも思っていなかったが、目にした途端に「そうそう、それがほしかった!」と思わず口にしてしまう商品。そうした顧客の潜在ニーズを捉えた商品であることが、大ヒット商品になるための条件であると山本氏は語る。

「すでに顧客自身も気付いている新しいニーズについては、競合もすでに商品化を進めていることが多く、どうしても後追いになってしまいます。また顧客にとっては、新商品が出ても驚きや新鮮さがありません。ですからヒット商品にするのは難しい。一方、潜在ニーズを商品化できれば、顧客に『なるほど!』という驚きを与え、さらに競合には『そうか、その手があったか!』と思わせることができます。世の中にこれまでなかった商品を生み出すわけですから、新しい市場をゼロから自分たちで創出していくことも可能になるのです」

文句を集め、つなぎ合わせ
商品アイデアにしていく

では大ヒット商品を生み出す「顧客の潜在ニーズ」は、どうすればつかむことができるのだろうか。山本氏は「方法はいくつかありますが、一番のおすすめは、顧客から文句を聞き出すことです」と語る。

ヒットの法則

私たちが商品やサービスを求めるのは、それを消費することで何らかの満足を得たいからだ。ところが商品を使ってはいるが、満たされない「何か」を感じている場合、その「何か」を探りあてることが、ヒット商品を生み出すヒントとなる。

「そもそも人は長所を見つけることよりも、文句を探すことのほうが得意なものです。そこで数人を集めて、ある商品についての文句を自由に出してもらいます。すると文句をいい合ううちに、思いが増幅されて、それまで本人も気付いていなかった新たな文句が思わず口をついて出てくることがあります。それが顧客が心の奥底で求めている潜在ニーズの発見につながるわけです」

文句は、とにかく数をたくさん集めることが大事。そして数多く出てきた中から、複数の文句を抽出して組合せ、その文句を一気に解決できる方法を考えることで、顧客の予想を超えた商品アイデアを生み出すことが可能になるという。

例えば顧客に、コーヒーについて文句をいってもらったとする。「近くにカフェがない」「カフェはあるけど値段が高い」「缶コーヒーは安いけど香りが物足りない」……。こうした複数の文句を一気に解決するために出てきたのが、コンビニコーヒーだった。事実、コンビニコーヒーは大ヒットとなり、新たな市場を創出している。

「できない」ではなく
「どうすればできるか」

山本氏は顧客の潜在ニーズを探りあて、それを商品化しようとする場合、技術や販売チャネル、法規制、製造コストなど、さまざまな壁に突きあたるものだという。しかしそこで「できない」と判断すると、1億個売れる商品をつくるのは不可能になる。その商品が本当に顧客の潜在ニーズを捉えたものであるのなら「できない」ではなく「どうすればできるか」という発想に立つことが大事だ。故スティーブ・ジョブズも、さまざまな開発者たちの「それは技術的にできない」という声と戦いながら、iPhoneを生み出していった。

「商品を開発する際には、会社の通帳の残高もいったん頭から外す必要があります。利益の確保を優先すると、最初から商品づくりで妥協することになり、中途半端な商品しかできなくなってしまいます。お金の計算はもちろん大切ですが、まず顧客から喜ばれる商品を追求したうえで、次にコストとの両立の実現を考えるのです」

こうして商品が開発されても、それで終わりではない。山本氏は商品の売上げを伸ばすためには、前ページにあるマーケティングサークルの8つの要素をバランスよく整えることが重要になると語る。「ネーミング」「パッケージ」「中身」「価格」に一体感があり、その商品イメージにあった販売促進策や広告が打てているとき、その商品は顧客の心をつかむことができる。特に「ネーミング」と「パッケージ」は重要な鍵になるという(下記コラム参照)。

「商品の改善も大事です。世の中は常に動いており、顧客のニーズもどんどん変わっていきます。事実1億個売る商品を開発している会社は、商品の小さなリニューアルを常に怠っていないものです」

では次に、実際に顧客の潜在ニーズをつかみ、さまざまな壁を突破して1億個以上売れる商品を世に出した会社の事例を紹介しよう。


売れる商品はネーミングとパッケージで決まる?

山本氏が提示する「8つのマーケティングサークル」。この8つの要素の中で特に大切なのが、ネーミングとパッケージだという。
「ネーミングで全体の売上げの5割、パッケージで3割、両方合わせて売上げの8割が左右されるといってもいいすぎではありません」
ネーミングは商品の顔。名前を覚えてもらうことで「お茶なら○○を買おう」「洗剤なら○○を買おう」というように、目的買いをしてもらえるようになる。商品のイメージに合致し、なおかつインパクトがあって記憶に定着しやすい名前を、探し出していくことが大切だ。
一方、パッケージは、顧客が商品に興味を持ち、手にとってもらうために重要な要素となる。たとえどんなにいい商品でも、見た目で好印象を抱かせないことには買ってもらえない。
「顧客はパッケージを見て、一瞬で好き嫌いを判断します。見ているうちにだんだん好きになってくる類いのデザインではなく、一目惚れしてもらうことを目指す必要があります。またデザインを吟味する時には、実際に商品を棚に並べてみて、買い物をしている顧客の視点からどのように見えるかをチェックしてみることが大事です」
ネーミングとパッケージは、商品開発の肝となる。納得いくまでベストを尽くし、ぜひとも1億人が共鳴するようなヒット商品を生み出してほしい。

山本康博(やまもと・やすひろ)

(株)ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役。

1987年㈱伊藤園へ入社。

2年連続で日経ヒット商品番付に選ばれた「ぎゅっと搾ったレモン水」や「充実野菜」などを企画開発。その後、日本コカ・コーラ㈱、日本たばこ産業㈱へ移り、数々のヒット商品開発に携わる。2006年に独立後は、化粧品、医薬品、アルコール飲料など、さまざまな業界で新商品開発、マーケティング業務に携わる。著書に『ヒットの正体“そうそう、それが欲しかった”1億人を動かす「潜在ニーズ」の見つけ方』(日本実業出版社)がある。

CASE1
グライド・エンタープライズ

女性の心をつかんだ
普段使いのフェイスマスク

アジア市場をヒントに
商品アイデアを得る

ルルルンプラス・厳選素材ネイチャーケアマスクシリーズ(左上)、ルルルンプラス・精油配合アロマケアマスクシリーズ(右上)、もっちり高保湿タイプの青のルルルン(左下)、バランスうるおいタイプのルルルン(中下)、さっぱり透明感タイプの白のルルルン(右下)

女性が顔のスキンケアのために使うフェイスマスク。近年、このフェイスマスクの市場で大ヒット商品となっているのが、(株)グライド・エンタープライズ(東京都渋谷区)が手がけた「ルルルン」ブランドだ。2011年7月に発売された同商品は、わずか4年後の15年11月には、シリーズの累計販売枚数が3億枚を突破した。

「ルルルン」がこれほど売れているのには理由がある。これまでフェイスマスクは、美容液が主流で、価格も1枚1,000円以上もする高価なものが多かった。一方「ルルルン」は化粧水のフェイスマスクで、レギュラータイプの商品の場合、42枚入りで1,500円と格段に安い。従来フェイスマスクは特別な日に使うものだったが「ルルルン」はそれを普段使いができるものにしたのだ。

同社が「普段使いができる化粧水のフェイスマスク」という商品アイデアを得ることができたのは、アジア市場にヒントがあったという。代表取締役の山口道元氏は次のように語る。

「中国や台湾などのアジアの女性たちの間では、化粧水のフェイスマスクを日常的に使う習慣があります。確かに化粧水を普通に手にとって顔に塗布するよりも、フェイスマスクでつけるほうが、肌への浸透率は高い。また化粧水のフェイスマスクであれば、高品質でありながら、価格的にも手頃なものを実現できます。デイリーケアのためのフェイスマスクというコンセプトは、日本の消費者にも受け入れられるのではないかと考えたのです」

ユーザーの声を聞きながら
商品改善を繰り返す

スペシャルケア用シリーズ、ルルルンONE

同社は元々、セールスプロモーションなどを手がける広告代理店だった。だが11年3月に発生した東日本大震災によって、広告関係の仕事が激減したため、ちょうど立ち上げたばかりだった美容関係の通販サイトの運営に事業を特化することを決断。その通販サイトの中で、売上げが好調だったのが廉価な業務用フェイスマスクだった。 そこでフェイスマスクのPBブランドを開発しようということになり、生まれたのが「ルルルン」だった。

「ルルルン」は、当初は同社の通販サイトのみで扱っていたが、12年1月より一般店舗での販売も始めたところ、ある店舗で即日完売を記録。多くのバイヤーが「ルルルン」に注目するようになり、そこから完全に人気に火がついた。

執行役員の加賀忠聡氏は、これまでの歩みを「私たちは化粧品の製造や販売については素人。とにかく走りながら道を見つけていきました」と振り返る。

例えば同社では「ルルルン」の生産にあたって、業務用フェイスマスクを製造してきた四国のOEM工場に提携を依頼した。化粧品に関する何の実績もない同社が、いきなりOEM工場に連絡をしても、門前払いをされる可能性は高かった。しかし足繁く工場に通い、通販サイトでのフェイスマスクの売れ行きの状況や、どんな価格帯でどういう商品を売りたいかというイメージを全てオープンに伝えることで、相手からの信頼を得て、提携を快諾してもらえた。未知の世界に、躊躇せずに飛び込んでいくことで新たな関係を築き、壁を切り崩していったのだ。

加賀氏はまた「お客さまからも道を指し示してもらいました」と語る。

同社ではユーザーからの声をとても大切にしている。ネット上の口コミサイトやカスタマーセンターの開設はもちろんのこと、直接対面でユーザーに「ルルルン」の使用シーンや使い勝手について話を聞く機会を多く設けている。そしてそれを商品改善につなげている。

「商品のリニューアルは、多い時には1年に3回行いました。実は発売当初のパッケージは、チャック付きのアルミ袋だったのですが『取り出しにくい』とか『マスクを広げにくい』といったお客さまの声を受けて、いまのような箱形の形状に改良したのです。リニューアルとなると、製造ラインや部材の変更などさまざまなコストが発生しますが、コストよりもお客さまの満足度向上を優先させています」(山口氏)

当然、現在の「ルルルン」も完成形ではない。ユーザーの生活スタイルが変われば、商品に対するニーズも変わっていく。その変化を敏感に読みとりながら、これからも「ルルルン」を進化させていきたいと、同社では考えている。

(株)グライド・エンタープライズ

代表取締役の山口道元氏

●設立:2009年

●資本金:900万円

●代表取締役:山口道元

●事業内容:コスメの販売代理業、広告代理店業、各種プロモーション事業

CASE2
チロルチョコ

1年間で約6億粒売れる
国民的チョコレート

コンビニで全国展開
新たな購買層を獲得する

左から1979年の発売以来、変わらない味で人気の高いコーヒーヌガー、濃厚でまろやかなミルククリームが楽しめるミルク、発売から12年で15億5,000万粒を販売したきなこもち、今年2月に発売されたばかりのオーストリアのお菓子「モーツァルトクーゲル」を再現したモーツァルトチロル

コンビニのレジ横商品として、いまやすっかりおなじみとなったチロルチョコ。2015年の製造実績は、なんと約6億粒に達している。

だがチロルチョコは、かつては全国展開されていなかった。いまのように全国のコンビニで扱われるようになったのは、1991年に代表取締役社長に就任した松尾利彦氏の手腕によるものだ。

松尾氏は、都市部を中心にコンビニが増え始めた70年代後半から80年代前半の時点で「これからはこういうお店が小売業の主流になっていくのだろうな」と直感していた。

一方、駄菓子屋は店主の高齢化が進んでおり、後継者の問題を考えれば、やがて廃れていくことが予測できた。となれば、販売チャネルを駄菓子屋だけでなく、コンビニにまで広げていく必要がある。そこで松尾氏が始めたのが、三拡運動(販売チャネル、販売エリア、購買層の三つの拡大)だった。

「駄菓子屋には子どもしか来ませんから、当時チロルチョコを買っていたのも子どもたちでした。しかし、コンビニの購買層は大人です。販売チャネルを広げれば、当然購買層も変わっていきます。ただし私は以前から、子ども向けのチョコレートをつくっているという意識はありませんでした。味はもちろんパッケージのデザインも、大人の鑑賞に耐えられるものであるという自信があったのです」

大人が購買層の中心であるコンビニで展開しても、きっとそこに潜在ニーズがあるはずだと松尾氏は考えていたのだ。

当時福岡に本社を構えていた同社は、営業所が西日本にしかなかった。そこで三拡運動の一環として、名古屋や東京に営業所、札幌や仙台、新潟などに出張所を設置。

ただし、必要以上にお金はかけられない。出張所といっても、現地採用をした社員の自宅をオフィスにしたものだった。

そして営業担当者がコンビニへの売り込みをかけたが、コンビニは一粒サイズのチョコレートを扱った実績がなかったため、当初はなかなか首を縦に振ってくれなかった。 そんな中で壁をこじ開けたのが、北海道の営業担当者だった。あるコンビニから「北海道エリア限定なら、テスト販売をしてみてもいい」という話をもらえたのだ。

「当時の営業担当者たちががんばってくれたおかげです。私はテスト販売にまでこぎ着ければ、きっと売れるはずだと思っていましたが、本当に売れるかどうかは実際にやってみないとわからない。半年後、きちんと結果が出て、全国展開されると決まった時には『やれやれ、これで何とか当社もやっていける』とホッとしましたね」

アイデアを製品化するために
設備投資を惜しまない

毎年20~30種類の新商品を発売しているチロルチョコレート

現在、同社ではコンビニや総合スーパー各社の求めに応じて、年間20~30種類の新商品を開発している。消費者としてはお店に行くと、いつも違うチロルチョコの商品が売り出されていて、ちょっとした非日常感を味わえるところが魅力になっている。

「当社の一番の強みは、さまざまな味のバリエーションをスピーディに製品化できるところにあります」 その強みを支えている要素の一つが、設備投資を惜しまないことだ。チョコの中に入れる材料によっては、従来の機械では製造できないものもある。そのような時には機械そのものを新たに開発する。こうした設備投資を繰り返したことで、いまでは多様な商品に対応できる製造ラインができあがったのだ。既存の設備の中でできる商品をつくるのではなく、アイデアを製品化するためには設備投資を惜しまないことが、同社が魅力的な商品を次々と生み出す源泉となっている。

また、松尾氏は「商品開発にあたって、マーケティングはしません」と語る。

「市場調査の結果をもとに商品開発をしても、社員はその商品に思い入れが持てず、つくらされているという感覚になります。そうではなくて、自分たちがワクワクし、愛情を込められる商品を生み出していきたい。そのワクワク感や愛情がお客さまに伝わり、手にとっていただけるのです。中小企業だからこそ、そうした姿勢を大切にしていきたいと考えています」

同社が愛をこめてつくっているチロルチョコレートは、1年間で約6億粒近くも売れる国民から愛される商品にまでなっている。

チロルチョコ(株)

代表取締役社長の松尾利彦氏

●設立:2004年

●資本金:5,000万円

●代表取締役社長:松尾利彦

●事業内容:チロルチョコの企画・販売